それは誰にも言えない
秘密だった

ねこねこ幻想曲梅雨のお話


『びしょびしょ』
「急に降ってきたからなぁ」


今日の天気予報って雨降るって言ってたか?
傘は必要ありませんって言ってなかったか?
あーでも出るときに研磨が「クロ、傘持っていきなよ」って言ってたもんなー。
それをなまえと「今日は雨は降らない」って言い切って出てきたんだった。
雲行きは怪しかったけど傘持ち歩くの面倒臭かったんだよ。


土曜日の部活中に備品の買い出しに来たのが間違いだったかもしれない。
けどもうあれこれ足りなかったしこの際ついでになまえにスポーツ用品店の場所を覚えてもらうために連れてきたのだ。
次回から一人で行ってもらうために。
ま、プラス荷物持ちってのもあったけどな。


『黒尾さん、雨止むかなぁ?』
「結構降ってるからなー」
『誰かに迎えに来てもらう?』
「あーアイツら練習中だし連絡しても気付くかわかんねぇしな。だからもう少し様子見るぞ」
『分かった』


高校の近くの公園を突っ切るのが近道だからと帰りにそこを歩いてる最中に雨が降りだした。
荷物も多いしなまえを学校まで走らせるのも可哀相だなと公園の東屋で雨宿りすることにしたんだ。
雨足はまだ強いまま止みそうにもない。
これ戻ったら研磨にも夜久にも怒られるな俺。


『天気予報嘘吐きだ』
「梅雨だから仕方無ですよなまえちゃん」
『雨降らないって言ったのに』


なまえは雨に降られたせいかどこか不機嫌そうだ。
元々猫だし濡れるのが苦手なのかもしれない。
煩わしそうに雨を眺めている。
気付いた時にはポタリポタリとなまえの髪の毛から滴る雫に目を奪われていた。


『黒尾さん?』
「あー」


どれだけそうしてたのだろう。
俺の視線に気付いたのかなまえが視線をこちらに向ける。俺今何してた?
ただただなまえの横顔に見とれていたのだ。
これは不味い。あんまり宜しくない展開だ。
俺はそんな風にコイツのことを見ないでおくって決めてたのに。
夜久のこともあるし、それ以上に主将としての責任みたいなものを感じてたのかもしれない。
マネージャーに誘ったのも俺だしな。
そうは言ってもGWの合宿の時にあんなことしておいてそんな風に見ないでおくなんて結局守れてないようなもんだ。
寝惚けてたとは言えなまえを湯タンポ代りにして寝ただなんて他の部員には口が避けても言えなかった。


『寒い』
「あーじゃあこれも羽織っとけ」


風邪なんて引かせたら夜久から雷が落ちるに決まってる。
自分のジャージを脱いでなまえへと手渡した。
濡れたし雨のせいで気温が下がったかもな。
なまえは俺の渡したジャージを片手に何やら考えこんでいる。


『黒尾さんは?』
「俺は鍛えてますからね」
『寒くないですか』
「寒くないつったら嘘になるけどまぁお前よりは丈夫だから気にすんな」
『ありがとうございます』


羽織っとけって言ったのになまえは俺のジャージを着ることにしたらしい。
自分のジャージの上から着ても俺のはなまえにはでかいみたいだ。
そのぶかぶかっぷり可愛いんですけど。


『これが噂の彼ジャージ?』
「ぶっ!お前そんな言葉どこで覚えたんだよ」
『クラスの女の子がそんな話してた』
「正しくは彼シャツだけどな?」
『彼シャツ?』
「まぁ学生は彼ジャージくらいしか無理か」


一人言のように呟いた言葉になまえはきょとんと首を傾げている。
その仕草も俺のツボなんですけどなまえちゃん。


『合ってる?』
「半分はな」
『えぇ』
「俺となまえちゃんは付き合ってないので彼ジャージにはなりませんね」
『そういうことですか』
「そういうことですね」


夜久達の前で『彼ジャージ着てみた』って話をされても困るのでその辺はちゃんと訂正しておいた。
うちのこが恋愛を理解出来るのはいつになることやら。


東屋のベンチに座ってさっきよりは小雨になりつつある雨をなまえと二人のんびり眺める。
そういえばなまえと二人きりなのはあの合宿以来だ。


『クシュン!』
「まだ寒いか?」
『きっと誰かが噂してるだけ』
「何だよそれ」
『お爺ちゃんが言ってた。あ、黒尾さん笑った!』


くしゃみしてそれが誰かが噂してるだけって真面目な顔して言うからつい笑ってしまった。
そんなこと真顔で言うのきっとお前だけな。


「なまえちゃんが可愛いこと言ったからですよ」
『可愛いことじゃなくてほんとのことですよ』


わしゃわしゃと頭を撫でてやるとなまえは反射的に目を閉じる。無防備だよなほんと。
俺達以外に触らせるなよなまえ。
ま、人見知りだからその辺は大丈夫か。
撫でた手が湿ったから髪の毛も結構濡れてんだな。やっぱり研磨に連絡して迎えに来てもらった方がいいかもしれない。
そのままなまえの頬に手を当てるとひんやりと冷たかった。


『黒尾さんの手温かいー』
「お前は冷えてんな」
『んー今はだいじょうぶ』
「や、寒いんだろ」
『黒尾さんの手温かいから平気』


そう言ってなまえは俺のもう片方の手を自分の頬に誘導した。
あのですね、いつそんなこと覚えたんですか?
ちょっとドキドキしたんですけど。


『これなら温かいです』
「お前手も冷たいな」
『んー女の子だから?』
「何で疑問系なんだよそこ」
『お婆ちゃんが言ってた』
「そういうこと」
『あ!じゃあ黒尾さんの体温貰います!』
「お前なぁ」


彼氏以外の異性にしていいことと悪いことを教えこまなきゃなんねーかも。
どうするんだと思ったらなまえの両手が俺の頬に伸ばされた。
あのさ、この体勢ってどう考えてもキスしていい体勢だよな?
周りから見てもそう思うよな?


『やっぱり黒尾さんほっぺも温かいです』
「あーまぁな」


呑気にそんなこと言ってるから一瞬キスでもしてやろうかと思った。
ほんの一瞬だけ。直ぐに夜久の怒った顔がちらついたからそんな考えは吹き飛んだけど。


『あ!黒尾さん!雨止んだ!』
「おーほんとだな」


パッとなまえの両手が俺の頬から離れた。
それが少しだけ名残惜しい気もする。
ま、仕方無いよな。
なまえが立ち上がって東屋の外を確認している。
キョロキョロと何探してんだ?


『あ!あった!』
「どうしたんだよ」
『黒尾さん!虹!虹出た!』
「あー虹な」


嬉しそうな顔して手招きするからなまえの隣で確認すると雲の切れ間から太陽が覗いてそこに虹が出来ていた。
虹なんて見たの久々かもしんねえ。


『虹綺麗ですね』
「そうだな」
『クシュン!』
「そろそろ戻るか。お前が風邪引く前に」
『誰かが噂してるだけだもん』
「はいはい。行くぞ」
『ほんとですよ!』


俺、なまえのこういう無邪気なとこ好きなのかもな。
俺達が遠い昔ガキの頃に置いてきちゃったものをコイツはまだ全部持ってる。
そういうとこ羨ましいのとなまえにはこのまま無邪気なままで居てほしいって思ったんだった。


結局なまえは次の日熱を出して学校を休んだ。
海と夜久と研磨に俺は散々怒られましたとさ。


誰そ彼様より
紫季様リクエスト。
ねこねこの主人公で、黒尾と甘々なお話とのリクエストでした。
ifのお話を書くか迷ったのですがせっかく素敵なリクエストだったのでねこねこと連動させてみました。黒尾がどう思ってるかのお話。
甘々とのリクエストだったのに結局切ない感じになっちゃったかも。
このお話を書けたことで色々と私の中でハッキリすることがあって書けて良かったぁ。
リクエストありがとうございました!
2018/06/24


Modoru Main Susumu
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