誰ガ為ニ僕ハ笑ウ

「二口先輩お疲れ様です〜!」
「あーお疲れ」
「これタオルとドリンクです!」
「おー、ありがとな」
「はい!」


堅治君に新人マネちゃんがタオルとスクイズボトルを渡している。
それを堅治君が何か言いたげな目でこっちをじっと見ていた。
いたたまれなくて咄嗟に目を反らしてしまう。
堅治君は私の彼氏だけどあのこにそれを伝える勇気は私には全然無かった。


「みょうじーどうにかしてやれよあれ」
『笹谷さん…』
「二口だってだいぶ我慢してんだぞ」
『それは分かってるんですけど』
「笹やん、言い過ぎだよ」
「んなこと言っても一言アイツにみょうじが言えば済む話だろ?」
「みょうじにだって出来ることと出来ないことあるんだよ」
「そんなこと言ったってアイツ多分諦めないぞ。明らかに二口目当てだろうしな」
『……』
「ちょ!笹やん!あえて地雷を踏んでくの止めてくれる!?」


心配してくれる茂庭さんに頭を下げてマネージャー業に専念することにする。
笹谷さんの言いたいことは言われなくてもひしひしと分かってることだった。
でも私が堅治君の彼女なのって主張するのはなんか違う気がしたんだ。
それを伝えた所で「だから?」って言われちゃったらそれまでだし。
と言うか部活の場で色恋沙汰を持ち込むのは良くないと思う。うん。そうだよ!
みんな一生懸命バレー頑張ってるんだから私もそのために頑張らないと!
きっとそれが部員のためにも堅治君のためにもなると思うし。


「なまえ」
『あ、堅治君』
「お前最近俺に冷たくない?」
『そんなことないよ。ちょっと忙しいだけ』
「みょうじせんぱーい!ちょっといいですか?」
『はーい!』
「二口先輩!ちょっとこっち来てくださーい」
「あー」
『ほら、行ってあげなきゃ。私も黄金川に呼ばれたし』


新人マネちゃんは私が堅治君とお話してると必ず堅治君を呼ぶ。
あぁやってぐいぐいいけるのは凄いなぁ。
いけないいけない。そんなこと考えてる場合じゃない。
黄金川のトス練手伝ってあげなくちゃ。


「なまえ」
『あ、舞ちゃん』
「顔色悪くない?」
『そう?』
「無理しないでよ。倒れたらみんな心配するから」
『大丈夫だよ。みんな頑張ってるから私も頑張らないと。ビブス洗濯してくるね!』
「あ!ちょっと!それくらい後輩にやらせたらいいでしょ!」


舞ちゃんの声が背中へと掛けられたけどあのこは裏方仕事をあんまりやりたがらないしお願いするととても嫌そうな顔をするから。
それなら私がやった方が早いと思う。
ついでにタオルも洗濯しに行かなくちゃ。
梅雨は外に干せないから乾燥機が混むんだよねぇ。
ビブスは体育館に干しちゃえばいいか。


洗濯を終えたらほつれてるネットの修理だ。
今日は新しいのを出したからその隙に古びたネットを直してしまおう。
備品は大事にしないとね。部費は限られてるわけですし。
えぇとその後は、練習試合の日程のコピーをして部員に配らないと。
ボールの確認もしなくちゃな。
空気圧測って足りなかったら空気入れてあげないとな。あ、ついでにボールも磨いてあげなくちゃ。


『舞ちゃんこれ練習試合の日程表のコピー』
「もうコピーしたの?」
『早い方がいいかなって』
「ありがと」
「それ私が配ってきますね〜」
「ちょっと」
『じゃあお願いするね』
「それなまえがコピーしに行ったのにってもう居ないし」
『元気だね』
「もう。そんなこと言ってどんどんなまえの元気が無くなってるでしょ」
『そんなことないよ』
「そんなことあるでしょ?少しは二口に甘えなさいよ」
『大丈夫だよ』
「あ!まだ話終わってない!」


舞ちゃんまであんなこと言うなんて。
部活は彼氏に甘える場じゃないもん。
みんながバレーに集中するために私達マネージャーがいるんだから。
舞ちゃんから逃げてボールの空気圧チェックに専念することにした。
既に個人練習の時間に入ってるから一個二個ボールがなくても大丈夫だろう。


堅治君は新人マネちゃんと話してるみたいだった。
日程のプリント渡すだけなのに長々話してるなぁ。いいなぁ。私最近部活で堅治君とまともに話してない気がする。
ズキンと胸は傷んだけれどそれに気付かないふりをしてボールチェックを続けることにする。


今日はいつもよりなんだか身体が重たい。
そんな日に限って自分が部室の鍵を持ってるから一番に学校に行かなきゃいけなかった。
昨日遅くまでボール磨いてたせいだよねきっと。
今日はなるべく早めに帰って早く寝よう。
そしたらきっと大丈夫なはず。
あ、一番に学校に着くなら昨日の続きのボール磨きをしよう。後少し残ってたから。


だいぶ早く着いちゃったなぁ。
これならみんなが来る前に準備を終わらせることが出来る。
タオルとドリンクの準備をしてネットを張ってそれからボール磨きだ。


舞台の上でボール磨きをもくもくと続ける。
ボールが綺麗になってくのって嬉しいよね。
あぁでもなんか身体が重たい。
ボールを磨く手の動きがだんだん鈍くなってる気がする。
あれ、私どうしちゃったんだろ?
視界がぐらぐら揺れた。


「━━ッ!」


最後に名前を呼ばれたような気がして私の意識はそこでぷっつりと途絶えた。


『ん』
「なまえ?大丈夫か?」
『あれ?…堅治君?』


ぼんやりと意識が覚醒する。
視界には真っ白な天井と心配そうな堅治の顔。
私、体育館に居たはずなのに。


「お前俺が体育館に行った時にはもう舞台で倒れてたんだよ」
『あ、朝練は?』
「はぁ?そんなの後回しだろ」
『駄目だよ』
「嫌だ」
『でも』
「なまえについててやれって茂庭さんに言われたし」
『本当に?』
「ん、ほんと」


起き上がろうとした私を堅治君が止めた。
なんだか久しぶりに堅治君と二人きりな気がする。
ベッドの傍らに座って堅治君が私の手を握ってくれている。


『私何で倒れちゃったんだろ』
「過労じゃないかって。お前一人で頑張りすぎなんだよ」
『やれることやってただけだよ』
「違うだろ。それ以上のことやったからぶっ倒れたんだから」
『それは私の体調管理が悪かったんだよ』
「なまえ、滑津もいるんだから二人でやれよ。アイツもかなり心配してたぞ」
『ごめんなさい』
「俺も寂しかったんだからな」
『え』
「お前部活の時間になると俺に冷たかったじゃん」
『そんなこと』
「あるだろ。俺だけ避けてたよなー」


避けてるつもりは無かったけど結果的にそうなってたかもしれない。
でも堅治君の隣にはいつも新人マネちゃんが居たから私が話しかける隙間なんてなかったし。


『ごめんなさい』
「俺は、なまえが居ないと部活頑張れないの」
『堅治君』
「だからぶっ倒れたりしたら練習になんないわけ。だから茂庭さんがこっちに寄越してくれたんだぞ」
『ごめんね』
「謝らなくていいからさ無理だけはもう絶対にすんなよ」
『分かった』
「んでちゃんと部活中俺のことも構えよ」
『それは』
「せめて他の部員と同じくらいはしろよ」
『分かった』
「まだ一限まで時間あるからもう少し寝とけ」
『堅治君は?朝練?』
「はぁ?お前とここにいるに決まってんだろ。久しぶりに二人きりなんだからな」
『ありがと』
「ちゃんと隣にいるからな」


空いてる手で私の頭を優しく撫でてくれるから大人しく寝ることにした。
久しぶりに堅治君を独占出来て幸せだ。
ちゃんと私のことを見ててくれたみたいで良かった。


『あれ?新人マネちゃんは?』
「あー」


放課後、元気になったので部活に参加することにしたら何故か新人マネちゃんが居なかった。
舞ちゃんにももう一人で無理はしないって二人で分業するって約束させられたけど三人じゃなくて二人?って不思議に思ったのだ。
茂庭さんに聞いたら苦笑いだ。
何かあったのだろうか?


「お前がぶっ倒れて二口が運ぼうとした時にアイツが自己管理出来てない証拠ですよねーなんて言ったもんだから二口がブチキレてな」
「お前が喋ってばっかでちっとも仕事しねぇからだろこのブスなんて言っちまったからなぁ」
「我慢してた分爆発したんだろ」
『あー』


茂庭さん達が何があったのか教えてくれた。
と言うことは堅治君に怒られたからもう彼女は部活に来ないってことなのかな?


「その勢いで辞めるって喚くから」
「まぁ俺達もちょっと面倒だったし」
「辞めてもらったかな。これ以上二口をイライラさせたくなかったしね」
『そういうことですか』
「だから遠慮せず二口に甘えるといいぞ」
『えっ』
「鎌ち、からかうようなこと言うと怒られるよ」
「いいんだって!俺達はお前らが仲良い方が楽しいからな」
「ちょ!先輩達なまえに何話してるんスか!」
「朝のことをちょっとなー」
「それ言うの止めてくださいって言ったっスよね!」
「ごめん二口。鎌ちと笹やんが全部話しちゃった」
「茂庭さんが居たのにですか!?」


堅治君は先輩達といるときはなんだか可愛いなぁ。
私のために怒ってくれたことが嬉しくて胸がジーンと温かくなった。


「お、みょうじが久々に笑ったな」
「女の子はやっぱり笑ってないとな」
「これも二口効果だよなー」
「ちょ!その笑顔俺のですからね!」
「はいはい、分かってるよ」
「お前も久々に良い笑顔してんな」
「いつもこんな感じっス!」
「ほらそろそろ練習始めるよ」


ギャーギャーと鎌先さんと言い合いながら堅治君がコートに向かっていく。
楽しそうだなぁ。


「みょうじ、二口も最近ずっと元気無かったんだからな。お前ら連動してるんだからちゃんと仲良くしろよ。それでちゃんと二口にも甘えさせてやれよ」
『はい!』


こっそり笹谷さんがそうやって教えてくれた。
ちょっと恥ずかしかったけど 何も焦る必要は無かったのかもしれない。
さぁ、朝練の分まで今日も部活を頑張ろう。
勿論無理しない程度に。


瀬名様リクエスト。
ヒロインは、二口の彼女兼マネージャーで、内向的な性格。二口狙いのかわいい新人マネがはいってきて焦り、今まで以上に張り切ってお仕事をしていたところ過労により倒れてしまい、二口に助けられる(切)甘とのリクエストでした。
あんまり甘くならなかったかもしれない。
夢主ちゃんは新人マネちゃんを見てひたすら焦ってたけど二口は新人マネちゃんのことなんて全く眼中に無かったんだよね。
むしろ彼女との時間が減って煩わしかったはず。だけどマネージャーだから強く言えなくて我慢してたのに最後の最後で爆発したって言う(笑)
書いててとっても楽しいリクエストでした。
瀬名様リクエストありがとうございました!
2018/06/18


Modoru Main Susumu
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