11

『よし、じゃあいくよ』
「そんなもんまで持ち歩いてるんスか、ニンゲンスゴいな」
「まぁ人間だしね」
『これがハンターの普通だよドスランポス』


釣竿に釣りカエルをくくりつけてぽいっと湖へと投げる。あれ?確かにガノトトスはこの方法で釣れるはずだけど果たして私の腕力で釣り上げることは可能なのだろうか?
……ハンターさんみたいな腕力私には無いよ?


『わ!』
「ニンゲン!危ないっスよ!」
「椎名さん大丈夫!?」


釣りカエルの効力は絶大だ。直ぐにぐいと釣糸を引かれる。それに引っ張られて私も湖に引きずられそうになるのをドスランポスが慌てて服を引いて止めてくれた。あれ、何だか態度が軟化してきている?いやいやそんなことを考えてる場合じゃない!やっぱり私にはハンターさんみたいな腕力は備わってないらしい。


『ガノトトス重い』
「そりゃそうっスよ」
「おれがやろうか?」
『でも日向釣竿壊さない?』
「それは自信がないけど」


どうしよう、このままだと私が負けて湖に引きずりこまれてしまう。これは大ピンチだ。
ドスランポスが何とか私の服を口で咥えて引っ張ってくれているけれどジリジリと湖が近付いている。


『ねぇねぇドスランポスと日向って泳げる?』
「俺はムリっス」
「おれはどうだろ?前は泳げたけど今はわかんない」
『だよね、リオレウスが泳ぎが得意とか聞いたことないや』


焦っても焦っても名案は浮かんでこない。元の世界に戻る前に溺死するとか死んでも死にきれないんですけど。何で私にハンターさんの腕力くれなかったのさ!
必死に竿を引っ張るもガノトトスが釣れる様子は全くない。それどころかまだ姿さえ確認出来ない。


「椎名さん危ないっ!」


日向の声が聞こえると同時に足場が消えてどぷんと私は湖に放り出された。これはいよいよヤバい。
ドスランポスを巻き込まなかったことだけはせめてもの救いだ。急いで岸に上がらないと本当に溺死してしまう。
とは言っても私はまだ釣竿を握ったままでずるずると水中深くに引きずりこまれてる真っ最中で、気付けば目の前にガノトトスの姿があった。ヤバいこれ死ぬかもしれない。


「あ」


パチリとガノトトスと目が合って向こうの動きが止まった。私の姿を観察しているようにも見える。どうやら敵視されてるようでは無いらしい。とは言え私は水中で息が出来ないわけで、既に限界を越えつつある。ガノトトスに見えるように頭上を指差せば理解してくれたのか釣りカエルを放って私を咥え浮上を開始した。


『ずぶ濡れだ』
「椎名さん!良かった!無事だったんだね!」
「旦那が助けにいくって止めるの大変だったんスよ。絶対に溺れるから止めとけって言ったのに」


ガノトトスは私を岸にぽいっと投げ捨てた。振り返ると水中から顔だけ出して待機している。
日向もドスランポスも無事そうだ。それを確認してから岸辺のガノトトスへと近付いてみる。後ろから二人も付いてくるようだ。


『えぇと助けてくれてありがとう』
「別に。顔に見覚えあったから」
『じゃあやっぱり君も元は人間なの?』
「そうなるかな」
「旦那以外にも変なヤツいたんスね!」


日向がおかしいみたいに言ったらダメだよドスランポス。あれ?ガノトトスと日向が静かだ。横を確認すればじっとお互いの顔を見ている。


「研磨?」
「翔陽?」
『もしかして知り合い?』
「「うん」」
「へぇ!凄いっスね!」


研磨と呼ばれたガノトトスと日向の声が被った。でもどうしてお互いのことが分かったんだろ?


『何で分かったの?』
「リオレウスだけど翔陽の顔もぼんやり見えたから」
「おれも一緒!研磨の顔が見えた!」
『そういうこと?私には見えなかったのに』


二人とも知り合いだったのか。日向はかなり嬉しそうだ。ガノトトスの方はそんなことも無い、感じ?顔見知りだと相手の元の姿が見えるようになってるのかな?


「それで君は?何で君だけ人間の姿なの?」
『うーん、それは私にも分からなくて』
「ここで話してると多分アイツが戻ってくると思うんスけど」
「あ!さっきのヤツ?」
「さっきのヤツって何?」
『さっきちょっとドスゲネポスと揉めてね』
「あぁあの煩いヤツ」
「え、じゃあ森丘に帰る?」
『ガノトトスは?飛べないよね?』
「俺の名前孤爪、孤爪研磨」
『あ、ごめん。じゃあ孤爪でいい?』
「研磨でいいよ。俺は飛べないし多分水辺からは離れらんないよ」
「そりゃガノトトスっスからね。水がないと生きていけないっスよ」


ドスゲネポスが戻ってくるのは困る。しかもリオレウスより強いディアブロスを連れてとか、かなり困る。かと言ってここに研磨を置いていくわけにはいかないしどうしよう。


「ねぇドスランポス君、森丘とこの湖って繋がってないの?」
「さぁどうっスかね」
『研磨は?どう思う?』
「全部を泳いだことないけど…あ、ちょっと待ってて」


私達の返事も聞かずに研磨はとぷんと水中に姿を消した。確認でもしに行ったのかな?ものの数十秒で直ぐに戻ってくる。


「聞いてきたけど大丈夫みたい」
「そっかそれなら良かった!」
『行き方は?』
「それも多分どうにかなる」
「それならさっさと帰りやしょう。いつアイツらが来るかって気が気じゃねぇっス」
「じゃあ研磨気を付けて」
「うん、翔陽も」


どうやら誰かに聞いてきてくれたらしい。誰に聞いたんだろ?そんなことを考えてたらいつの間にか研磨の姿が消えている。


「ニンゲン!早く帰ってガノトトスを迎えるっスよ!」
「椎名さん帰ろう」
『うん、今行く』


ドスランポスは既に日向の背の上だ。よっぽどディアブロスに会いたくないらしい。
ドスランポスに助けてもらいながら日向の背に乗る。行きよりやっぱり態度が優しくなったのはきっと気のせいじゃない。


「おれ研磨が居てくれて良かった」
『良かったね日向』
「あ、ごめん。椎名さんのこと考えずにそんなこと言って」
「ニンゲンはニンゲンだし仕方無いっスよ」
「や、そういう意味じゃないんだよドスランポス君」


森丘に帰る途中、日向が嬉しそうに言う。そうだよね、知ってる人がいるって安心するよね。日向の心底ホッとしたような声色に相槌を打つもどうやら気を遣わせてしまったらしい。


「椎名さんも友達に会えるといいね」
『そうだね、日向の友達がいるんだからきっと私の友達もいるよね!』
「旦那ぁ!俺も旦那のマブダチっスよ!」
「うん、それは知ってるよ」


ドスランポスの言葉に日向と二人で笑ってしまった。本人はそれにご立腹のようで私達に抗議の声を上げている。空を飛んでる最中は暴れないでよドスランポス。
こめかみがまたもチリッと痛む。その痛みで思わず目を閉じた。この痛みは確かアプトノスのところで起きた時にも感じた。
痛みは一瞬で直ぐに元に戻ったので恐る恐る目を開ける。うん、どうやら大丈夫そうだ。


「急に黙ってどうしたんだニンゲン」
『あ、ごめん。ちょっと考え事してた』
「椎名さん今は危ないよ」
『ごめん。ちゃんと乗っとくね』
「そろそろ森丘っスよ。俺はクック先生んとこ寄ってから行くんで旦那達先に池の方に行ってくだせぇ」
「『池?』」
「あー知らないっスよね。じゃあ先に案内します」


色々手間を掛けさせてごめんよドスランポス。
池に案内してもらって私だけが日向から降りることになった。どうやらそのままイャンクックの巣まで日向に送らせるつもりらしい。案内もしてもらったからと日向はそのお願いを了承した。取り残されたのは私一人だ。
…えぇと研磨が来る前に誰かと遭遇したらどうしようか?森丘には他にどんなモンスターが居ただろうか?びくびくしながらとりあえず草むらに隠れることにする。


「ねぇ着いたなら声を掛けてくれる」
『わ!』
「俺はちょっと前からここに居たんだけど」
『いるなら顔出しててくれても良かったでしょ!』


がさごそ移動しようとした矢先に声を掛けられて飛び上がってしまう。振り向くと池から研磨が顔を覗かせていた。


「俺の生息地じゃないしそんなこと出来ないよね」
『何でさ』
「モンスターはモンスター達で地域での結束が固いらしいよ。だからよそ者は目立つんだって」
『あぁ、ドスゲネポスもそんな感じだったや』


研磨の前に座って日向達を待つことにする。それにしてもこんなに小さな池が砂漠と繋がってるなんてなぁ。驚きだ。


「椎名さんは」
『あ、私も凛て呼んでくれていいよ』
「じゃあ凛はモンハン詳しい?」
『一番好きなゲーム』
「そっか、それなら良かった。俺もモンハンは好き。けど翔陽は多分あんまり分かってないかも」
『確かにそんな感じだった気がする』
「まさかハンターじゃなくてモンスターにされるとは思ってなかったけどね」
『やっぱり不便?』
「多少。まぁ水の中で息が出来るのは貴重な体験だけど」


研磨は少し落ち込んでるのかな?ガノトトスの表情ってちょっと分かりづらいや。付き合ってくうちに理解出来るといいんだけど。


『そう言えば誰に道案内してもらったの?』
「あぁ、それは翠にしてもらった」
『みどり?…あ、ガノトトス亜種?』
「そう、俺の妹って言ってた。もう今は自分の棲家に帰ったけどね」
『不思議な話だよね』
「そうだね、俺は元は人間で妹なんて居なかったし」
『日向も元々ここに住んでたリオレウスらしいよ』
「そっか」


それきり研磨は黙りこんでしまうのだった。ぼーっとしてるようにしか見えないのはガノトトスだからだよね?研磨は何か考えてるんだよね?
ちゃんとモンハンを知ってる人が居てくれて良かった!これなら色々対策も考えやすいよね!
研磨は黙ったきり喋らないし早く日向達戻ってこないかなぁ?


ガノトトス研磨登場です( ・∀・)ノちなみに翠水竜はキャラではありません。普通のガノトトス亜種ちゃんです。
2019/05/19

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