迷走ガールの行方

「おい、帰るぞ」
『二口君、今日も部活お疲れ様』
「体育館の中で待ってればいいだろ。雨だし」
『でも、部活の邪魔になるから』
「そんなの誰も気にしないって」


一応雨の当たらない所で待ってたんだけどな。
体育館の中で待つだなんて私にはハードルが高すぎる。
バレーしてる二口君は見たいけどとっても見たいけれどカッコ良死しちゃうかもしれない。
私には二口君が付き合ってくれただけで充分だもん。


『大丈夫。雨の当たらないとこだし』
「別に好きにすればいいけどさ」
『今日も迎えに来てくれてありがとね』
「ここ通り道なだけだし」


二口君の部活が終わる時間に合わせて私は体育館と校舎を繋ぐ通路で待ってるのが日課だった。
一応屋根付きの通路だし支障はないはず。


「帰んぞ」
『うん』


二口君が歩き出すのに合わせて私も隣を歩く。
今日も二口君カッコいいなぁ。
けど最近これでいいのかなって悩んでたりする。
1年生の入学式に一目惚れしてその夏に一世一代の大告白をしてから二口君は私に付き合ってくれてる。けどいつもなんだか素っ気ない。
こないだ購買でバレー部の先輩達と話してるのを見かけたけど私が見たことないような笑顔だった。
その後も廊下でクラスメイトと移動教室の時間にうちのクラスの前を通ったのを見たけどとても楽しそうだった。
しかもその隣に居たのは女の子だ。
その子が私に気付いて二口君に何やら告げている。こっちを向いた二口君は何故か表情を引き締めてしまっていた。
軽く手を上げて挨拶してくれたけどそれには嬉しくて手を振り返したけど私にもあの笑顔見せてくれないのかな。


「ジメジメすんなー」
『梅雨だもんね』
「体育館も湿気がヤバい」
『熱が籠っちゃう感じ?』
「そうそう、そんな感じ。そんで黄金川が暑苦しい」
『1年のセッター候補のこ?』
「茂庭さんの後釜なのにアイツ全然駄目なんだよなぁ」
『まだこれからだよきっと』


二口君はもしかしたら私と一緒に居ても楽しくないのかもしれない。
私があまりに一生懸命告白したから可哀想で付き合ってるのかも。
確かにあの時の告白は今思い出しても恥ずかしい。
呼び出した癖に本題に入るまでにかなり時間がかかったし噛み噛みだったのだ。
最終的に恥ずかしくて泣きそうだった気がする。
そんな私に二口君は苦笑しながら「俺で良ければ」って言ってくれたんだった。


あ、考えたら考えた分だけ二口君が私と付き合ってくれるのは同情な気がしてきた。
思えば二口君から「好きだ」とは言われてないし何なら私って名前すら呼んでもらったことない。
あぁ、だから私と居ても楽しくないのか。
付き合ってくれたことに浮かれ過ぎてたのかもしれない。


えぇとこれはどうすればいいんだろう?
それならそう言ってフッてくれた方がまだマシだと思う。
自分でこの結論に行き着くってどうしたらいいの?
こんな風に考えたって私は二口君が大好きなんだ。
自分から別れようなんて言えるはずもなかった。


距離を置いてみた方がいいのかもしれない。
そしたらきっと二口君から別れようって言ってくれるかもしれないし。
自分からなんて死んでも言いたくなかった。


その次の日から二口君の帰りを待つことを止めた。
家の用事でバタバタしてるからって言い訳をして。
二口君の反応は「そっか」ってまたもや素っ気ないものだった。


それから一週間たった。
二口君が移動教室の時間にうちのクラスの前を通ることもなくなった。
だから二口君とは丸々一週間会えていない。
正直寂しくて死んじゃいそうだ。
当たり前のように平日は一緒に帰ってたんだ。
突然それがなくなったのだからこの喪失感も当然だろう。
もしかしたらこのまま自然消滅しちゃうのかもしれない。
もやもやしたままそれでも私はこれ以上何も行動に移すことが出来なかった。


二口君と帰らなくなって家にいつもより早く帰ってもやることはない。
私の世界って二口君中心に動いてたんだなぁってしみじみ思った。
二口君が居なくなっちゃったら私は空っぽなんだと思う。
放課後、早く帰ることも嫌になってぼんやりしてたらあっという間に二口君の部活が終わる時間前だった。
こんなときだって時間を確認しちゃうのは私が二口君のこと大好きな証拠で思わず苦笑いが漏れた。


「お前何してんだ」
『二口君?』


そろそろ帰らなきゃなって思った時だった。
教室の入口から声を掛けられたのだ。
一週間ぶりにも拘わらず二口君大好きな私が間違えるわけもなくその声の持ち主は間違いなく本人だった。


『どうしたの?』
「は?それ俺の台詞なんだけど」
『あ』
「家がバタバタしてるからって一緒に帰れないって言ってただろ」
『えぇと』


まさか教室で二口君に会うとは思ってなかった。
と言うか二口君はこんな所で何をしてるんだろう?見た感じ部活は終わったのだろうけど私と二口君はクラスが違う。
だから忘れ物を取りに来たわけでもないだろうし。
てことはやっぱり別れようって言いにきたのかな?


『別れる?』
「はぁ?どうやったらそうなるわけ」
『だって二口君が』
「俺別に何にもしてないよな。何かお前の勘に触ることした?」
『それは…』


どうしてこんなに二口君は不機嫌なんだろう?
私何かしちゃったかな?
イライラ顔を隠そうともしない。
自然消滅を狙ったのがいけなかったのかな?


「━━さーん!あっ!二口さん居た!」


どうしたらいいものか考えてたら廊下から二口君を呼ぶ声がする。
バレー部の後輩かな?


「げ。ちょっと待て黄金川!」
「先輩!忘れ物ッス!青根さんから頼まれたッス!まだきっと校舎にいるからって言うんで俺が持ってきたんスよ!つーか何で校舎にいるんスか?」


名前を呼ばれて二口君はさらに表情を険しくする。
二口君の制止も空しく噂の1年セッター黄金川君がひょっこり顔を覗かせた。
パチリと彼と目が合う。


「あ!もしかしてこの人が二口さんの大好きな彼女さんッスか?」
「おい黄金川止めろ!」
「喧嘩でもしてたんスか?この一週間二口さん機嫌悪くて大変だったんスよ!今日だって凡ミス連発してたんスから!」
「こーがーねーがーわー」
「あ!すんません!1年で二口さんの彼女ってどんな人か気になってたんス!茂庭さん達が言ってた通りッスね!あ、これ忘れ物ッス!じゃ!お疲れっした!」


怒濤の勢いに圧倒される間に黄金川君は言いたいことを喋り散らして去っていった。
えぇとさっき黄金川君なんて言った?


「あ!もしかしてこの人が二口さんの大好きな彼女さんッスか?」


頭の中で黄金川君の言葉を反芻する。
え、もしかしてもう既に他に彼女がいるのだろうか?
だったらもうやっぱり彼女気取りは止めなきゃいけない。


「おい」
『はい』
「帰るぞ」
『えっ』
「何だよ。言いたいことがあるならさっさと言えよ」
『黄金川君の勘違いを訂正しに行かなくていいのかなと』
「は?」
『だ、だって黄金川君が』


私何か間違ったこと言った?言ってないよね?
二口君が私のこと大好きなんて勘違いもいいとこだ。
困惑して二口君を見ると大きく溜め息をついていた。
あ、また私困らせちゃったのかな?


「あのな、お前以外に彼女居ないだろ。何言ってんだ」
『え』
「その反応も何なの。ムカつくんだけど」
『ごめん』
「で、何でそう思ったの」
『何が?』
「黄金川は勘違いしたと思った理由だよ」


私の言葉に二口君はまたもや御立腹みたいだ。
その場にしゃがみこんでしまった。
私そんなにおかしなこと言ってるのかな?
私以外に彼女は居ないって言うけどそれもきっと気遣ってくれただけだろうし。


『えぇと長くなるよ?』
「いいから全部話せよ。聞いてやるから」


しゃがんで俯いたまま二口が言った。
私の言い分を最後まで聞いてくれるらしい。
あぁ、やっぱり二口君は最後まで優しい。


『二口君は私のこと好きじゃないんだなって気付いちゃったから』
「はぁ?や、とりあえず全部聞くわ」
『私から好きですって告白したけど二口君がどう思ってるか分かんなくて。好きって聞いたことないし私の名前を呼んでくれないし。ほ、他のことは楽しそうだし…だからっふ、二口君が優しいから付き合ってくれてるのかなって』


促されたから話してみたけど悲しくなってしまって涙が溢れてしまった。
最後の最後に泣くだなんてみっともない。
泣くな。私泣いたら駄目だよ。
こんなの泣き落しみたいじゃないか。


『だっ、大好きだけどそれなら別れた方がいいのかなって。でも自分から言いたくなくてっごめんなさい』


我慢すればするほど涙は止まらなくなるのかもしれない。
拭っても拭っても涙が止まらない。
居たたまれなくて二口君の方が見れなかった。


「お前さ、全部勘違いしてんだよ」


いつの間にか二口君が私の隣に居た。
座ってる私のとなりにしゃがんでくれている。
勘違いって何が?どうして?


「あーでも多分茂庭さん達の言うように俺が悪かったんだよな。ほら泣くなって」


ぎゅむとタオルが顔に押し付けられる。
二口君が悪いって何で?
不思議に思って顔を上げてしまった。
私の手にタオルを握らせて二口君は何だか困ったように微笑んだ。


「俺色々足りてなかったんだな」
『どうして?』
「俺、今まで一目惚れって信じてなかったんだよ。でも去年の夏に顔を真っ赤にして告白してしてきたこに一目惚れしてさ。泣きそうなくらい俺のこと好きなんだなって思ったら途端にソイツが可愛くみえた」
『それって』
「お前のことだからもう変な勘違いすんなよ。けどなんか照れ臭かったんだよ。今までこんなこと無かったし。で、好きだも名前も呼んであげれなかった。言葉にしたら俺のが好きみたいで恥ずかしくねぇ?」
『わっ、私の方が二口君っ好きだもん』
「ん、知ってる。どんだけ練習遅くなっても待っててくれたしな」
『別れない?』
「別れるわけないだろ。不安にさせてごめんな」
『ふっ二口君、大好きだから平気だよ』


よく分からない涙がまだボロボロ出てきたけど悲しい涙じゃないことは私も二口君も分かってるみたいだからもう気にしないでおいた。


「なまえ、俺ちゃんとお前のこと好きだからな」
『うん』
「遅くなるからそろそろ帰るぞ」
『はい』


二口君が私の荷物も持って立ち上がるからそれに続くことにする。
全部私の勘違いだったんだね。
少しだけそれが恥ずかしくもあるけれど二口君に名前を呼んでもらえて好きだって言ってもらえたから結果良かったかもしれない。


Q.迷走ガールの行方は?

A.暴走ボーイの手助けによりツンデレボーイへと無事引き渡されました。


誰そ彼様より
瀬名様リクエスト第二弾。
ずっと付き合ってるけど、1度も二口から「好きだ」とも言われていなくて(告白も夢主ちゃんから)、不安になってすれ違ってしまうが、最終的にハッピーエンドなお話とのリクエストでした。
ツンデレにろちゃん書いてて楽しかった!
青根が気を利かせて黄金川に頼んだんだよきっと。
彼女には照れ臭くて何も出来ないのに部活で周りに散々あれこれ自慢してたにろちゃんでした(笑)
二回目のリクエストもとってもとっても楽しかったです!
リクエストありがとうございました!
2018/06/20


Modoru Main Susumu
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -