ああそういえば、そうでしたっけ事件

「おめでとー!」
「思ってたより遅かったよなお前ら」
『そうかな?』
「高校時代から付き合ってんなら大学卒業と共に結婚すると思ってたよ俺は」
「いや、それは早すぎるでしょ松川さん」
『岩泉が一番最初だったもんねー』
「岩ちゃんが俺を差し置いて先に結婚するなんて!」
「妥当だろ」
『うん、私もそう思う』
「お前売れ残ったよな」
「ドンマイ及川。一人で余生を謳歌しろ」
「みんな酷すぎじゃない!?」


大学を卒業して五年がたつ。
月日が過ぎるのはあっという間だ。
私と貴大の結婚報告をするために今日は懐かしいメンバーで久々に集まったのだった。
岩泉が最初に結婚してその後が松川。
そしてそれに私達が続く。
及川が結婚遅そうってのは高校時代から私達は予測していた。
だって女の子大好きな及川が一人に絞るなんて絶対に無理だもん。


「みょうじちゃんとマッキーが結婚しちゃうなんて」
「いやこれも妥当だろ」
「そうだよ何言ってんだお前」
『むしろ及川以外みんな分かってたことだよ』
「だって一回物凄い大喧嘩したじゃん!」
『えー?』
「そんなことあったか?」
「あー」
「お、岩泉は分かってんだな」
「まっつんも覚えてるでしょ?」
「まぁね」


居酒屋で三人に結婚報告をしていつものように及川弄りを酒のつまみにして楽しむのが私達の常だった。
けれど貴大と大喧嘩したことなんてあったっけ?
三人は覚えてるみたいだけれど当の私達はサッパリだ。


「あれだけ俺達を巻き込んでおいて覚えてないとか!」
「巻き込んだか?」
「いや」
「俺も大丈夫だった」
『じゃあいいか』
「ちょ!俺の扱い雑すぎだよ!」


そんなこと言われましてもねぇ。
いつのことだか覚えていないんだもん。
そんな昔のこと今更言わないでよ。


「覚えてねぇんだって。すまん及川」
『うん、ごめんね及川』
「棒読み!せめて少しくらい心込めてよ」
『だって覚えてないもん』
「な?」
「まぁお前ら及川の話も聞いてやれよ」
「さっさと話せクソ川」
「岩ちゃん!?テーブルの下で蹴らないでくれる!?」


それから私達は及川の昔話に耳を傾けることにした。
懐かしい懐かしいこれは昔のお話。


大学1年の夏だった。
みんなそれぞれ新生活が始まってまだバタバタしていた時のこと。
あれだけ仲良かったのに大学はみんなバラバラだった。貴大とは大学が近かったからちょこちょこ会ってたけどね。
久々にみんなで会おうってなったんだ。


「みょうじちゃーん!久しぶり!」
『及川が一番なの珍し』
「少しは嬉しそうにしてくれてもいいんじゃないの?」
『えー』
「そんなに嫌そうな顔しないでよ!そんな反応するのみょうじちゃんだけだし!」
『はいはい』
「おい、クソ川。うるせーぞ」
「岩ちゃん、久々に会って最初の言葉がそれなの?」
「お、もう揃ってんな」
「なまえ以外は久々ー」


卒業して半年もたっていないから新鮮さはゼロに近かったけど懐かしい顔触れに会えてテンションは高めだった。
及川に対してはいつも通りだけれど。
松川も岩泉も元気そうで何よりだなぁ。


『何するー?』
「あっちぃよな」
「猛暑だからなぁ」
「あ!じゃあさ!ボーリングしようよ!」
『えー』
「暑いだろそれ」
「室内だから涼しいって!ほら他にしたいこと無いでしょみんな」
「まぁ」
『そうですけど』


及川の提案でこの暑い中ボーリングをすることになった。
大体私達が集まって何をするか決めるのは及川だ。
だって考えるの面倒だし。及川だったら大概みんなの納得することを提案してくれる。
たまにこうやって強制される時もあるけれど。
渋々着いてった癖に結局3ゲームもやった。
盛り上がりすぎて室内なのに汗だくになったことを覚えてる。


「ねぇねぇみょうじちゃん!子供は何人欲しい?」
『え、何それ』
「いやだって俺達もう結婚出来る年齢過ぎたしさ」
「え、及川避妊でも失敗したのかよ」
「まっつん!そういうんじゃなくて!彼女と色々話しててさー」
「あー」
「なんだつまらねぇ」
『子供ねぇ』


ボーリングの後にファミレスで涼もうってなったんだっけ。
及川が突然変なことを口走った。
ちらっと隣の貴大の方を見るも及川弄りに夢中になっている。


「みょうじちゃんはマッキーと長いからさ、そういうこと考えないの?」
『どうかなぁ?』
「マッキーはどう思ってんのさ」
「子供?や、まだ全然考えることじゃないだろ」
「えー。だってこのままだとみょうじちゃんと結婚する流れでしょー?」
「そんなのまだわかんねぇし」
『まだ先のことだもんね』
「今付き合ってる彼女と結婚するかなんてまだ考えれないだろ」
「俺は少しだけ考えたことあるよ」
「まっつん!そうだよね!そうだよね!」


正直、貴大の答えにモヤモヤしたけれど態度には出さなかった。
5年後も付き合ってる保証なんて全くないんだから。
結局及川と松川が考えたことある派で貴大と私と岩泉は考えたことなかった派だった。
別にその時は少しモヤモヤしただけで後からこれが原因で揉めることになるとはこの時は全く考えもしなかった。


どうしよう。生理が来ない。
久々にみんなで遊んであれから三週間たった。
予定ではそろそろ来るはずなのにその気配がいっこうに無い。
これは不味い。非常に不味い。
でもちゃんと気を付けてたはずなのに。
でもコンドームも100%避妊出来るわけじゃないんだよね。
あぁほんとにどうしよう。


貴大に話す?
でも何て言ったらいい?
こないだの反応を見る限り何とも言えない。
この時ほど悩んだことは後にも先にも無かった。
考えても焦るばかりで答えは出ない。
こんなこと誰にも相談出来なかった。


「あれー!みょうじちゃんだ!何してんのさ」
『及川?』
「元気無いね?マッキーと喧嘩でもしたの?」
『してない』
「じゃあ何でそんなに覇気の無い顔してんの」
『別に。体調悪いだけ』


悩んでいたから貴大と会うのが怖くて連絡は返していたけどデートのお誘いは断っていた。
生理が来ないって告げたらどんな顔するか分かんないし。
困った顔されたら困るし。
そんな生活をしてたらバッタリ及川に出会した。
こんな時に及川に会うだなんてほんとについてない。


「及川さんで良ければ話聞くよ?」
『間に合ってます』
「じゃあちょっとお茶付き合ってよ!」
『えぇ』
「パフェ御馳走するよ?」
『じゃ、いく』
「決まりね!」


断った所でしつこい気がしたから押し問答も面倒だし大人しく着いていくことにした。
パフェも食べたかったし何か気晴らしがしたかったのだ。
貴大にも会えてないし。


「みょうじちゃん」
『んー』
「倦怠期なの?」
『どうして?』
「マッキーが言ってたよ。デートのお誘い断ってんでしょ?」
『あー』
「マッキー落ち込んでたよ」
『だからアンタここに居たんだ』


パフェがイチオシのカフェで及川とお茶をする。そう言えば貴大ともここに来たことあるなぁ。
今日は季節のフルーツパフェ。
及川は向かい側でアイスコーヒーを飲んでいる。
学生時代は珈琲なんて飲めないとか言ってたのになぁ。
ちらちらと周りの女子からの視線の山だ。
私に対してではないので気にせずパフェをつつくことにする。


「別れるの?」
『及川止めてよ』
「だってマッキーほんとに落ち込んでたよ」
『そんなんじゃなくて』
「じゃあ何があったのさ。今まで絶対に週1で会ってたでしょ」
『別に』
「みょうじちゃんどうしちゃったのさ。別れるにしろマッキーとはちゃんと話してよ」


返す言葉が見つからない。
適当に笑って誤魔化したら良かったのに精神的にもそんな余裕は無かったのだ。


『及川はさもし彼女が今妊娠したらどうする?』
「え」
『ほらこないだ言ってたでしょ?結婚するか考えるかって』
「あーあれ?そりゃ責任は取らないとだよね。大好きな彼女だし」
『でもほら色々無理でしょ?』
「親に土下座してでも何とかするよ」
『そっか』


あっさりと私の質問に及川は答えてくれた。
そうか、及川はそうするんだね。


「みょうじちゃんそれってもしかして」
『……生理が来ないんだよね』
「病院は?」
『行ってないけど』
「マッキーに話すべきでしょ」
『やだ』
「みょうじちゃんそんなこと言わずにさ」
『嫌なものは嫌だ』


堕ろしてほしいって言われたらそれで終わりだ。
だから貴大には絶対に言えない。
これだけは譲れない。


「でもさ、マッキーのこと嫌いなわけじゃないんだよね?」
『嫌いだったら悩んでないし』
「それなら良かったよ」
『良かったって何が「お前そんなこと一人で悩んでたわけ」


私の言葉に及川はニコニコしていた。
何でもう問題が解決したみたいな顔してるんだと突っ込もうとしたら頭上から声が落ちてきた。


『は』
「俺がマッキーにここにみょうじちゃんといるよって連絡しちゃったの」
「俺、倦怠期かと思って別れの危機だと思ってたんですよなまえサン」
『……』
「んじゃ俺帰るから。またみんなで集まろうね」


まさか及川が貴大に連絡してるとは思ってなかった。
考えたら分かるはずなのにだ。
そんなことに気が回らなくなってるなんて重症だ。
及川と入れ違いに貴大が席に座った。
これはどこから聞いていたんでしょうか?
冷や汗がどっと背中を伝っていく。


「なまえ」
『はい』
「俺のこと嫌いになった?」
『そんなこと、なるわけないし』
「俺そんなに頼りなかった?」
『そうじゃない』
「じゃあ何で話してくれなかったんだよ」
『うちらまだ学生だし』
「そうだけどさ、一人で考えて答え出たの?」
『それは…』
「一人より二人で考えるべきなんじゃないの?」


私の目の前には心配そうな貴大が座っている。
堕ろせって言わないのかな?
面倒だなとは思わないのかな?


『だってこないだ』
「こないだ?」
『まだ分かんないしって貴大言ったから』
「あー?あ!及川のやつ?」
『うん』
「あんなとこでお前と結婚するなんて言えなかったんだって。気恥ずかしいでしょ?」
『子供とか考えれないって』
「や、一人で考えたことはあるけどそれを及川達に聞かれるのって絶対に嫌だったしなまえがそれ聞いてドン引きしたの見たくなかったし」
『ドン引きするわけないじゃん』
「俺のせいで悩んでたんだな」
『迷惑かけちゃうなぁって』
「俺のせいでしょ。なまえが悪いんじゃなくてさ」
『話せなくてごめん』
「や、理由が分かったからいいよ」
『うん、ありがとね』
「ちゃんとけじめはつけないとな。ま、今しても卒業してからしても一緒だろ」


その後二人で産婦人科に行った。
貴大はかなり浮いてたけど付き添ってくれた。
先生に診てもらった結果単に遅れてるだけだって言われて二人して拍子抜けしてしまったのを覚えている。


『あったねそんなこと』
「つーか巻き込まれたんじゃなくて勝手に巻き込まれに言ってんだろ」
「ちょ!足を蹴らないでってば!」
「まぁ、今はほんとに居ますけどねー」
「オメデタなわけね」
『そんな感じ』
「ま、及川には一応感謝してるかな」
『一応ね』
「赤ちゃんの名前どうするの?及川さんが名付け親になってもいいよ!」
「「「『却下』」」」
「みんなして即答なの!?」


あの時は真剣に悩んだけれど今思うと妊娠検査薬なり試してみれば良かったんだよね。
そしたら直ぐに結果は出てたわけで。
あぁ、本当に若かったなぁ。
目の前で及川が三人に弄られている。
相変わらず楽しそうだなぁ。


「結婚式は?」
『んー多分しない』
「えぇ!?二次会の幹事やるよ!?」
「一応レストランでそれらしいのはやるけどな」
『結婚式だとお金かかるし』
「子供第一って決めたの」
『岩泉と松川は色々教えてね』
「おー」
「俺達で良ければな」
「俺は?ねえ!俺は?」
『じゃあレストランウエディング及川に任せるよ』
「ちょうどいいかもな。俺達忙しいし」
「丸投げも酷くない!?」


丸投げした結果レストランウエディングは素晴らしいものになった。
本人も私の大学時代の友達と知り合えて楽しそうだからまぁいいか。
ちなみに及川が結婚するのはこの5年後の話になる。


貴大、2回目は直ぐに話せたし「籍入れよっか」ってすんなり返事をくれてありがとう。
これからもよろしくね。


誰そ彼様より
66様リクエスト第二弾。
HQの二口もしくは花巻で、カップル同士の喧嘩、すれ違いからのハッピーエンドとのリクエストでした。
にろちゃん人気凄いですね。
と言うことで生誕祭以来のマッキーでした。
マッキーメインじゃなくてもはや及川メインな気がしなくもない。
及川をこんな風に扱うのは彼らだけだよね(笑)
リクエストありがとうございました!
2018/07/04


Modoru Main Susumu
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