series Valentine企画【CryLieRise】の続編東京の大学へと進学して早くも3年が経過しようとしている。
私と堅治の遠距離恋愛もぼちぼち順調だとは思う。喧嘩をしたり揉めたりもあったけど、お互いの努力もあって関係は続いている。
それでも悩みは尽きないもので、最近ずっと頭を悩ませているのは就職のことだった。
地元に戻るのか、このまま東京で就職するのか。東京で就職するならばやりたい職業を選ぶことが出来る。それが地元となるといくつか条件を妥協しなければならなかった。
「おい、ぼーっとしすぎじゃね?」
『あ、ごめん』
大晦日、一人暮らしをしている堅治のところへと泊まりに行った。実家には年が明けてから帰ることになっている。
私は未だにどっちで就職活動をするか決めきれずにいた。なるべく早目に決めないといけないのはわかっているものの、なかなか行動出来ずにいる。
堅治はと言うと既に地元での就職が決まってるらしく(お父さんの知り合いの建築士さんのところで修行するらしい)焦りなんてものはなく悠々自適そうに見えた。
大晦日恒例のお笑い番組を二人で観ているものの、私はまったく集中出来ずにいた。
その結果、隣で堅治が笑ってるにも関わらず無反応だったから突っ込まれたんだろう。
「お前何かあった?」
『うーん』
「答えになってねーし。つーかそれ何かあったって言ってるようなものじゃね」
『なくはない、かも』
テレビがつまらないわけじゃない、けどそろそろちゃんと答えを出さないとこのままでは就職難民になってしまう。
堅治からの問いかけにも歯切れ悪くしか返せず隣からの責めるような視線が痛い。気付かない振りをしてマグカップになみなみ注がれたココアを飲んでみてもどうしたらいいのか良さそうな案は浮かんでこなかった。
「あ、俺今度仙台フロッグスのトライアウト受けるから」
『え?』
「ま、合格するかはわかんないけど」
仙台フロッグス?いきなり話が変わったおかげで全然付いていけない。頭の中が疑問符で埋めつくされる。
仙台フロッグス、トライアウトと続くのならばこれはきっとバレーのことを言ってるんだろう。
高校3年の夏に全国大会に出場して、その勢いで堅治は大学でもバレーを続けている。
『え、建築士は?』
「どっちも。二部リーグだから選手はみんな普通に仕事してんの」
『そうなの?』
「トライアウト受けるだけだからどうなるかわかんないけどなー」
缶ビールをぐびりと飲んで堅治はまるでそれが些細なものかのように笑った。私はこんなにも自分の将来のことを悩んでると言うのに、どうして堅治は一人で決めちゃうんだろう。
そのまま堅治の視線はテレビへと戻りお笑い番組に合わせて笑っている。
隣の堅治が笑えば笑うほど私の心は冷えていく。
「怒ってんの?急に黙って」
『怒ってない』
「や、それ確実に怒ってんだろ」
『怒ってません』
しばらく黙っていたらようやく堅治が私の異変に気付いたらしい。缶ビールをテーブルに置いて私の顔を覗きこむ。
どこからどう見ても私の態度は苛ついているだろう。けれど素直にそれを認めたくなんてなかった。
「怒ってんじゃん」
『ちょっと、何でそこで笑うかな!』
呆れて盛大な溜息でも吐かれるかと思ったら予測に反して堅治は笑い声を上げた。
そのまま私の両頬をむにむにと摘まむ。そんな楽しそうに笑ったって私の気持ちは収まらないんだからね!
「トライアウトのこと相談しなかったから怒ってんの?」
『違いますー』
「じゃ他になんかあったか?」
『だから怒ってない』
「や、まだ全然不機嫌顔だろ」
『それは堅治がほっぺた摘まむからでしょ』
「俺はなまえの表情筋を柔らかくしてやってんの」
痛くない程度に頬を引っ張ったり回したりを繰り返している。真剣にそんな風に言われたらさすがの私も笑ってしまう。
表情筋を柔らかくしてやってるってなにそれ。
「お、やっと笑った」
『堅治が変なこと言うからでしょ』
「なまえが変な意地張ってんのが悪い。ちゃんと話せばいいだけだろー?」
こうなったらもう私の負けだ。実際に笑ってしまったし堅治の意識は完全にテレビから私に向いている。
『就職』
「就職?まだ諦めるには早すぎじゃね?俺らまだ大学3年だぞ」
『そうじゃなくて、どこで…就職しようかなって』
「あーなるほど。何、お前ついに遠恋辛くなったわけ?」
歯切れ悪く答えたら堅治はニヤニヤと表情を綻ばせた。その余裕そうな表情にムッとするも図星過ぎて何も言い返せない。
「また不機嫌顔になってんぞ」
『誰のせいだと思ってるのさ』
「あ?俺?」
『他に誰もいないよ』
「いやいや、俺別に何も言ってないよな?」
『そうやって何も言わずにさくさく全部決めちゃった堅治が悪い。私は…先のこと考えて就職のことも考えてたのに自分は一人で決めちゃってさ』
「へえ、ちゃんと俺とのこと考えてたわけだ」
『当たり前でしょう』
再び堅治が私の頬を摘まむ。こっちは不機嫌だと言うのに堅治は焦ることもなく相変わらず余裕表情だ。
「宮城と東京だろ?やりたい仕事見付けてこいよなまえ」
『それで東京に就職してどうするの?その先ってどうなるの?』
「お前考え過ぎ」
『就職したら今以上に会う回数減らない?堅治はそれで平気なの?』
やりたい仕事を選んだ結果スレ違いが増えて別れるなんて絶対に嫌だ。もう二度とあんな辛い思いはしたくない。
唇を噛みしめる私を見て堅治は目を細めた。
意地悪なニヤニヤ顔じゃなくて珍しく優しい表情をしている。
「北海道と沖縄ってわけじゃねえんだし、会いたい時は気にせず会いにこいよ。この距離なら日帰りだって出来るだろーし、俺はいつでも待っててやるから」
『…そこはいつでも駆けつけてやるとかじゃないの』
「俺が会いたくなったら会いに行くに決まってんだろ」
片手で私の頬を摘まみ、もう片方の手で私の頭を撫で回している。
『会いたい時も会いにきてよ』
「やだ。そこは会いたくなったやつが会いに行こーぜ」
『私ばっかり宮城に帰ってたら喧嘩になるよ』
「仙台フロッグスの試合東京でもあるからどうだろな?案外俺のが会いに行ってるかも」
『堅治のケチ』
「三年間の遠恋乗り越えてんだから今更何も変わんねーから心配すんなって」
私がぶちぶちと悪態を吐いてる間堅治はずっとそれに付き合って頭を撫で続けてくれた。
珍しく全部受け止めてくれちゃうからもうそれ以上は何も言えなかった。
いつもだったら私の悪態に言い返してくるのにこういう時だけ底抜けに優しいとか。
『堅治のハゲ』
「おま!ハゲてねーし!そこは訂正しろ!」
『お爺ちゃんハゲてたんでしょ?堅治もハゲるよどうせ』
「おいやめろ!隔世遺伝がどーのって話はすんなよ!気にしてんだから!」
『気にしてたんだ』
「お前、いつの間にか笑ってんじゃねーよ!」
『堅治が悪いー』
空気はすっかり元通りだ。なんだか悩んでた自分がバカらしくなってしまった。
堅治の言う通り、宮城と東京ならばそこまで遠くない。それならやりたい仕事を東京で探してもいいかもな。
バレーの試合が東京でもあるならばその応援にも行けるから一石二鳥だ。
『浮気とかしないでよ堅治』
「おい、それ俺の台詞だろ」
『私はしないもん』
「俺もしねーよ!」
社会人一年目はどちらが多く会いに行ったか数えてみるとしよう。私の方が多かったら思い切り文句を言ってやるんだから。
でもこの堅治の様子だとそんな心配は無用な気がするのだった。
相良様リクエスト。
大変遅くなってごめんなさい!
アプリが何とか動いてくれて良かったヽ(;▽;)ノ
リクエストありがとうございました!
2020/01/12