19・君の無邪気さが憎らしく思うときもあるけれど、全部まとめて好きだから。
『わーかーしー』
「なんだ」
『暇ー』
「残念だな。俺は暇じゃない」
『それこないだも読んでたじゃん』
「まだ読み終わって無いんだよ。後少しだから我慢しろ」
『えぇー。若君が反抗期だー』


何が反抗期だ、俺は今日は読書をしたいって伝えたはずだろう。『邪魔しないから』と押し掛けてきたのはそっちの方だ。
まぁなまえの『邪魔しないから』を信用していたわけではない、それにしてもコイツは相変わらず我慢が出来なさすぎるだろ。
返事をしても面倒なのでスルーして読書に戻ることにした。後30分もあれば読み終わるから大人しく待ってろ。


「おい」
『どした?』
「何でお前はそこにいる」
『暇なんだもん』
「だからってそこにいる必要は無いだろ」
『あるよー若君の体温あるしー』


隣に座られたら読みづらいだろ。
怖い話苦手なのに何してんだ。


『若、良い匂いするねー』
「おい、くっつくな」
『えぇ、嫌だ。そっち向いてると怖い話だし』


横に座ってるだけでも邪魔臭いのに読んでる本を覗きこんで嫌そうな顔をしてから俺の首に腕を回してきた。
横から抱きつかれてるからかなり邪魔だ。
引き剥がしても無駄だから諦めてこのまま読書を続けることにした。暑苦しいのに何をしているのか。まぁコイツだから仕方無いのかもしれない。


『やっぱり良い匂いするーなんだろ?』
「お香だろ」
『若そんなの好きだっけ?』
「母親の趣味だ」
『へぇ。お母さん良い趣味してるねー。この匂い若っぽくて安心するー』


どうやらなまえの中には俺の読書を大人しく待つという選択肢は無いらしい。
おかげで全然内容が頭に入ってこない。
ったく、今日はもう諦めるしかないな。
パタンと本を閉じるとなまえは俺の首筋から顔を上げた。


『終わった?』
「お前のせいで全然進まなかったから諦めただけだ」
『え?いいよ。若は読書したかったんでしょ?』
「お前がここに居たら集中出来ないんだよ」
『えー。でも離れるのは嫌だ』
「馬鹿め。だから読書を止めたんだろ」


読書はしてもいいけど俺から離れるつもりは無いと。この素直と言うか無邪気と言うかなんて言えばいいんだ?俺はコイツのこの類いのワガママに結局いつも振り回されるんだった。
それが憎らしくもあるが惚れた弱みなのか強く言えない自分がいるのも事実だ。
仕方無い、予定を変更してなまえに付き合ってやるか。


「出掛けるぞ」
『え、いいの?』
「ここに居てもやること無いだろ」
『若君いるから平気ー』
「いいから行くぞ」
『あ!引っ張らないでってば!』


コイツは全く。素直にあれこれ言い過ぎだろ。
最初はあれこれ困惑もしたが最近は慣れたのか聞き流せるようになった。
正直、出掛ける気分じゃなかったがたまにはいいかもしれない。


『若君』
「なんだ」
『どこに行くのー?』
「お前はどこに行きたいんだ」
『どこでもいいよ!』
「そうか、じゃあ俺に付き合え」
『ラジャ!』


特に出掛ける用事があったわけではない。
単に部屋にいてもなまえが引っ付いてくるだけだ。別にそれが嫌なわけではないが今日は都合が悪かった。まぁ、色々とだ。


『わぁ!凄いね!』
「お香の匂いが好きなら楽しめると思ったからな」
『若が来たかったんじゃないの?』
「俺と言うか母親がそろそろいつものやつがなくなるって言ってたからな。ついでだ」
『若は親孝行ちゃんとしてるんだねぇ』
「普通だ。お前も好きな香り探してみたらどうだ」
『分かった!』


コイツがどの香りを選ぶか興味があった。
ただそれだけで思い付いたことを言ってみれば何百種類もある香をあれこれ嗅ぎ始めた。
何を選ぶんだろうな、単にそれに興味があっただけなのになまえは寸分も間違えずに俺の母親の好きなお香を選びこちらへと持ってきた。
俺の服に移った些細な香りを選びとって持ってきたものだから驚きを隠せそうにもない。


『これ若の匂いするよ』
「そうか」
『あれ?間違ってた?』
「いや、それで合ってる」
『わ、やったぁ』
「じゃあそれでいいんだな」
『何が?』
「こっちの話だ。貸せ」
『え?え?』


なまえの手からお香をもぎ取りレジへと持っていく。コイツは本当に何なんだ。
これだけ種類があったらうちのお香じゃなくて好きなヤツを持ってくると思ったんだぞ。
それを迷いもせずにうちのを持ってくるとは。お前は犬か。
お香を焚く初心者向けのキットと共にそれを買ってなまえへと押し付けた。
まぁついでだ、ついで。うちのも別でちゃんと購入したからな。


『え?』
「それが好きなら家で焚けばいいだろ」
『いいの?』
「買い物に付き合ってくれた礼だ」
『わぁ!うちでも若の匂いするねー!』
「それ周りに言うなよ」
『言わない!寝るときに焚くね!』
「好きにすればいい」


なまえは俺の言葉にめげることは絶対にしない。いつだって無邪気に俺の後ろを追いかけてくる。俺が冷たかろうと優しかろうとそれは変わらない。
それにイライラすることもあるが引っくるめて俺はコイツのことが好きなんだろう。


『あ、若にも私が使ってる香水あげよかな』
「いらない」
『えー』
「お前の香りはうちに残ってるから必要無い」
『えへへ』
「褒めてないからな」
『若にも残ればいいのになー』
「馬鹿め。制服にも残ってるに決まってるだろ」


馬鹿だと言ったにも関わらず嬉しそうに笑ってるからな。正真正銘の馬鹿なんだろう。
まぁでもなまえだからそれも全部許せてしまうから不思議だ。
これもやはり惚れた弱みなんだろう。まぁたまにはこういうのも悪くない。
お前だけなんだからもっと俺に感謝しろよ。


かーぼん様リクエスト。
最近日吉が可愛くてしょうがない!
ツンツンの中にデレがたまーにあるのって可愛いよね!
2018/10/12
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