12

時刻は午後21時過ぎ。
ゲーム機の準備は完璧。飲み物もオッケー!
ネットに繋がってんのを確認してSkypeを繋ぐ。


「わり、遅くなった!」
「自分で言い出した癖に時間を守らないとは」
「てめぇが買わせたんだろ。時間くらい守れ」
「だからわりーって!謝っただろー?」
「毎回数分遅れんのが悪いやろ」
「だーかーらーちょっとだけじゃん。っとそれよりG級解放のクエストなんだった?」


数分って言っても五分は経ってねえし、日吉達が細かすぎるんだよ。
いつまでもそんな話してらんないからさっさと話を進める。
モンハン4Gの発売に合わせて俺達もソフトを手に入れた。
4も俺のゴリ押しで買わせたから海堂はあぁやって文句を言ってきたんだろ。
なんだかんだ文句言いつつ、越前とか菊丸さんとか桃城とモンハンやってんのは知ってんだからな。


「ウカムルバスだ」
「げ、マジか」
「アカムおって4におらんかったらウカムやろってネットで予測出てたわ」
「そんなに強いヤツなのか?そのウカムルバスってのは」
「ATMに比べりゃ強い」
「ATMってのはアカムのことな」
「どんなモンスターなんだ?」
「でかい、アゴ、飛べない飛竜、後なんだ?あ、白い」
「全然参考にならねーじゃねえか」
「アカムの氷版みたいなもんやろ。弱点は龍か火。後はホットドリンクと消散剤必須な」
「んじゃ俺のから行こーぜ!ハンターランク俺が一番高いし!」
「アホ、Z順にってこないだ決めたで」
「はぁ?って俺が一番最後じゃん!」
「馬鹿め、遅かったお前が悪い」
「ほんなら日吉からZ順で海堂俺切原の順な」
「げ、ダリー」
「さっさと準備しろ」
「切原何の武器で行くん?」
「俺?双剣!やっと麻痺の理想出たんだぜ!」
「それ切れ味が理想やなかったって丸井先輩が呟いとったけど」
「じゃあ理想は間違いだな。海堂は何で行くんだ?」
「俺はまだ大剣しか使えねえ」
「ほんならアゴ壊すの頼むわ。んで俺はライトで行く。日吉は?」
「操虫棍で行こうかと思ってる。でかいなら乗った方が楽だろ?」
「お前いつの間に操虫棍なんて作ったんだよ!」
「向日さんとやってるからな」
「ついこないだまで初心者だったのに」
「いつの話してるんだ。結構前の話だろ」
「メシ食ったら行くで。さくさくやらんと終わらへん」
「じゃ、行くか!」


丸井先輩には後から文句言っとくとして、今はウカムに集中だ。
自分が理想武器出てねぇからってさぁ。
個人情報漏洩だろー。
海堂は龍属性の大剣だし、日吉は火属性の操虫棍だ。んで俺が麻痺らせて後は財前が何とかするだろ。


「あ、眠らすわ。大樽爆弾追加で」
「俺が溜め三で起爆すればいいんだよな?」
「失敗すんなよ海堂ー!」
「海堂のこと煽って無いでお前はちゃんと大樽持ってけよ」
「前回忘れた戦犯やったしなぁ」
「だー!今日はちゃんと持ってくって!」


日吉も海堂も人の失敗いつまでも覚えてるからなぁ。うっぜ。まぁ、俺も似たようなもんだけど。
アイテムポーチに大樽爆弾を追加してメシ食ってクエストを受注する。
ホットドリンクも持ったし強走薬グレートも持った。
お、今日は完璧じゃね?
画面が暗転してG級解放のためのウカムルバス討伐のクエストが始まった。


「あ、消散剤忘れた」
「馬鹿か!」
「お前、それダルマになってから言うなよ」
「アホやな、待っとき」
「財前サンキュー」
「一個貸しや。次のクエスト持って来んかったら放置で」
「賛成する」
「一回くらい死んでも問題ねえな」
「お前ら冷たすぎじゃね!」


大樽持ってきたんだから消散剤忘れたくらい良くね?
雪やられでダルマになってから報告したら呆れた声が返ってきた。
即座に財前がライトで俺を撃って雪ダルマ状態から解放される。よし研ぐかって、あ!ウカムが潜ったや。やっべ!こっち来てんじゃねーか!


「これどうするんだ?」
「あー切原に向けて行っとるから放置で」
「俺、研ぐところだったんだけど!」
「あぁやって走って回避すれば大丈夫。自信無い時はモドリ玉やな」
「盛大にひかれたな」
「あーまぁどうにかなるやろ」
「話してねえで粉塵!死ぬ!」
「はいはい」
「手のかかるヤツだ」


お手本見せてやってんだろ!
研いでたせいでワンテンポ逃げんのが遅れた。
そのせいでウカムにひかれた。こんなの単なる事故だ事故。
三人いっぺんに粉塵を飲んでくれたおかげで体力は即座に回復。
もうちょいで麻痺るからその後で日吉に乗ってもらうか。


何とか誰も乙らないで一匹目のウカムを討伐。
後三匹も狩らなきゃなんないなんてはっきり言って地獄だろ地獄。
まぁ俺達ならサクッと勝てるだろーけど。
今頃丸井先輩はジャッカル先輩と仁王先輩と4Gから始めた柳生先輩の介護してんだろなぁ。
俺はこっちで良かった。今更誰かの介護とかマジ面倒だし。さっさと後三匹借りますか。


「あーマジダルい。あ、これもうすぐ麻痺るわ」
「その後直ぐに乗る」
「アゴ壊れたぞ」
「ほんならちゃっちゃと眠らすわ」


武器が被ってねえのもあるけど、俺らはちゃんと役割分担出来てんだよな。
まぁ丸井先輩達とやっても出来てるけど。
俺のG級解放クエスト。最後のウカムが倒れる。
ゼロ乙で乗りきってやったぜ!
明日丸井先輩に自慢してやろ。
どうせあの人達は今日中には無理だろうしな。
ウカムの素材を剥ぎ取ってると、チカチカと画面が点灯し始めた。
は?充電しながらだぞ?なんだよ急に。


「おい、なんだこれ」
「画面がおかしいぞ」
「だんだん点灯が速なっとる」
「お前らもかよ」
「切原のクエストの時で良かったかもな」
「てめえ!後からやり直しになるだけだぞ!」
「おい、おかしいぞ。視界全部眩しい」
「なんやこの光」


画面の点灯がだんだん速くなって画面が真っ白になっていく。
その光があまりに眩しくて思わず目を閉じちまった。
聞こえるはずのアイツらの声は何故か全く聞こえない。
電波でもおかしくなってんのか?
げ、本当に俺のクエストだけやり直しじゃねーか。
そんなことを考えてたら意識がぷつりとブラックアウトした。


***


「おい、いい加減起きろ切原」
「寝すぎやろ」
「寝顔も馬鹿面だ。こんな寝心地の悪いところでよく寝てられるな」
「あ"?」


人が気持ち良く寝てんのに誰だよ。
しかもなんかぜってーに悪口言ってた気がする。
意識がはっきりとしてきたところで目を開けるとそこには見知った三人が俺の顔を覗きこんでいた。


「は?お前らうちで何してんだよ」
「馬鹿め、どこからどうみてもお前の家ではないだろ」
「はよ起きて周り見てみ」
「つーか、何その格好。揃ってモンハンのコスプレかよ」
「自分もじゃねえか」
「はぁ?」


しかもその装備、ウカム討伐に行ってたやつじゃん。凝り過ぎ。
笑ってやったのに三人は何故かノリが悪い。
しかも俺まで同じ格好してるとか言いやがる。
仰向けに寝転んだまま自分の手を確認すると籠手が着いたままだった。


「げ、マジかよ」
「だからそう言っとるやろ」
「はぁ?どこだよここ。つーか財前が何で。お前大阪だろ?」
「大阪におった。日吉も海堂も自分の家におったらしい」
「俺だって神奈川に居た、はず」


呑気に寝転んでる場合じゃねえな。
体を起こして周りを見るもさっぱりだ。
見覚えの無い部屋に四人揃って転がされてたってわけ。
普通の部屋じゃなくて儀式的な部屋って感じ?
俺達の下には何やらよくわかんねぇ言葉で魔方陣みたいなのが書いてある。


「もしかして異世界転生ってヤツ?」
「ネット小説の読みすぎだ」
「否定も出来ないだろ」
「せやけど、俺ら全然別の場所におったやろ?そんな場合でも異世界転生ってあるん?」
「それはフィクションの話だ。これはれっきとしたノンフィクションだ」
「「「…」」」
「あの扉は?」
「切原が起きる前に試してみたが鍵が掛かっている」
「びくともしなかった」
「手詰まりってことやな」
「まぁでも何処かは予測出来ただろ!どう考えてもモンハンの世界だしな!」
「何でそんな楽観的なんだよお前は」
「焦ったところでどうにもなんねーし、状況把握って大事じゃね?柳先輩ならそうするかと思って」
「跡部さんもそうするな」
「…乾先輩もだ」
「うちの先輩らもそうするやろな」
「だろ?俺良いこと言っただろ?」
「「「別に」」」


重苦しい空気が気持ち悪かったからそれを払拭する。
異世界転生じゃなくて多分これはモンハン転生なんだろ。俺ら別に死んだりしてねーし、ただモンハンやってただけだけど。
俺がせっかく良いこと言ってやったのに素直じゃねーの。まぁ実際のところ心臓バクバクだけど、まだ帰れねえって決まってもねーし、どうにかなんだろ。
モンハンの世界観そのまんまなら死ぬこともねえだろうしな。


それよりも自分の格好のが気になる。
麻痺双剣のために組んだ装備そのまんまだ。
財前が調べてくれたやつだけど、まぁ気に入ってはいる。
武器はどこかと探してみたら自分の直ぐ脇にあった。


──コンコン


「お、やっと来たぜ。お迎えが」
「珍しく冷静やなぁ。切原が一番慌てるかと思っとったわ」
「はぁ?」
「褒められてるんだから気にするな」
「や、褒めては無いだろ」


互いの装備についてあーだこーだ話してたら扉がノックされた。
身構えつつ扉を凝視する。俺も含めて全員ちゃんと武器に手がかかってんのはすげぇな。
お前らだって危機管理出来てんじゃん。
ゴゴゴと馬鹿でけぇ音を立てて扉がゆっくりと開いていく。
先頭に偉そうなのが一人、後ろに兵士みたいなのが数人控えてるのが見えた。
なーんか見覚えあんな、あの格好。


「ようこそ、いらっしゃった。突然のことで驚いているとは思いますがまずは武器から手を離してくださらんか?此方も手荒なことは一切しませんから」


先頭のおっさんがニコニコと声を掛けてきた。うわ、うさんくせー。後ろの兵士たちが持ってんのはランスか?きっちり武器持ってんのに俺たちには手放せとか説得力なくね?


「アンタらが武器から手を離したら考えるわ」
「うむ、至極全うな意見ですな。お前たち、下がっていいぞ」


財前が警戒心を隠さずに返事をする。おっさんは迷いもせずに片手を上げて後ろの兵士たちを下がらせた。なんだよ、出来るなら最初からそうしろよ。それを見て俺たちも武器から手を離す。


「それで?何故俺たちはここに呼ばれたんだ」
「物分りの良い方々で良かった。詳しい説明は続く儀式を終えてからにしましょう」
「は?」
「端的に説明するのならば貴方方にこの世界を救ってほしいのですよ」
「世界を救う?おい、そんな物騒な世界だったのか?」
「モンスターはそこら中におるけど、世界を救うなんてそんなミッションはなかったはずや」
「俺も知らないな。切原は?」
「世界が滅びる危機みたいなのはなかったはずたぜ、多分」
「どうやらこの世界のことも知ってる様子。それなら話が早い。先ずは追加の召喚をさせていただきましょう。貴方たち四人では心許ないですから」
「「「「はぁ?」」」」


おっさん一人が部屋に入ってきて説明を始めた。世界を救う?ドラクエじゃあるまいし、この世界に魔王なんて居ないだろ?勇者なんて必要ないはずだ。FFみたいに何かの陰謀がひしめいてる世界観でもねーし、なに言ってんだ?ゾンビでもいるのか?それこそあり得ねぇ。
しかも追加の儀式ときたもんだ。誰か追加で呼べるとか?そうなりゃ、なんも怖くねーな。


「世界を救う云々は置いといて、先にデメリットの話を聞かせてくれませんかね。簡単に追加の儀式と言うがそれは本当に大丈夫なのか?命の危機にはならないのか?」
「貴方たちには有りません。例え命を落としたところで元の世界に戻るだけですので」
「それは本当なん?」
「文献によるものですが、正しいと思われます」
「どうしてそんなことが言えるんだよ」
「時間軸が違うのですよ。今この時、貴方たちの世界の時間軸は止まっております。肉体もあちらに残ったまま。ですから命の危機は有りえません」
「ってことは死ぬか世界を救った後に、さっきの時間に戻れるってことやな?」
「そうなりますな」


日吉が大事なことを聞いてくれた。デメリットの確認忘れてたぜ。おっさんが言うには俺たちにデメリットは一切ない。ここで死んだとしても元の世界に戻れる。それなら先輩たち呼んでも問題は無さそうだ。


「デメリットは本当に無いのか?」
「おい、しつこいぞ」
「海堂、日吉の言う通りや。これが嘘やったらどうするん?俺らだけならまだしも先輩らを巻き込むことになるんやで」
「…そうか」
「ほっほ、確認は大事なことですな。ですが、それを証明する手立てがありません。こちらを信じてもらうしかないですの」
「別にいいんじゃね?おっさんもこう言ってるわけだし他になんか案あるか?」
「切原は楽観的過ぎだ」
「かと言ってこのままだと平行線じゃん。なぁ、おっさん!モンスターと戦うだけなんだろ?対人間の抗争とか絶対嫌だぜ!」
「勿論、この世界の脅威はモンスターだけです」
「ほら、それなら大丈夫だろ?このままじゃ話が進んでいかねーし、俺たちだけより先輩らが居た方が助かるって!」
「「「はぁ」」」


三人が大きく息を吐く。四人でどうにかなんのらそれでいいけど、追加の召喚って言ってるってことは大型のモンスターかなんかなんだろ。それなら頼りになる人が居た方がいい。


「どうせならちゃんと救ってやろーぜ!」
「どうされますか?」
「おい、どうするんだ」
「この際、全部切原の責任にすればいいんじゃないか」
「日吉に賛成するわ」
「それなら問題はない、のか?」
「それで?後何人呼べるんだ?」
「次の召喚が最後ですので、多くて十六人程かと」
「なんやそれ」
「意外と多いな」
「それなら俺は先輩たち全員呼ぶ!」
「は?四人ずつ呼べばええやろ」
「そうだぞ」
「俺は乾先輩には居てほしいと思う」
「えー!いやでもあの人たち全員居た方が絶対にためになるから!そう思わねぇ?逆に財前と日吉は誰を呼びたいんだよ!」
「あー白石さんとケンヤさんくらいしか思い付かんわ。金ちゃん迷子になりそうやし、こっち来てもテニスしたいって言い出しかねんしなぁ。小春さんらも邪魔になりそうやし」
「俺は樺地と跡部さん…それに向日さんが居ればいい」
「ほら!これなら俺が七人呼んでも問題ないよな!」
「別にそれで構わんけど、なんか腹立つわ」
「はぁ?」
「喧嘩は後にしろ。海堂、後四人の人選は任せるぞ。青学から選べばいい」
「そうか。それなら俺は乾先輩と菊丸先輩と越前それに桃城だ」
「手塚さんじゃねーの?」
「あぁ、手塚部長よりこの人選の方がいいと思う」


十六人も呼べるなら先輩たち全員呼べるじゃん!意気揚々と提案したら三人は渋い顔をした。まぁ、他の人間を呼ぶ枠減るし気持ちはわかる。けど、ぜってぇに他校の部員を全員呼ぶよりうちの先輩たち呼んだ方がなんとかなるから!あ、仁王先輩は微妙かもだけど。
ごり押した結果、俺の案が通ることになった。


「決まりましたかな」
「おお、決まった決まった」
「では早速始めましょう。足下の方陣を囲むように四隅に分かれてくれますか」
「オッケー」
「わかった」
「はい」
「多数呼ぶ方は負担が掛かりますが、一時的なものなのでどうにか耐えてください」
「は?」
「俺は二人やから良かったわ。気張りや切原」
「俺も三人だから問題無いな」
「え、ちょっ」
「四人はどうなんだ?」
「五人以上で無ければ大丈夫でしょう」
「ちょっ!本気で言ってんの!?」
「ざまぁ」
「財前!てめぇ!」
「動かないで、直ぐに始まりますよ。いいですか、意識を保って全員を思い浮かべるまでは集中してください。頼みましたぞ」


四隅に散ったところでおっさんが後ろの兵士から杖みたいなもんを受け取った。カツンと杖を魔方陣の真ん中に当てた瞬間視界が真っ白に染まる。眩しっ!ちょ、俺負担が掛かるとか聞いてねーし!


「呼び出したい方々を強く思い浮かべて。意識を保ったままですよ」


おっさんがよくわかんねぇ呪文みたいなものを唱えてる。心の準備ってもんが必要じゃね?あ、駄目だ。ちゃんと先輩たちのことを思い浮かべてねーと。丸井先輩たちはモンハンをしてるはず。んで、真田先輩はなにしてんだろ?道場かもな。幸村先輩は家にいるだろうし、柳先輩は写経でもしてんだろ。
先輩たちを思い浮かべた瞬間、すげぇ沢山の情報が頭の中に流れ込んできた。げ、なんだよこれ。情報っつーか映像?写真を見てるみたいに次々に違う映像が流れ込んでくる。負担ってこれかよ。自分の家、テニスコート、テニスクラブ、ゲーセン、学校、試合、ちょ!家族やクラスメイトや他校のテニス部まで出てくんじゃん!忘れないうちに七人を思い浮かべる。幸村先輩、真田先輩、柳先輩、丸井先輩にジャッカル先輩と仁王先輩と柳生先輩!ぐるぐる色んな場面が入れ替わって目が回りそうだ。
これマジでやべぇやつだ。視界がブラックアウトする瞬間、七人の顔が揃うんだった。

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