10

イャンクックに村まで送ってもらい慌ただしく準備を整える。ついでにしばらく戻れないかもと村長には伝えておいた。酷く心配されたけど詳しい話は話せないので(話した所で頭がおかしくなったと思われるだけだし)道具屋でアイテムを買って(回復薬すら売ってなくて驚いた、仕方無く薬草とホットドリンクを買う)再びイャンクックの巣に戻った。
戻れるか不安だったけどそこはアイルーが村を出た所で待っていてくれた。どうやらイャンクックが頼んでくれたらしい。クック先生さすがである。


『お待たせ』
「ニンゲン遅いぞ!俺は待ちくたびれた!」
『ドスランポス結構私に辛辣なこと言うね』
「ケッ、クック先生の頼みじゃなきゃニンゲンと一緒になんか行動しないっての」
「ドスランポス君ごめんね」
「旦那に言ってないッス。このニンゲンもどきに言ってるんス」
『人間もどき…』
「普通のハンターは俺達の言葉なんか理解しねー」
「ドスランポス君、落ち着いて。ほらもう夜になってきたよ」
「しゃーねぇ、んじゃさっさと行くッスよ」


バカかと思ってたけど"人間もどき"か。言い得て妙だな。確かにモンスターの言葉が分かるハンターなんて私以外この世界に居ないだろう。
ドスランポスをおバカさんだと思ってたことを頭の中でそっと反省した。ついでに薬草とアオキノコで回復薬を調合して回復薬とハチミツで回復薬グレートを調合する。失敗しなくて良かった。


「ニンゲン、早くするッス」
『あぁ、ごめん。どうやって行くの?』
「そりゃ旦那に乗って向かうのが一番でしょ。いいッスよね?」
「おれは別に大丈夫だけど」
『じゃあ…宜しく日向』
「日向って旦那はリオレウスですよ」
「説明が難しいんだけど日向もおれの名前なんだよドスランポス君。君がおれのこと旦那って呼ぶような感じ」
「なるほど、理解しやした」


ひょいとドスランポスが日向の背中に乗るので私も後に続くことにした。…否、ドスランポスのような跳躍力は無いので無様にもよじ登ることになった。何なら結局上からドスランポスに引っ張って貰うことになった。


「ニンゲンどんくさいッスね」
『普通の女子高生だったからね』
「はぁ?」
『あ、ごめん。こっちの話』
「じゃあおれ飛ぶから二人とも落ちないでね」
『気を付ける』
「旦那、ゆっくりッスよ。ゆっくり」
「分かってる」


日向がゆっくりと翼を広げる。おお、この景色は見たこと無いから新鮮だ。まさかモンハンでモンスターの背中に乗れることが出来るとは思わなかった。あ、でもそんなようなゲームもあったな。…てことはやっぱりこの世界でもライダーはいるのかな?


『高い!凄い!』
「これくらいまだまだッスよ」
『何でドスランポスが得意気なのか』
「そりゃ俺が一番旦那の背中に乗ってるッスから」
『あぁ、そういうことね』
「ドスランポス君、どっちの方向?」
「あーそのまま北ッスね」
「分かった」


外は既に暗くなっている。私からしてみたら村の位置が明かりで何となく分かるくらいだ。
なのにモンスター達はどこに何があって方向まで分かるらしい。月すら無いのにどうやって分かってるのか謎だ。


「さみーッス」
『そうだね、やっぱり夜の砂漠は寒いね』
「おれも寒いのはちょっと苦手かも」
『そんな私達にじゃじゃーん!』
「何スか急に」
「椎名さんそれ何?」
『寒さを凌ぐアイテムです!はい、口を開ける開けるー』


砂漠にさくさくと到着して適当な場所で日向に降りて貰った。周りはモンスターすら居ない。みんな巣に戻ったのかな?
寒くて堪らないのでポーチからホットドリンクを取り出してとりあえず自分が一本飲み干した。日向は私に言われた通り口を開けたけどドスランポスは訝しげにこっちを見ている。


「信用出来ないッスね」
『まぁ、そうだろうね。んじゃ日向からね』
「旦那!危ないッスよ!」
『はいドスランポス邪魔ー』
「あっ!」


日向の前にドスランポスが立ちはだかるけどそれをぐいぐい押してさっさと口の中にホットドリンクを流し込んだ。モンスターには効果なかったり副作用あったらどうしよう。


「あ、寒くない」
「旦那!大丈夫ッスか?気分悪かったりしねぇッスか?」
「全然大丈夫だよ。むしろ暖かいよドスランポス君」
『ほら、ドスランポスの分もあるよ』
「…俺のだけ毒入ったりしてないッスか?」
『何でさ、ほら早く飲む。ドスランポスをここで死なせたら私と日向は森丘に帰れないでしょ』
「まぁ確かに。むぐ!」


話が長くなると面倒なので容赦なくその口にホットドリンクを流し込ませて貰った。
ここに遠足しに来たんじゃないんだ。だらだらと押し問答を続ける訳にはいかない、砂漠には仲間を見付けにきたのだから。


「いきなり何するんだよ!」
『暖かい?』
「は?いきなり暖かくなるわけ、…なった」
「これで寒くないねドスランポス君」


口を開けたままぽかんとしているドスランポスがなんだか可愛い。まだこの世界にきて短いけれど何となくモンスターの表情の変化が読み取れるようになってきた。


「こ、これくらいで優しくしてやると思うなよ」
『うん、別にそれでいいよ』
「ほら、ドスランポス君そろそろ行こうよ」
「ガノトトスの住みかッスね。あいつ起きてるといいけど」
『あ、ねぇドスランポス。釣りカエルどこにあるか知ってる?』
「釣りカエルなら途中にあるッスよ」
『じゃそれ欲しいから教えてね』
「まぁ、別にそれくらいなら」


ガノトトスが水中に引き込もってた場合、会う術がなくなってしまう。やっぱりモンハンをやってて良かった。ガノトトスの好物は釣りカエルだから居なかった場合はそれで釣り上げたらいいんだ。


「ここッス」
『あ、ほんとだ』
「え、椎名さんこのカエル触るの?」
『うん、頑張る』
「結構これも美味しいッスよ旦那」
「いや、おれはちょっと」


釣りカエルを私がいくつか採取してる間にドスランポスが隣でそれを丸飲みにしている。日向もその様子にドン引きだった。カエルに直接触るだなんていつぶりだろう?幼稚園とか小学校低学年以来だと思う。
釣りカエルと言うだけあって大人しい。まるで食べられるために存在しているんじゃないかな。そのくらいすんなりと釣りカエルは捕まった。と言うかやっぱり不思議なのはこのハンター専用のポーチだ。実際の世界に来てみたらリュックを背負ったりするのかと思ったけどアイテムポーチのまんまだった。そこに釣りカエルやら回復薬グレートやらあれこれ入るのだからこの中には亜空間でも広がっているのだろう。


「オイ、お前らそこで何やってんだ」


ドスランポスが日向に釣りカエルを頻りにすすめているのをボケっと見ていたら後ろから声を掛けられた。あ、このパターン想定してなかった。日向とドスランポスも動きが止まっている。ガノトトスだといいけれどこのフィールドにはまだ水場は無い。と言うことは違うモンスターだろう。ゆっくりと立ち上がり振り返ってみる。


『ドスゲネポス』
「あ?何でハンターがここにいるんだよ。つーかドスランポスこんなとこで何やってんだよ。ここはお前みたいなのが来るとこじゃねぇ」
「お前には関係ないドスゲネポス」
「ドスランポス君知りあいなの?」
「リオレウスまで何やってんだぁ?ハンターと戯れてんなら俺に譲れよ。ここはお前らの管轄じゃねぇだろ。そいつ置いてさっさと帰んな」
「ここらのモンスターは子供の頃みんなクック先生に世話になるんでぇ、ドスゲネポスとはその頃からうまが合わないんでさぁ」
『と言うことは仲が』
「かなり悪いッスね」
「えぇ!ど、どうするのさドスランポス君!」


振り向いた先にいたのはドスゲネポスだった。無属性のドスランポスと違ってドスゲネポスには噛みつき麻痺属性が付与されている。日向の言う通りこれはかなりまずい、かもしれない。


「俺の言うこと聞こえたんだろ?さっさと失せな」
『ドスゲネポス、穏便にいこうよ』
「お前はすっこんでろよ。そのなりからしてまだヒヨッコハンターだろ?砂漠はヒヨッコが来る場所じゃねぇ」
「あの、おれ達記憶喪失のガノトトスに会いにきただけで」
「あ?あの腰抜けかよ。あいつ巣に引き込もって誰にも会わねぇよ。俺のことすら無視だからな」
「だからわざわざ釣りカエルを持っていこうとしてたんだよ」
「お前らまさか釣りカエルでガノトトスを釣って倒す気じゃ」
『そんなこと』
「気が変わった。お前ら三人とも今ここでぶっ倒す」


結構荒っぽいことを今言ったよね?ドスゲネポスの雰囲気が一気に好戦的なものに変わった。えぇとこれは不味い。どうやら誤解をされてしまったようだ。
森丘のモンスターといい同じフィールドに住むモンスター達はある程度結束力みたいなものがあるんだろうか?
ドスゲネポスが雄叫びを上げるとわらわらとどこからともなくゲネポスの群れが現れる。


「椎名さん、どうしようか」
『どうしようね』
「だから砂漠なんかに来たくなかったんスよ」
『そんなこと言われてもですね』


えぇとドスゲネポスドスゲネポスドスゲネポスの弱点って何だっけ?あ!確か一番は氷で二番目は火だった気がする!
私達を取り囲むようにドスゲネポスとゲネポスの群れがじりじりと近付いてきている。


『ドスランポス』
「何スか」
『日向に火球を吐いてもらう。その隙にここを突破しよう』
「いいッスねそれ」
「おれ?火球の吐き方とか知らないよ」
「飛び方と一緒ッスよ旦那」
『合図をしたらドスゲネポスと周りのゲネポス達に向かって吐いて』
「死んだりしないよね?」
「そのくらいじゃ死なないッスよ」
『それと同時にドスランポスと背中に乗るから日向はその後に飛んでね』
「おれかなり責任重大じゃない?」
『それしか逃げ場はないの、お願い日向』
「頼むッスよ旦那」
「てめぇらさっきから何をこそこそ話してんだぁ?」
「分かった分かった!とりあえずやってみるよ!」


ドスゲネポスが此方に近付いてこようと足を踏み出した瞬間、日向の火球が正面からぶつかって後方へと吹っ飛んだ。
周りのゲネポス達がそれを合図にこっちに来るのでそいつらもまた火球で吹っ飛ばされている。リオレウスやっぱり怖い。その隙にドスランポスとリオレウスの背中によじ登った。


「お前ら逃げんのかよ!ずりぃぞ!このことはディアブロスに報告すっからな!おい聞いてんのか!」
『ディアブロスって?』
「ディアブロスは砂漠のまとめ役ッス」
「あーおれみたいな?」
「そうッスね。けど旦那より強いッスよ」
『マジで?』
「おれは別に強くないよ」
『それより早くガノトトスのとこに行こう』
「そのままそっちに進んでくれたらガノトトスの住む地底湖があります」


ドスゲネポスもそんなに頭は良くないらしい。私達が何故砂漠に来たのか何故自分があんなに怒ったのかを覚えて無さそうだった。何故そう思ったかと言えば追手が来なかったからだ。
ガノトトス云々より逃げられたことに腹が立って今頃ディアブロスにでも会いに行ったんじゃないかってのがドスランポスの意見だった。


『やっぱり居ないね』
「ドスゲネポスが引き込もってるって言ってやしたしね」
「釣りカエルで釣るしかなさそうだね」
『釣りカエルが好物なこと忘れてませんように』
「ニンゲン、それは笑えないッス」
「とにかくやってみようよ椎名さん」
『そうだね』


リオレウスより強いディアブロスなんて冗談じゃない。絶対に会いたくないのでさっさとガノトトスを釣り上げてしまおう。仲間なら説得するしただの記憶喪失ならそれはそれでいい。
また違う仲間を探すだけだ。
アイテムポーチから釣竿と釣りカエルを取り出して釣りを始めることにした。
ガノトトスがすんなり釣れますように。


久しぶりの更新。ガノトトスまで書けず。
2019/02/19

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