4・好きと簡単に言葉にできる君の純粋さに、僕は途惑うばかりで。
『わぁ、先輩背が高いですね』
「別にバレーしてたら僕くらいの背の高さの人なんていくらでもいるデショ」
『でも先輩くらいおっきい人初めて見ました!』
「そう」
『背も高いし先輩カッコいいですね!』
「それはどうも」


なまえとの出逢いは高二の春。
一つ年下の彼女はマネージャーとしてバレー部に入部してきた。真っ直ぐに人の目を見つめる純粋な瞳に最初は居心地が悪くなったのを覚えている。痛くなるくらいに純な彼女は僕には毒でしかなかった。


『先輩の名前ってほたるって読むんですか?』
「ハズレだね。ケイだよ」
『あぁ、その方が確かに先輩に似合ってますね。苗字も名前もぴったりです』
「そう?」
『そうですよ!私、お月様大好きなんです!』
「あぁそう」


思えば最初から僕は彼女のペースに呑まれていたのかもしれない。屈託なく真っ直ぐに難なく『好き』を告げれる彼女が僕には不思議だった。聞く人が聞いていたらあの言葉は告白に捉えかねない。あの時は王様と日向と田中さん西谷さんが聞いていなくて本当に良かった。


そんな風な彼女だから周りと馴染むのもあっという間だ。直ぐに部員達とも打ち解けた。それなのに何故か一番懐かれたのは僕だった。
この事実に当初はかなり戸惑ったと思う。王様は無いにしろ他に懐けそうな人間は沢山居たからだ。
縁下さん、西谷さん日向に山口それに谷地さん。最初に話したのだって成田さんだったはずだ。それなのに彼女は何故か僕に一番懐いた。
僕はと言えばそんな彼女をどこか面倒に感じてたと言うのに。
気付けばあっという間に半年が過ぎ、なまえは僕の彼女となった。
それから更に三年の月日が経過して今に至る。


「ツッキーってさ、みょうじちゃんみたいな子がタイプだったんだな」
「何が言いたいんですか黒尾さん」


大学は関東の大学に入学した。大学側から声が掛かったのだ。なまえがいるから悩んだものの僕の両親や兄以上に彼女が喜び、背中を押される形で進学を決めた。
その一年後、当たり前のように僕の後を追ってきた彼女は再びバレー部のマネージャーとなった。
大学のバレー部には黒尾さんと木兎さんと赤葦さんが居て、今は休憩中だ。
なまえがあちこち走り回って部員にボトルを配っている。その様子を眺めていると黒尾さんがニヤニヤ顔で隣にやってきた。


「や、ツッキーのタイプってもっと違った感じだと思ってたから」
「まぁ最初は僕もそう思ってました」


黒尾さんが言ってる意味はわかる。僕だってどうして今こんな風になってるのかわからないのだ。いつの間にかなまえが隣にいるのが当たり前になっていたのだから理由を問われても答える自信はない。


「みょうじちゃんのどこが好きなのツッキー」
「それ黒尾さんに話す必要ありますか?」
「ちょっとぐらい聞かせろって」
「変なとこしつこいからフラれるんですよ」
「俺の話はいいでしょ!まだ傷心中なんだよ俺は!」


今日の夜木兎さんと合コンってさっき聞きましたけど。突っ込むと面倒なのでそこは言わずに黒尾さんから聞かれたことに何とか答えようと思う。聞いたら答えるまでしつこいんだよなこの人。小さく息を吐いて口を開く。


「正直僕もよくわかりません。黒尾さんは笑うでしょうけど」
「へぇ、別にいいんじゃね?相手の好きなとこ聞かれて答えが直ぐに出てこないのはそんだけ好きなとこ沢山あるからって聞いたし」
「…」
「ツッキー、その変なものを見たような目ヤメテ」
「黒尾さんでもそういうこと言うんですね」
「ちょ!ツッキーの中で俺ってどんなイメージなのそれ!?」


まさかそんな風に言われるとは思ってなくてかなり驚いた。黒尾さんのことだから答えを出せなかった僕のことを笑うと思ったんだ。そこで休憩の終わりを告げるホイッスルが鳴って会話も終了した。


「お、みょうじとツッキー発見!」
『あ、木兎さんと黒尾さんだ』
「ツッキー!嫌そうな顔すんなって!」
「駅まで一緒に行くだけだろー?」
「合コンって聞きましたけど」
「そうそう!駅前の居酒屋でな!」
「今日は女子大の子と合コン!」
『わ、楽しそうですねー』


練習が終わった帰り、なまえと合流したとこで二人に捕まった。あぁ、そうか。合コンだから今日は木兎さんも個人練習がなかったのか。赤葦さんは合コン回避したんだろうなぁ。駅までだろうとなまえとこの二人と一緒に歩くのは遠慮したかったのに。この二人なら僕に聞いたことをなまえにも聞きかねない。


「なぁなぁ、みょうじはツッキーのどこが好きなんだ?」
『蛍先輩?』


僕が釘を刺す間もなく木兎さんがワクワク顔でなまえへと問う。ほらね、黒尾さんと打ち合わせでもしてたんじゃないかってくらいタイミングが良い。チラッと黒尾さんの様子を伺うもたまたま質問が被っただけらしい。ニヤニヤ顔ではなく目を見開いているのでどうやら木兎さんの質問に驚いたみたいだった。


『うーん、そうですねぇ』
「もったいぶるなぁ」
『違いますよ!蛍先輩のことは大好きです!でもどこがって聞かれると…うーん』
「ぶは!」
『え』
「なんだよ黒尾!俺がみょうじに聞いてんのにいきなり笑うなよ!」
「だってみょうじちゃんツッキーと同じこと言ってんだもん!笑えるだろ!」
『蛍先輩もですか?』
「黒尾さん笑いすぎですよ」


そこまで爆笑するようなことでもないだろうに。話の流れがわかっていない木兎さんとなまえはきょとんとしている。


「ツッキー怒んなって」
『黒尾さん、蛍先輩なんて言ったんですか?』
「そこ拾うのなまえ」
『気になります』
「俺にもわかるように教えろよ黒尾ー!」
「や、だから休憩の時に俺もツッキーに同じ質問したんだよ。したらツッキーも即答出来なくてさ。お前ら似てないようで似てるんだな」
「ツッキーもみょうじと同じこと言ったのか。仲良しだな!」
『それはもう!はい!』


木兎さんが納得したようになまえに言えば彼女もそれに嬉しそうに返事をした。や、仲良しなのは当たり前だよ。僕、なまえに対して怒ることないし。


「ほんっとみょうじちゃんは素直で可愛いですね」
『えへへ、ありがとうございます』
「ツッキーのこと大好きなんだなぁみょうじは」
『はい!大好きです!』


なまえはどうしてこうも恥ずかしげもなく『好き』と言えるんだろう?聞いてるこっちの方がむず痒い。思えば出逢った頃からなまえはこんな感じだ。最初はこの真っ直ぐで純粋ななまえのことを疎ましく思ったりもした。
僕には眩しすぎたんだ。それでもめげることなく懐いてくるから結局根負けしたんだった。


「なまえて正直過ぎるよね」
『え?駄目ですか?』
「駄目って言ったら止めれるワケ?」
『ええと多分…無理?かなぁ』


駅で木兎さん達と別れて今は二人きり。
どうやら今日は張り切って僕の家で料理をしてくれるらしい。スーパーで買い物をした帰り道。なまえの歩幅に合わせてのんびりと歩く。そう言えば最初はなまえに合わせて歩くのも大変だったような気がする。僕となまえの身長差を考えたら当たり前だけど最初はそういうのもわかってなかったなぁ。
あの時は縁下さんがそれを教えてくれたんだ。
最初は苦手な類いの彼女がいつの間にか大切な存在になるだなんて思ってもなかった。思い出して口元が僅かに緩む。


『蛍先輩は嫌ですか?』
「嫌なら今ここにいないよ」
『ならいいです、へへ』


わかりやすいのはね時に戸惑うこともあるけれど、僕も嫌いじゃないよ。
僕はなまえとは逆に捻くれてる自信あるけどね。僕の言葉になまえは嬉しそうにはにかむ。自分で言うのもなんだけどかなり面倒な類いの人間だと思うんだけどな、彼女は僕のどこが好きなんだろうか?
それはふと思い付いた疑問だった。思い付いたら聞きたくなる。なまえは僕の質問に何て答えるんだろ?


「ねぇ、なまえは僕のどこが好きなの?」
『蛍先輩?うーん、それさっき木兎さんにも聞かれたから考えてたんですけど』
「それで?」
『どこって聞かれると難しいです。嫌なとこないから全部好きだし』
「…はぁ」
『何で溜息吐くんですか?』
「なまえが相変わらず素直すぎるからだよ」


ほんとは呆れたんじゃない。全部好きって言うから少し驚いた。僕だって彼女に対しての不満はある。人に対して警戒心薄いとことか僕達のこと簡単に周りに話すとことか。それなのにこんな面倒な僕の全部を好きとか…。
面食らって咄嗟にそのことを誤魔化した。
最初はただ苦手だと感じた彼女の純なとこを今はこんなにも好きだなんて誰にもバレたくない。この気持ちは僕だけが知ってればいい。


『あ、蛍先輩!ケーキ屋さんでショートケーキ買ってきましょう!』
「あぁ、だからこの道にしたのか。たまにはなまえの好きなケーキにしたら?」
『前はミルフィーユが一番好きでしたけど今はショートケーキが一番好きなんです!あ、ケーキの中ですよ!ほんとの一番は蛍先輩です!』
「それ別に言わなくてもわかってるし」


さっきから声が大きいんだよなまえ。商店街の端にあるケーキ屋に向かってるから周りは買い物帰りらしき人がまだ沢山いる。周りからの柔らかい視線に君は気付いてないだろうけどね。


「まぁそんななまえも嫌いじゃないよ」
『へへ』


僕のこの言葉に照れて微笑むのもなまえだけだろう。普通はさ、多分気分を害すんじゃないの?まぁ君は気にしないんだろうけど。
ケーキを買って家路をのんびり歩く。相変わらず素直過ぎるなまえには驚かされることばかりだけどそんな生活も悪くないと思うんだった。


相良様リクエスト。
やっと書けた!遅くなってすみません!
後輩女子とツッキーとのリクエストでした。
ツッキーは絶対に素直じゃないよね。自分の気持ちを滅多に吐露しないだろうし。
そんなツッキーがいいよね!
2019/07/02
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