愛してるを叫ぶ青春の窓

『二口セーンセ』
「またお前かよ」
『今日はちゃんと怪我したもん』
「あのなぁここに来るために怪我してるんじゃねーのお前」
『違いますー。今日は普通に怪我したもん』
「普通って怪我はするモンじゃねえよ。ほら見せてみろ」


体育のソフトボールで張り切ってダイビングキャッチしたらほっぺた擦りむいただけですー。


「あー。女の子なんだから少しは気をつけろよ。せっかく可愛い顔なのに」
『可愛い?ほんとに可愛い?』
「おじさんから見たら女子校生はみーんな可愛いよ」
『ちぇ』


おじさんって自分で言うけど二口先生はまだ25歳じゃん。
早く座れと言うかのように二口先生の前の丸椅子をポンと叩いたので遠慮なく座らせてもらう。
今年からうちの高校に赴任してきた二口先生は一目でうちの女子生徒の心を鷲掴みにした。
保険医ならぬその態度が余計にウケたのかもしれない。


「あーあー。思いっきり擦りむいてんな」
『おかげでワンアウト取りましたよ!』
「体育の授業ってもっと適当に受けねぇの?俺はそうだったけどな」
『えー。体育は日頃のストレスを発散する場ですよ!』
「お前日頃どんだけストレス溜まってんの」


私の言葉に二口先生は鼻で笑った。
あ、その顔も格好良くて好きだ。
消毒液が頬に染みて痛むけどやっぱり怪我をして良かったかもしれない。


「んで次足な。ほら見せてみろ」
『えっ』
「ジャージの下擦りむいてんだろ。見えなくても分かるっつーの」
『凄いね先生』
「あのな保険医なんだからな。当たり前だろ」


ジャージは無傷だったけど膝がジンジンと痛むのは気のせいでは無かったらしい。
恐る恐るジャージを捲ると膝に痛々しく血が滲んでいた。


『あー痛そう』
「痛そうじゃなくて痛いだろ?ったく怪我には気をつけろってあんだけ言ってんのに。お前くらいだぞ一週間に何回も来るやつ」
『二口先生に会いたいじゃん』
「はいはい。ありがとな」
『またそうやって受け流すー』
「そんなの今だけの感情だって。俺も高校の時に英語の先生好きだったモンなー」


膝の処置をしながら二口先生は目を細めている。先生が好きだった英語の先生ってどんな人だったんだろ?
先生の高校時代とかなんか全然想像出来ない。


『女子校生は今だけなんだよ!』
「あのな、その女子校生に手を出した時点で俺クビな」
『じゃあいつならいいのさ』
「お前が卒業しても俺のこと好きなら考えてやるよ」
『それみんなに言ってるでしょ?』
「まぁな」


悔しい!その余裕のある表情も格好良いけど全然相手にされてない気がして悔しい!


「そんなに捲れると可愛い顔が台無しな。ほらこれで大丈夫だろ。もう今週は来るなよ」
『二口先生に会いたいから無理!体育に戻ります!』
「今日はもう見学にしとけよー」


笑いを堪えてるのが背中越しでも分かった。
みんなは一時の感情で二口先生のことを格好良いって言ってるんだろうけど私は違うんだよ?
先生どうして分かってくれないかな。
何で私が高校3年になった時に赴任してきたのさ。もう二年早かったら先生との時間も沢山あったのに!


春が過ぎて夏休みが終わっても私が保健室に通う頻度は週2、3回から減ったりはしなかった。毎回怪我をするわけじゃなくて顔を出すだけの時もあったけど暇そうな時は嫌味を言いながらも相手をしてくれた。


『先生、いるー?』
「おー。みょうじどうした?サボり?」
『私が授業をサボったこと一度も無いよ!』
「知ってる。お前意外と真面目だよな」
『サボって先生に会いに来たら怒られるでしょ』
「そりゃそうだろ。当たり前だ」
『もう秋だよ先生ー』
「文化祭近付いてるな。んで、どうしたんだ?」
『文化祭の準備で釘打ってたら指を打ち付けました』
「不器用だな」
『心配する前に笑うの!?』
「顔見れば大体分かる。ほら診てやるから座れ」


私の大好き攻撃も先生には通用しないらしい。
春に女子生徒に巻き起こった二口先生ブームも今や落ち着きつつある。
今でも先生のこと好きなのきっと私くらいだよ?


『先生って結婚してるの?』
「してねぇ」
『何で?』
「する相手が居ない」
『じゃあ私なんて』
「ちゃんと大学行って就職したら考えてやってもいいぞ」
『何年先だよ!』
「五年後だな」
『またそうやって適当にはぐらかして!』
「そうむきになるなって。煩いから」


涼しい顔して私のアピールをいつだって受け流してしまう。
後半年しかないのにどうしたらいいんだろ?


「ちゃんと残り半年の高校生活楽しめよ。今しか無いんだから」
『分かってるし。でもその女子校生の気持ちを無下にしてるのは先生なんだからね!』
「はいはい。んじゃこれで大丈夫だな。文化祭の準備頑張れよ」
『うちのクラスの出し物一般投票で優勝するんだからね!』
「期待しとくわ」


うちのクラスは文化祭にクレープ屋さんをやる。
高校生活最後の文化祭だからみんなとても張り切っていた。
この雰囲気なら本当に一般投票の屋台部門で優勝出来るかもしれない。
それからは忙しくて先生のとこに行ける回数が減った。
週1は顔を見に行ってるけど怪我をしてる場合じゃないから体育の授業も文化祭の準備も気を付けたのだ。


気付けばあれよあれよと文化祭当日がきて後夜祭まで終わってしまった。
クラスの文化祭実行委員として奔走したかいがあったと思う。
宣言通り私達のクラスは屋台部門の一般投票で一位を獲得出来たのだ。


クラスでの打ち上げを実行委員の片付けを理由に断って急いで片付けを終わらせて保健室へと向かう。
先生まだ居てくれるかな?


『二口センセ?』
「おー」


保健室に行くと先生は窓際でまだ賑わっているグラウンドを見つめていた。電気は消えたままだ。
私の声には反応したから誰かは分かってるんだろう。
その隣へと行き私も同じようにグラウンドを眺める。
まだキャンプファイアーがパチパチと音を立てて燃えさかっていた。
文化祭が終わったら後はもう受験戦争しか残っていない。


「優勝したんだってな」
『宣言したからには頑張ったよ!』
「おー偉い偉い」
『御褒美は?』
「そんな約束してないだろ」
『バレたか』
「まぁでも頑張ってたみたいだからな」
『良い思い出作りになったよ』
「ま、少しくらいは御褒美やってもいいけどな」


先生からの御褒美?
え、何をくれるんだろうって隣の先生を見上げると二口先生の手が私の頬に触れた。
暗がりでも先生の顔は格好良い。
その顔に見とれていたら先生の顔がゆっくりと近付いてきた。
慌ててぎゅっと目を閉じると唇に柔らかい感触がした。鼻先を微かに煙草の匂いが擽る。
え、期待はしてたけどこれってもしかして!


「顔真っ赤になってんな」
『え?ほんとに?』
「内緒だぞ」
『夢かな?』
「バカ、夢じゃないからちゃんと覚えとけよ」
『先生煙草吸うんだね』
「少しな。学校じゃ吸えないけど」
『嫁にしてくれる?』
「大学ちゃんと卒業出来たらな」


本気で言ってるの?
え、明日私死んじゃわないかな?
大丈夫かな?嬉しくて先生に飛び付こうとしたらそれは阻止された。


『何でさ!』
「お前場所を考えろ!学校だぞ!」
『さっき先生が!』
「あれは単なる御褒美。我慢出来ないなら嫁には貰ってやんね」
『意地悪!』
「俺が仕事クビになっていいのかよ」
『それは困る』
「んじゃ卒業まで我慢しろ」


直ぐそこに先生がいるのに!
でも先生が言ってることの方が正しい気がしたから我慢した。
ここで私が騒いだら先生が捕まってしまう。


『二口先生、大好きです!愛してる!』
「おー」


またもや涼しげに私の言葉を受け流してる気がしなくもないけれど御褒美をくれたから我慢することにした。
と言うか学校内でキスする方がよっぽど危険だったよね?
保健室に明かりが点いてなかったから良かったものの。


「卒業おめでとう」
『先生!先生のおかげで第一志望受かったよ!』
「お前ほんと頑張り屋だよな」
『これでランクアップ出来る?』
「まぁな。俺も今年いっぱいだったし」
『そうなの?』
「母校に保険医の空きが出来たからそっち行くんだよ」
『そっか』
「働いてる高校の生徒だったお前とは付き合えねぇしなー」
『私のため?』
「んーどっちも。高校の同級生が母校で監督してんだよ。コーチが居ないって嘆いてたから」
『先生!大好き!愛してる!』
「はいはい。んじゃ帰るぞ。送ってってやる」
『はい!』
「後もう先生は禁止な」
『二口?』
「何でだよ。堅治。俺の名前堅治だからな」
『呼び捨ていいの?』
「今更別に気にしねーよ」


あっという間に卒業式だった。
一年があっという間でその全てが二口先生大好きで始まり二口先生大好きで終わった気がする。
文化祭の約束を糧にして受験戦争も何とか乗り切った。
卒業式が終わったら先生が待っていてくれた。
「そんな約束したか?」ってはぐらかされたらどうしようって不安だったけど大丈夫だったみたいだ。
この一年先生を好きでいて良かった。
頑張って良かった。


先生、これからもずっとずーっと大好きです!


誰そ彼様より
ちゃこ様リクエスト。
保険医な二口堅治と女子高生のお話とのリクエストでした。
二口が保険医とか!書いてて物凄い楽しかった!最初は煩わしかったのが一途な夢主に絆された二口でした(笑)
このもしもシリーズ楽しいかもしれない。
そしてにろちゃん人気ですな(笑)
リクエストありがとうございました!
2018/06/27


Modoru Main Susumu
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