初めてのオツカイ

リトプリ。木兎と妹の初めてのお使い


「なまえ?忘れ物無いか?」
『うん、大丈夫だよ光ちゃん』


光太郎となまえが玄関で出掛ける準備をしている。
部活が休みの日曜日の午後二人で出掛けることになったのだ。
事の発端はなまえの学芸会の衣装作りだった。


「光ちゃん、聞いてちょうだい!なまえが主役になったのよ!」
「へぇ!凄いななまえ」
『うん』
「どーした?元気無いぞ?」
『ちゃんと出来るかなって心配なの』
「何をやるんだ?」
「美女と野獣のベルをやるのよー」
「凄いななまえ!」
「それでねドレスを作るんだけどビーズとボタンが足りないのよ」
「それで?」
「光ちゃん今日部活お休みでしょ?なまえと買いに行ってきてちょうだい。なまえ、好きなの選んできなさい。ママが誰よりも可愛いドレス作ってあげるから。あと今日の夕飯は焼き肉にしますからね」
『分かった』
「光ちゃんもいいわね?」
「なまえと焼き肉のためだからな!行ってくる!」


ノリノリの母親とは対象になまえは浮かない顔をしている。
それに気付きつつも光太郎はなまえの手を引いて出掛けることにした。


「なまえ、お姫様嫌だったのか?」
『そんなことない』
「でも元気無いだろ?」
『ちょっと心配なの』
「じゃあ俺が練習付き合ってやるから!何ならあかぁーし達にも手伝わせるぞ!」
『いいの?』
「アイツらもなまえに会いたいって言ってたからちょうど良かったんだよ。だから大丈夫だかんな!」
『うん、光ちゃんありがとう』


母親に指定されたのは電車を乗り継いだ場所にあるこじんまりとしたビーズボタン専門店だった。


「凄いななまえ!」
『うん、凄い!』


床から天井までビッシリと小さな箱で埋め尽くされている。
その一つ一つに見本となるビーズとボタンが貼り付けられていた。


「おやお客さんかい?」
「ちはッス!」
『こんにちは』
「今時ちゃんと挨拶から出来るなんて珍しいねぇ。何を探しにきたんだい?」
「妹の学芸会で着るドレスのなんだ?」
『ボタンとビーズ』
「そうそれだ!キラキラしたやつがいいんだよな?」
『うん』
「アンタ達兄妹なんだねぇ。聞かなくても直ぐ分かったよ。そんじゃちょっと待ってな。オススメ出してやっから」


奥から嗄れた声が二人へと掛けられる。
どうやらこのお店は老婆が一人でやってるようだ。
老婆が立ち上がり二人の元へと近付いてきた。


「お母さんに作ってもらうのかい?」
『うん、ママお裁縫上手なの』
「今日の俺となまえの服も作ってもらったもんな!」
「あぁ、アンタ達木兎さんとこのこだったんか」
『ママ知ってるの?』
「うちのお得意さんだよ。そうかい、こんな大きな子供がおったとは。知らなんだ。っと確かこの辺りに」
「婆ちゃん!ちょい待ち!」


老婆が踏み台をずらして上がろうとしたのを咄嗟に光太郎が止めた。


「どうしたんだい?」
「危ないから俺が取る!」
「そうかいそうかい。じゃあ頼むとするよ」
「番号言ってくれれば分かるから!」
「それじゃあね」


どこに何があるのか知ってるかのように老婆がスラスラと番号を告げていく。
光太郎の方がそれについていけないくらいだった。


「婆ちゃん速すぎ!」
「頭ん中に全部入ってるからねぇ。ま、こんだけあれば気に入るのがあるじゃろ」
『わぁ!』


光太郎がビーズやボタンの山を見せるとなまえは目をキラキラとさせた。
色とりどり様々な大きさと形のボタンとビーズがそこには並んでいる。


「綺麗だな!」
『うん、綺麗』
「ゆっくり選ぶといいよ」
『はい』


人見知りながらも老婆の言葉になまえはこくりと頷き返す。
その様子に目を細めると老婆は元の場所へと戻っていった。


「どれにすんだ?」
『んーと、黄色いドレスだからこれと』
「お、それも綺麗だな」
『後これも』
「それもすげーキラキラしてんなぁ」


キラキラの山からなまえがいくつかビーズとボタンを選んでいく。
それに光太郎が一つ一つに反応している。


『これで大丈夫』
「決まったな!婆ちゃん!これにした!」
「おやまぁ、沢山だね。まぁ木兎さんだから余ったら他のに使うだろうからいいか」
「足りないと困るもんな」
『うん』


会計を済ませて忘れ物は無いかと二人で確認してる時だった。


「そうだ、オマケにこれをやろうかね」
『わぁ!綺麗!』
「婆ちゃんこれ高いんじゃないのか?」


老婆が座っている後ろにも沢山のボタンが並んでいる。
その一角から大きなブローチにでもなりそうなボタンを一つ取り出した。
それはなまえの手の平程の大きさでキラキラと光を反射して輝いている。


「子供がそんなこと気にすんじゃないよ。婆もいつまで生きるか分かんないしね。ボタンはあの世には持ってけねぇしいいんだよ」
「そんなこと言わずに長生きしろよ婆ちゃん!またお使いに来るから」
『うん、また来る』
「アンタ達本当にいいこだねぇ」
「普通だって!婆ちゃん居なくなったら困る人沢山いるぞ!」
『ママも困るよ』
「ありがとねぇ。じゃもう少し頑張らんとねぇ」
『……ボタンは?』
「あぁそれはもうアンタにあげたから返さなくていいからね。気にすんじゃないよ」
「婆ちゃん!駄目だって!」
「アンタも意外と真面目だねぇ。じゃあこうしよう。そのボタンも使ってドレスにしとくれよ。それで婆にもドレス姿見しとくれ」
「そんなんでいいのか?」
『いいの?』
「そりゃいいに決まってるだろ。今日は嬉しいこと沢山あったからな」
「じゃあ楽しみにしてろよ婆ちゃん!」
『学芸会頑張るからお婆ちゃんありがとう』
「ありがとな!」


なまえは掌のボタンを大事そうに自分の鞄へとしまい老婆へとお礼を告げた。
光太郎もそれに続き老婆は嬉しそうに二人を見ている。


「婆ちゃんまたな!」
『またママと来るね』
「えぇえぇ、待ってますとも。二人とも気を付けて帰るんだよ」
「はーい」
『はい』


店の外まで二人を見送り姿が見えなくなるまで老婆はそこに立っていた。


「婆ちゃん誘って学芸会見に行くかんな!」
『ちゃんと練習する。頑張る』
「約束したもんな?」
『うん』
「赤葦達にも付き合ってもらうぞなまえ」
『京治君達も来るの?』
「多分そこらで休みあるからなー」
『頑張る!』


なまえの学芸会へ一緒に行かないかと光太郎が提案したことを老婆は驚きつつも喜んだ。
ドレス姿を見せてほしいとは言ったもののまさか直接見えるとは思ってなかったのだ。
当日はなまえの家族と老婆と梟谷部員と大所帯でなまえの晴姿を見守った。


「アンタの息子も娘もいいこだねぇ」
「私の子供ですよ?」
「長生きすると良いこともあるもんだね」
「まだまだこれからですからもっと長生きしてくださいな」
「……年を取ると涙もろくていかんね」
「また遊びに行くって言ってましたよ」
「そうかい。ほんといいこ達やねぇ」


学芸会を無事に終えて梟谷部員達と戯れるなまえを母親と老婆二人で見守っている。
老婆の目にはうっすらと涙が浮かんでいるのであった。


ひかり様リクエスト第三弾。
リトプリ木兎兄妹・二人でおつかい(木兎がちゃんとお兄ちゃんしてる)とのリクエストでした。
おつかい思ってたより難しかった(´・ω・`)
木兎は妹と二人きりだったら意外とちゃんとしてそうだよね。
そして見知らぬ人にも親切な気がする。
英語話せないのに困ってる外国人にも臆せず話しかけに言ってほしい。
英語話せないから結局周りの人を巻き込むんだけどね(笑)
ひかり様リクエストありがとうございました!
2018/07/02


Modoru Main Susumu
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