08

「旦那!火竜の旦那!起きてくだせえ!」
「何だよドスランポス君。おれまだ眠いよ」
「クック先生が大変なんす!さっさと起きる!」
「ちょ!頭をつつくなって!」


クック先生ってそもそも誰?
あーでもこれも研磨から聞いたことがあるような。駄目だ思い出せない。
頭をしつこくつついてくるから仕方無く頭をあげる。
ドスランポス君はどうやらかなり焦ってるみたいだ。
一昨日にドスランポス君にあれこれ聞いてみたけれど彼はあまり物知りではないらしい。
こっちの言いたいことが半分も伝わらないから諦めることにした。


「そのクック先生がどうしたのさ」
「ハンターにやられて酷い怪我を負ったって森丘中の噂になってるんす!」
「そういうこと」
「様子を見に行きやしょうよ!」
「えぇ、おれが行っても出来ることないと思うんだけど」
「森丘は旦那とクック先生の管轄じゃないですか!旦那も小さいときはお世話になったでしょ!ほらさっさと起き上がって!巣に引きこもってたらカビがはえますぜ!」
「ちょ!足をつつくのは止めろって!」


今度は寝そべってるおれの足を急かすようにつつき出した。
地味にそれ痛いんだけど。


「分かった!行くから」
「最初からそう言えばいいんすよ。ほんと最近どーしたんすか?おかしいっすよ」
「色々あるんだって」
「やっぱり嫁さん候補にでも出逢えたんすか?」
「それは絶対に違う」


どんな話題でもそっちに持ってくの止めてほしいんだけど。
人間に戻れんのかなおれ。
今更ちょっと心配になってきた。
渋々立ち上がるとドスランポス君がおれの背中に乗っかってきた。


「で、どこに行けばいい?」
「そんなことも忘れちまったんすか?じゃあ俺が案内するっす!」
「宜しく」


彼と喋ってて分かったことと言えばおれがここに来る前から火竜はここに居たらしい。
ドスランポス君の知ってる火竜はどこに行っちゃったんだろ?


「旦那!歩いて行く気ですか?」
「へ?」
「何のためにその立派な翼があると思ってるんすか」
「あー」
「飛んで行った方が早いっす!」


ここに引きこもってたからそんなこと考えもしなかった。
そうか、おれ飛べるのか。
けど、大丈夫かな?ドスランポス君落ちないといいけど。


「じゃあ一応やってみるけど落ちないように気を付けてね」
「は?何言って…っていきなり急上昇するんすかぁぁぁぁぁぁ!」


背中で何やらごちゃごちゃ喚いてるけど気にせずに飛んでみた。
おれは飛んだことが無いけど身体は飛び方を知ってるみたいだった。
すっげぇなこれ!自分の飛びたいように飛べる!
あ、背中のドスランポス君が落ちないようにしないとな。


「で、どっちに向かってけばいいのさ」
「高すぎッす!もう少し低く飛んでくだせぇ旦那!」
「分かったよ」
「ギャアァァァァ!」


急降下すると同時にドスランポス君が俺の背中から落ちた。
俺の隣を落ちてるけどドスランポス君って飛べないよな?
地面に激突するギリギリでドスランポス君を爪で捕まえた。


「大丈夫?」
「旦那!爪に毒あるんすからさっさと離して!俺死んじゃうっす!」
「あ、ごめん」


爪に毒があるのか。今度から誰かを捕まえる時は気を付けないといけないな。
離すとドスランポス君は周りを見渡している。


「ちょうど良かったっすよ!あの木にクック先生の家がありますから」
「あ、そうなんだ」


すたすたと歩きだすドスランポス君の後ろへ大人しく着いていく。
おれ自分のうちに帰れるかな?さっきの洞窟の場所がもう既に曖昧だった。
ドスランポス君が大木の穴の中へと消えていく。あ、ちゃんと追いかけないと。


「旦那!ハンターがクック先生の素にいるっす!」
「え?クック先生は?」
「それが姿が見えないんすよ!このハンターがきっとクック先生を!」


おれが追い付いた時にはドスランポス君は既にクック先生の巣の中にいた。
そしてドスランポス君の足元には一人の女の子がスヤスヤと寝ている。
あれ?この女の子って夢で見た女の子だ!


「ドスランポス君、ちょっと待って」
「クック先生の仇は俺がとるっすよ!」
「だからちょっと待ってってドスランポス君!」


近付いてドスランポス君が彼女を攻撃するのを止めた。
止めたと言うかドスランポス君を咥えただけなんだけど。爪が駄目なら咥えるしかないだろう。


「旦那!邪魔しないでくだせぇ!森丘のモンスター全員の先生をよくも!」
「やぁ、久しぶりだね二人とも」
「ククククック先生!?ハンターに捕まったんじゃなかったんすか!?」


おれに咥えられながらもドスランポスは必死に彼女へと攻撃をしようとしている。
おれが咥えてるからその攻撃届かないけどね。
さてどうしようかなと思ったら後ろから声がした。
振り向くと変な鳥が立っている。
ドスランポス君の反応を見る限りこの変な鳥がクック先生みたいだ。


「怪我はしたけどね。捕まってはいないよ」
「じゃあこのハンターはなんでこんなとこに寝てるんすか」
「彼女は私の客人だよドスランポス」
「は?」
「リオレウスも久しいね。どうやら二人にも心配かけてしまったようだ」
「酷い怪我をしたってドスランポス君が言ってたけど」
「グエ!急に落とすなんて酷いっすよ旦那!」
「おや?しばらく見ない間に雰囲気が変わったねリオレウス」


クック先生はおれとドスランポスの隣へと来てまだスウスウと寝息を立てる彼女の顔を覗き込んでいる。
いったい彼女は何者なんだろう?
でもおれが夢で見たのは確かに彼女だ。


「旦那ここ数日変なんすよ」
「おれ多分ドスランポス君が知ってるリオレウスじゃないんだよ」
「ほら、こんなこと言うんすよ」
「確かに変なことを言うね。君が子供の頃にハンターにつけられた傷は残ったままだよ?」


どういうことだろう?
てことはおれがリオレウスになったんじゃなくておれの意識がリオレウスの中に入ったってことか?じゃあ今おれの人間の身体はどこにあるんだろう?……駄目だ混乱してきた。
こんな時に研磨がいたら助かるのになぁ。


「それよりクック先生!傷は?飛べなくなるかもしれねぇってアイルー達が騒いでましたぜ」
「それは彼女に治して貰ったから大丈夫だよ」
「ニンゲンにですか!?」
「話すと長くなるんだけどね。リオレウス、君も聞くといいよ」
「分かった」


クック先生の説明によると彼女とは一昨日たまたま森丘で出会ったらしい。
モンスターの言葉を理解する不思議な女性だとクック先生は言った。
てことは探す手間が省けたわけだな。
そしてラオシャンロン様から聞いた話もついでに話してくれた。
てことはおれはこの女の子を手助けしなきゃいけないのか。


「このハンターがクック先生を治したぁ?そんな話信じれるわけねぇっす!」
「けれどそれが事実なんだよドスランポス」
「あの、おれこの女の子知ってる」
「旦那まで何言ってるんすか!?」
「君の雰囲気が変わったのと関わりがありそうだね」
「おれ、この女の子と同じ世界から来ました。誰かにお願いされてこのこを助けてあげてって」
「セカイ?」
「おれ元々人間だったんです」
「旦那本当にどうしちゃったんすか」


ドスランポスはおれの言うことを全く信じようとはしてくれない。
まぁ無理もないよね。おれだって自分がモンスターだったらおれの言うことは信用出来ないと思う。


「興味深いことを言うねリオレウス」
「その声はおれに彼女を助けてってしきりに言ってました」
「これはラオシャンロン様に一度報告しなきゃいけないかもしれないね」


そう呟いてクック先生は考え事をしてるみたいだった。
はやくこの女の子が起きるといいんだけど。


「彼女が起きるまで食事にしようか」
「いいんすか!?」
「君達の口に合うかは分からないがね」
「肉なら何でも食べますぜぇ!」
「干し肉がまだあったはずだ」
「なんかすみません。ありがとうございます」
「君は私の知ってるリオレウスとは別人だよ。本当に違うみたいだね」


それからクック先生は前のリオレウスの話を聞かせてくれた。
聞く限り結構な荒くれ者だったらしい。
だからドスランポス君以外洞窟には来なかったのか。ちょっと納得した。
彼女はよっぽど熟睡してるらしくまだまだ起きそうにはなかった。
いったい何故おれ達はこの世界に送られてしまったんだろう?
おれには到底分かりそうにもなかった。


イャンクックは森丘のアイルー以外のモンスターの子供達の先生でもあります。基本的にアイルーはアイルーで暮らしてるからね。
久々に書いたけどやっぱり楽しいなぁ。
2018/06/11

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