07

次の日、私はイャンクックとの約束を守って同じ場所へとやってきた。
どうやらまだ彼は来ていないらしい。
それならば採取を少しさせてもらおう。
村長とココにキノコを取ってきて欲しいと頼まれたのだ。


『アオキノコ〜ニトロダケーマンドラゴラーマヒダケークタビレダケ〜』


約束のエリアのキノコを取りつくしてもイャンクックが現れることはなかった。
あの紳士的なイャンクックが約束を破るようには見えない。
何かあったのだろうか?


『イャンクックー!クックせんせーい!居たら返事してくださーい!』


呼びかけてみるものの返事はこない。
と言うかモンハンにおいて大声を出すとか自殺行為だよね?
モンスター集まってきたらどうしようか?


「おい!そこのニンゲン!黙るのニャ!」


考えても仕方無いのでハチミツでも採取しようかと思ったら後ろから声をかけられた。
振り向くとそこにはアイルーの姿。
木の影に隠れて頭だけを出している。


『アイルー?』
「ほ、本当に言葉が通じたニャ!」
『アイルーとは元々言葉が通じるでしょ?オトモアイルーとかいるし』
「アイツらと一緒にするニャ!野生のアイルは孤高なのニャ!」
『あー確かにそうかも。それでどうしたの?』
「イャンクックから頼まれたのにゃ!モンスターの言葉を理解するニンゲンが居たら連れてこいって!」
『あ、それ私私ー』
「そんなこと言ってイャンクックを騙そうとしてニャいか?イャンクックは今重傷ニャ!」
『そうなの?昨日は元気そうだったのに』
「心配なのニャ」


私のことを疑ってはいるけれど重傷のイャンクックのことを考えてアイルーはしょんぼりと俯いた。
イャンクックはアイルーに慕われているんだろう。


『私ならきっとイャンクックを治せるよ?』
「嘘ニャ!その背中の武器で倒す気ニャ!」
『これは護身用なんだけどなぁ』
「信じないニャ」
『まぁそうなりますよね。仕方無い。置いていこう』


背中の片手剣をぽいっとアイルーへと放り投げた。
その行為にびっくりしたらしくアイルーはサッと身を潜めてしまう。


『あ、ごめん』
「いきなり何をするのニャ。び、びっくりした!」
『これが無かったらいいかなって』
「罠とか持ってニャいか?」
『中見る?キノコとハチミツだらけだよ?』
「本当に?」
『ほら』


バッグの中身を見えるようにはアイルーへと差し出す。
まだ半信半疑みたいだけど恐る恐るこちらに寄ってきた。
じっとバッグの中身を確かめている。


「本当みたいだニャ」
『うん。だからイャンクックに会いに行こう。アイルーも心配でしょ?』
「本当に治せるニャ?」
『多分』
「治せなかったらどうするニャ?」
『このナイフで私を刺してくれていいよ』


疑い深いアイルーだな本当に。
仕方無いので剥ぎ取り用のナイフをアイルーへと手渡した。
これで私は丸腰だ。ドスランポスに会いませんように。


「今襲われたらニンゲン死ぬぞ!」
『だから早く行こうよ。あ、お見舞いのクンチュウでも取ってこうか?』
「オミマイ?」
『重傷なら元気になってほしいでしょ?だからイャンクックの好きな食べ物持ってくの』
「ニンゲン良いこと言うな!」
『きっと喜ぶよ』
「ニャらクンチュウを取りに行くぞ!」
『うん。あ、私武器無い』
「そこに落ちてるニャ!置いてくぞ!」
『え?あ!ちょっと待って!』


アイルーって忘れっぽいのかな?
まぁ許可がおりたからいいか。
急いで片手剣を拾ってアイルーを追いかけた。


『わー予想以上にクンチュウ気持ち悪いー』
「ニャにを言ってるニャ!クンチュウはいつもこんな感じニャ!」
『アイルーと同じくらいの大きさだよ?』
「そんなこと知ってるニャ!生きたまま捕まえるんだニンゲン!」
『は?』
「死ぬとマズイってイャンクックが言ってたニャ!」
『どうやって持ってくの?』
「ネットがあるから大丈夫ニャ!」
『野生のアイルーも賢いんだなぁ』


アイルーがネットを広げたのでそこに追い込むようにクンチュウを転がした。
適当な数集まった所でネットを縛り上げる。
中でもぞもぞクンチュウが蠢いていて少し気持ち悪い。


『気持ち悪いね』
「早く行くニャ!イャンクックが心配ニャのだ」
『うん、私も心配だ。後他のモンスターに会わないかも心配だよ』
「大丈夫ニャ!抜け道を使ったらあっという間ニャ」
『分かったよ』


アイルーの抜け道を行くのは身体の大きな私にはかなり大変だった。
尚且つクンチュウの山を引きずってるから余計にだ。
アイルーに手伝ってもらいながらやっとこさイャンクックのうちへと辿り着いた頃には私は半分ボロボロだった。


『死ぬかと思った』
「ニンゲン体力無いな」
『普通の女子高生だからね』
「ジョシコウセイ?ニャんだそれは」
『あ、こっちの話』


イャンクックの巣は巨大な木の根元に出来た穴の中にあった。
ここなら雨風凌げて良さそうだな。


「イャンクック!ニンゲンを連れてきたニャ!」
「ありがとうアイルー」
『怪我をしたって聞いたけど』
「約束を破ってすまないね。大したことはないんだ」
「嘘ニャ!翼が破れてるのは大したことあるニャ!」
「心配かけてすまないね」
「イャンクックが怪我をしたなんて森丘全モンスターが心配するニャ!」
『私なら治せると思うんだけど』
「君がかい?」
『多分』
「ニャ!その前に背中の武器を下ろすニャ!」
『あ、ごめん。そうだね』


剥ぎ取り用のナイフはアイルーに渡したままだから片手剣さえ下ろせば大丈夫だろう。
ポイッと入口の方へと片手剣を投げ捨てる。


「君は相変わらず無防備だね」
『信じてもらうにはまず信じないとでしょ?』
「片手剣もナイフも僕が持ってるから大丈夫ニャ!」
「アイルーありがとう」
『じゃあいいかな?』
「治せると言うのなら頼もう。飛べないのはさすがに不便だからね」


巣の真ん中のベッドらしき場所へとイャンクックはぐったり横になっている。
そこへとゆっくり近付いていく。


『酷いね』
「ニンゲンのせいニャ!」
「アイルー駄目だよ。彼女がしたことではないんだから」
「ニンゲンは残酷ニャ!」
『そうだね。ごめんね』


イャンクックの右の翼が無惨にも破れていた。
これは放っておいても治らなかったかもしれない。
破れた箇所にそっと触れる。
瞬間にぼんやりと温かい光がイャンクックを包みこんだ。


「お前何をしてるニャ!」
『治してるだけだよ』
「眩しいニャ!閃光玉じゃニャいのか!」
『違うよ。閃光玉なんて持ってないよ』
「アイルー大丈夫だよ。痛みが引いてきたんだよ」
『それなら良かった』


ゆっくりと淡い光が消えていった。
残されたのは私とアイルーと先程までの傷がなくなったイャンクックだ。


『どうかな?』
「大丈夫ニャ?」
「ふむ、本当に治ってしまったようだ」
『飛べそう?』
「問題無さそうだ」
「良かったニャ。ニンゲン!感謝するぞニンゲン!」
『ちょ!アイルー!?さっきまでと態度が違いすぎるよ!?』
「ニンゲンはイャンクックの命の恩人ニャ!」
『大袈裟だよ』


イャンクックが羽をバサバサと動かしている。
問題が無さそうで良かった。
傷がなくなったことにホッとしたら隣から勢いよくアイルーが突っ込んできた。
その勢いに私はひっくり返った。
仰向けに転げた私のお腹の上でアイルーが行儀よく座っている。
お腹の上だから結局行儀は悪いのか?
まぁどっちでもいいか。
そのまま深々と私に頭を下げた。


『アイルーがそんな風にお礼するなんてイャンクックと仲良しなんだね』
「違うニャ。イャンクックは森丘の草食獣のヌシニャ」
「たまたまね。まとめ役をやってるだけだよ」
『そういうことね。あ、アイルーお見舞いのクンチュウ渡さないと』
「そうニャ!元気になるようにってニンゲンと捕まえてきたニャ!」


ピョンと私から飛び降りてアイルーはネットに入ったクンチュウを取りにいった。
勢いよすぎて『ぐえ』って変な声出たんですけど。


「キミはやっぱり面白いね」
『そうかな?』
「私達の言葉が分かるし治癒の力もある」
『変だよねやっぱり』
「気になったから調べてみたんだ」
『あ、そうだ!何を調べたの?』


そうだ!ここに来たのは昨日イャンクックが何かを調べてみるって言ったからだった。
怪我のことが心配ですっかり忘れてたし。


「昔からの言い伝えがあってね。最近のこは知らないけれど。小さい頃に先代のイャンクックから聞いたような気がするんだ。その確認をしてきたんだよ」
『先代のイャンクックに?』
「父はもう居ないからね。シュレイド地方の長に聞きに行ってきたよ」
『なんかごめん』
「命あるものいつかは死ぬものだよ」
『シュレイド地方の長って?』
「ラオシャンロン様だよ」
『あぁ、ラオシャンロン』
「会ったことがあるのかい?」
『や、名前だけだよ』


危ない危ない。
倒したことがあるだなんて口が裂けても言えないよね。気を付けなくちゃ。


「ラオシャンロン様はその言い伝えを覚えてたんだよ。いいかい?よく聞くんだよ?」
『わかった』


━━我らの言葉を理解しニンゲン彼の地に降り立つ時、世界の終わりが始まる。それを止めたければニンゲンと共に戦うのだ。世界を終わらせたければニンゲンを倒すのだ。世界を二分し戦いが始まる。━━


『世界の終わり?』
「私達の言葉を理解するニンゲンなんているわけないと思ってたから単なる言い伝えだと思っていたけどね。ラオシャンロン様もキミの話を聞いて驚いていたよ」
『私のせいかな?』
「違うだろう。キミが居なかったら世界が終わるらしいからね」
『そっか』


あぁ、確かにあの声は助けを求めていたような気がする。
それってこの言い伝えのことだよね?
そうか、この世界を助けなくちゃいけないのか。
死んだら生き返るとかゲームみたいなことは…多分無いよね。


「それでどうするんだい?」
『分かんない』
「ラオシャンロン様がね、このような言い伝えは各地に残されてるんじゃないかって言ってたんだ」
『え?』
「違う内容らしいね。ラオシャンロン様が昔聞いた話によると」
『それを集めろってこと?』
「そしたら何をすればいいか分かるんじゃないかって。それと…」
『まだあるの?』
「世界を二分し戦いが始まると書かれてたことをラオシャンロン様は憂いていた」
『どういうこと?』
「世界の終わりを願ってるやつがいるってことだよニンゲン」
『そんなこと』


世界が終わったら皆死んじゃうでしょ?
そんなこと誰が願うって言うんだろう?


「兎に角、世界を救うにはキミに強力するしかないらしいね」
『え?』
「私も微力ながら手伝わせていただこう。ラオシャンロン様は身動きがとれないからね」
『いいの?』
「キミは毎回モンスターに会って説得から始めるのかい?血の気の多いやつらはキミの話を聞かないかもしれないよ」
『そうか』
「これから宜しくニンゲン」
『こちらこそ。宜しくねイャンクック』


ちょっと頭が混乱してるけど私はどうやらこの世界を救わなきゃいけないらしい。
何であの時アイルーにいいよって言っちゃったんだ私!


「つ、疲れたにゃー」
『あ!アイルーごめん!』
「下から運ぶのは一苦労したニャ」
「すまない。私が取りに行けば良かったね」
「イャンクックのオミマイなのニャ!それは駄目ニャ!」
『ありがとねアイルー』
「これがオミマイのクンチュウニャ!」
「こんなに沢山。ニンゲンもアイルーも礼を言うよ」
「さて、暗くなってきたから帰るニャ!」
『あ』
「ニンゲンも早く帰らないと危ないのニャ!」
『そうだよね』
「今日は泊まっていってはどうだろうか?明日の朝一番に私が送っていこう」
「それがいいニャ」
『いいの?』
「大したもてなしは出来ないけどね。クンチュウは…」
『食べれないから大丈夫だよ!』
「そうか、なら良かった」


イャンクックにフルーツを貰ってそれを夕食にした。
クンチュウしかないとか言われなくて良かった。
さすがに虫は食べれない。食べれたとしても食べたくない。
考えなきゃいけないことは沢山ありそうだけど後悔したってしょうがないしなるようにしかならないよね。
元々私は楽観的なのだ。


『次はどこに行けばいいの?』
「ラオシャンロン様の妹君が長を務めている所だね」
『分かった』
「キミは本当に面白いね」
『何で?』
「驚いたり疑ったりしないのかい?」
『なるようにしかならないから』
「そうか」
『フルーツありがとう。また明日』
「ゆっくりおやすみ」


夜は冷えるのでイャンクックの羽毛に包まれて寝ることになった。
思ってたよりふかふかで気持ちが良い。
朝一番に送ってくれるって言ったけど次の地方にはいつ行くんだろう?
まぁ明日聞けばいいか。
おやすみイャンクック。
お言葉に甘えてゆっくりと眠ることにした。


誰をどこで出すか悩むなぁ。でもほんと書いてて楽しいのがモンハントリップ夢☆
2018/05/14

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