Sweet Haunted House

『お化け屋敷?』
「そうそう、樹っちゃんからチケット貰ったんだ。たまにはなまえと二人で行ってこいってさ。梅雨だとテニスも出来ないし海でも遊べないしね。それにさ、最近構ってあげれてないからね」


「どうかな?」そう言って虎次郎は私の顔を覗きこむ。
樹っちゃんなんてことをしてくれたのか。
虎次郎と遊びに行けるのは嬉しい。
けどお化け屋敷じゃなくたって良かったと思う。
お化け屋敷は怖い。かなり怖い。
けど虎次郎がせっかく誘ってくれたんだから行きたい。二人きりだなんて久しぶりだもん。


『うん、行く』
「それなら良かった。じゃあ早速今日の帰りにでも行こうか」
『えっ?』
「半日授業だしさ」
『あ、そっか』
「ちゃんと迎えに来てよなまえ」
『うん、分かった』


虎次郎の教室の前で一旦お別れだ。
3年になってクラスが離れちゃったのはついてないよね。


「なまえー?どうしたの?サエと喧嘩でもしたのー?」
『樹っちゃん!何でお化け屋敷なのー』
「家にチケットが余ってたからだねー」
『怖い』
「そうやってサエに言えばいいんじゃないのー?」
『せっかく虎次郎が誘ってくれたの断れないでしょ?』
「二人きりは久々だもんねー。でも怖くてもサエがいるなら大丈夫だよ」


樹っちゃんはお気楽にそうやって言うけれど怖くて失神しちゃったらどうしよう。
ダビデや剣太郎に笑われちゃうかもしれない。
それでも一度行くって虎次郎に言ったからには今更お化け屋敷に行きたくないだなんて言えなかった。
樹っちゃんが私のために虎次郎に渡してくれたんだろうし。
小学生から一緒な私達は高校に入ってからも仲良しで天気が良ければテニスをしてみんなで海に行く。
虎次郎とは中学から付き合ってるけれど二人きりの時間は殆ど無い。
私だってみんなとは仲良しだからそれを気に病んだりしたことは無かったけど多分気を利かせてくれたんだろう。
あの中じゃ昔から樹っちゃんが虎次郎の次に気が利くのだ。


『虎次郎ー!迎えにきーたよー!』
「彼女が迎えに来たから。また明日ね」
「佐伯君またねー」
「数学の課題忘れちゃ駄目だからねー!」
「分かってるよ、じゃあまたね」


相変わらず虎次郎の周りには女の子が沢山だなぁ。
あ、違う。男女問わず虎次郎の周りには人が多い。それも虎次郎の人柄なんだろうな。


「なまえ、じゃあ行こっか」
『お化け屋敷怖くないといいな』
「怖くないお化け屋敷はもうそれお化け屋敷じゃないよ」


私の言葉にクスクスと笑ってるけど冗談じゃなくて本気でそう思ってるんだよ!


『手繋いでね?』
「姫、お手をどうぞ?」


そんな台詞言えるの虎次郎か青学の不二君ぐらいだよきっと!
あ、立海の部長さんも似合いそうだな。
私に左手を差し出してくれたので遠慮せずその手を握ることにする。


『虎次郎はお化け屋敷平気なの?』
「どうかな?小学生の時にみんなで行ったホラーハウス以来かも」
『あ!夏祭りのやつ?』
「そうそう。なまえが大泣きしてそれに剣太郎も釣られて下級生の子達も泣いて大変だったよね」
『怖かったよあれは!』
「と言うことはなまえお化け屋敷良かったの?」
『んー』
「怖いならお化け屋敷じゃなくたっていいんだよ」
『虎次郎がいるから大丈夫、だよ』
「無理しなくていいんだよなまえ」
『樹っちゃんがせっかくくれたし虎次郎とふ、二人でデートしたいよ』
「そっか」


帰り際に樹っちゃんに言われたのだ「お化け屋敷なら甘え放題だね」って。
顔から火が出ちゃいそうだ。
二人でデートとか何それいつぶり?
嬉しいけどよくよく考えてみたらなんだか恥ずかしくなった。


「なまえ、そっち濡れてない?」
『大丈夫だよ?でも自分で傘させるよ?』
「今日はお姫様だからね。だーめ」


悪戯っぽく虎次郎が言うからそれ以上は何も言えなかった。
私がお姫様だったら虎次郎はそれこそ王子様だよ。樹っちゃん、何故か甘える前に甘やかされてます私。


「結構本格的な造りだね」
『純和風なお化け屋敷みたいだよ』
「なまえ大丈夫?」
『虎次郎いるから、平気』


今日は平日の雨だからかお化け屋敷は空いているみたいだった。
待ちもなくさくさくと中に通されてしまったのだ。心の準備がまだ全然出来てないよ私!
ぎゅっと繋いだ手を握り締めたら虎次郎が握り返してくれた。


「俺がいるから大丈夫だよなまえ。さ、行こうか」
『うん』


━━とおりゃんせ とおりゃんせ━━
━━ここはどこの細道じゃ━━
━━天神さまの細道じゃ━━


恐る恐る歩みを進めていると最初に歌が聞こえてきた。
この暗闇でとおりゃんせとか怖すぎるよ!
目の前には神社の鳥居のようなものまで見えてきたし。


「なまえ?」
『歌が聞こえるとか怖い』
「珍しいよね多分」
『虎次郎ちゃんと隣に居てね』
「俺は今日は姫の騎士だからね。当たり前だよ」


どうやら道順的に鳥居を潜らなきゃいけないらしい。
怖すぎるんですけど!
と言うかあれ?虎次郎は騎士なの?
てっきり王子様だと思ったのに。


『何で騎士?王子様じゃなくて?』
「騎士の方がお姫様を守れる気がするじゃん」
『私からすると虎次郎は王子様って感じなのに』
「俺は騎士の方がいいなぁ。王子って柄じゃないよ俺は」


虎次郎が王子じゃなかったら誰が王子になれると言うのか?
あれかな?青学の越前君とかかな?
でもあんな生意気な王子様嫌だなぁ。


『どっちでもいい』
「結局それ?」
『虎次郎が隣に居てくれたらいいの。それで六角のみんなが居たら楽しいから』
「俺はねなまえのそういうとこ好きだよ」
『えっ』
「絶対に俺に自分のこと優先してって言わないでしょ」
『だってみんなといるの楽しいよ?』
「確かにそれは俺も同じだけどさ。二人きりがいいって女の子多いみたいだよ」
『んー二人きりも楽しいけど虎次郎も樹っちゃん達もみんな同じくらい大切だからなぁ』
「俺が逆に妬けちゃうよねそれ」
『そうなの?』
「どうかな?たまにね」


え、虎次郎が妬くの?初耳なんだけど?
さっきの突然の「好き」もかなりびっくりしたけれどまさかの虎次郎がヤキモチ妬くなんて二度びっくりだ。


「もっと束縛してくれていいんだよなまえ」
『えぇ、してるよ?』
「俺には足らないよ」
『だって虎次郎絶対に私のこと優先してくれるから束縛する必要あんまり無いんだもん』
「どういうこと?」
『今日だってクラスの女の子と話してたけど私が呼んだら直ぐに来てくれるでしょ?だからそれで充分なんだよね』
「あぁ、そっか」
『充分束縛してる気がしない?私中心だよね』
「そういう束縛の仕方もあるんだね」
『そういうこと』


鳥居を潜ると小さなお社があった。
まだ何にも遭遇してないけど自然と会話が止まってしまう。


━━いきはよいよい━━
━━帰りはこわい━━
━━こわいながらも━━
━━とおりゃんせとおりゃんせ━━


「ここからお化け屋敷みたいだよ」
『え?』
「だからとおりゃんせなんじゃないかなと」
『あーこわいながらもって言ってるね』
「そうだね。じゃ行こうか」
『分かった』


虎次郎の言うことは当たった。
とおりゃんせの歌の雰囲気にすっかりびひらされた私はその次のエリアから散々叫んだと思う。
結局途中で腰を抜かして虎次郎にお姫様抱っこしてもらう始末だ。


「なまえ、これなら怖くないよ」
『失神するかと思った』
「あ、やっぱり俺王子様の方がいいかも」
『騎士じゃなくて?』
「王子様のキスじゃないとお姫様は起きないよね」
『虎次郎はどっちもなんだよ』
「ん?」
『私の王子様で騎士なんじゃないかなぁって』
「それいいね」


怖いから虎次郎の肩に顔を埋めて周りを見ないようにしながら会話を続ける。
もはやお化け屋敷の意味は無いけれどお姫様抱っこなんて初めてしてもらったから来て良かったかもしれない。


『虎次郎、私も大好きだからね』
「俺のがなまえのこと好きなの分かってないよね」
『嘘だー』
「束縛されたい俺が束縛したいだなんてなまえにしか思ったことないからさ」
『虎次郎なら束縛してもいいよ?』
「やだ。なまえが俺のこと束縛してよ。もっとさ」
『えぇーむーりー』
「知ってる。そうやって言うから俺の心はなまえに縛られてるんだよ」


もう。言ってることが矛盾だらけだよ?
束縛して欲しいけど束縛しない私が好きってこと?
でも心が縛られてるってことは結局束縛してるようなものか。


『虎次郎、今日はありがとね』
「俺がなまえと二人きりになりたかっただけだから」
『みんなとも楽しいけど虎次郎と二人なのも幸せだなぁ』
「そうだね。たまにはまたこうやって二人でデートしようか」
『うん!』


出口の明かりが近付いてきたので顔を上げると至近距離に虎次郎の顔がある。
あぁもう本当に王子様みたいな整った顔してるなぁ。
二人で額を合わせると自然に笑みが零れた。


『しゃ、写真!?』
「そう言えば出口付近にカメラありますって書いてあったや」
『えぇ!?知ってたの?』
「俺達だけ雰囲気違うよね。あ、32番二枚ください」
『恥ずかしい。何のために出る前に降ろして貰ったのか』
「いいじゃん。しばらくここに掲示されるって」


66様リクエスト。
テニプリのサエさんで、彼女とお化け屋敷に行く甘甘とのリクエストでした。
初サエさんで書いてて楽しかったー!
サエさんは誰に対しても平等で優しいイメージ。
それ以上に周りを大事にする彼女のイメージで書いてみました。でも口調とか難しかったかも(´・ω・`)
サエさんもっと研究しなくては!
六角もルドルフと一緒でわちゃわちゃ書くのも楽しそうだなぁ。
リクエストありがとうございました!


Modoru Main Susumu
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