16・思わず抱きしめた君の身体は細くて柔らかくて、余計に“女の子”だと意識した。
「はよ、みょうじ」
『おはよう丸井君。眠そうだねぇ』
「おー、今日も朝早かったんだよ」
『テニス部は朝練毎日だもんね』
「何年やっても朝はねみぃ。テニスしてる時は目覚めるんだけどな」
『じゃあはいこれ』
「なんだよ」
『ガム。丸井君好きだよね?』
「あー、くれんなら貰っとくわ。サンキュ」


朝練が終わって教室に行けば隣の席のみょうじはまだHRも始まってねぇのにきっちり一限の授業の準備を終わらせていた。
ほんっと真面目だよなコイツ。
んで俺の好みをいつまでたっても把握しやがらねぇ。
みょうじが差し出したガムはペパーミントのガムで目が覚めるには覚めるけどいつか『彼氏がこの味好きなんだ』って言ってたことを思い出すから俺はあんまり好きじゃなかった。
つーか前にもミント系はあんまり好きじゃねぇって俺言っただろい。
いつになったら俺の好きなグリーンアップル買ってくんだよ。
貰ったものを食べないわけにもいかず苦手なペパーミントのガムを口に放りこんだ。
やっぱりこの味は好きじゃねぇ。


「丸井先輩!ゲーセン行きましょうよ!ジャッカル先輩の奢りで!」
「赤也、お前も俺に言うようになったよなぁ」
「ん?あれみょうじか?」
「何言ってるんスか丸井先輩?」
「確かにあれはみょうじだな」
「なんでお前が知ってるんだよジャッカル」
「去年同じクラスだっただけだ。そんな怒るなよブン太」
「怒ってねぇよ。何やってんだアイツ」


部活帰り赤也とジャッカルと歩いてたら前方にみょうじが居た。
こんな時間に何やってんだ?アイツって帰宅部だよな?
俺達の前を歩いてるけどいつもより足取りが心許ない気がする。
そのままみょうじは右手の海浜公園へと入っていった。
おいおい、この暗いのに公園とか危ねぇだろ。


「丸井先輩?」
「あー先にジャッカルとゲーセン行ってろ赤也」
「はぁ?」
「まぁ赤也。ほら先に行くぞ」
「俺に勝つために格ゲー練習したって言ったじゃないっスかー。そりゃ無いっスよ!」
「ゲーセンは逃げないだろ。ほら行くぞ」


俺の意図を理解してくれたジャッカルが赤也を引きずっていく。
ジャッカルは色々知ってるもんな。
言わずとも理解してくれてありがとな。
ジャッカルと赤也が見えなくなったとこで俺はみょうじを追いかけた。
ちゃんと真っ直ぐ家に帰れよみょうじ!
それとも何かあったのかよ。


「おい」
『え』
「こんなとこで何やってんだよ」
『丸井君こそ何してるの?』


海浜公園を真っ直ぐ突き進むと海に繋がっている。浜辺に降りる階段に座るみょうじを見つけて一先ず俺はホッとした。
立ったまま隣から声を掛けると俺を見上げる。


「質問に質問で返すなよ」
『え、だって部活は?』
「時間考えろよ。終わったっつーの」
『あ、そっか』


俺を見上げたみょうじと目が合ってギョッとした。お前なんつー顔してんだよ。
泣き腫らしたかのようにその瞳は真っ赤になっていた。
なんとなく俺はその瞳を見て何があったのか分かった気がした。


「海も真っ暗じゃねぇか」
『だねぇ』
「帰らねぇの?」
『もう少しここにいる』
「そか。んじゃ俺もここにいるわ」
『え』
「何だよ。俺が居たら悪いのかよ」
『そうじゃないけど。帰るの遅くなるよ』
「あのなぁ、俺より女子のお前が一人でここにいる方が心配だろい。何言ってんだ」


そう思うのならさっさとお前も帰れよ。
そう言ってやりたかったけど止めておいた。
それで気が済むのなら俺も付き合ってやるよみょうじ。
とりあえずみょうじの隣へと俺も座る。
波のさざめきだけが聞こえてきて後はただただ静かだった。
こんな風に波の音だけを聞いてんのも久々かもな。
中学1年の時はジャッカルと悔しい思いをするたびにここに来てた気がするけどいつの間にかそれも無くなった。
それも俺達が成長した証みたいなもんなんだろな。


どれだけそうしてたんだろう?
波のさざめきに混じって隣から啜り泣く声が聞こえるようになった。
俺に配慮してか押し殺すようにしてみょうじは泣いている。
顔も知らねぇけどみょうじを泣かすとか次会ったら殴るぞ彼氏のヤロー。
つーか、遠慮すんなよ。泣きたきゃもっとちゃんと泣けよ。じゃないと絶対にスッキリなんてしないだろい。あーもう仕方無いな。


隣のみょうじの腕を引っ張って自分の方へと引き寄せた。
ぐらりと簡単にその身体は傾いて俺の肩にみょうじの頭がコツンとぶつかった。


『丸井君?』
「泣きたきゃもっとちゃんと泣けって。肩くらい貸してやるから。それでスッキリしろ」


肩から顔を上げたみょうじと至近距離で視線が重なる。
じわじわと目に涙が溜まっていくのが見えたから促すようにみょうじの頭を撫でてやった。


「顔下げてていいから。ちゃんと泣け。俺に遠慮なんかすんな」


座ったままだからちょっと変な体勢だったけどもう一度みょうじを引き寄せて今度は胸を貸してやった。
さっきより泣き声が大きくなったからちゃんと泣けてるんだろ。
みょうじの涙が俺の制服を濡らしていく。
でもそれもなんだか嫌じゃなかった。
泣き止むまでみょうじの頭を撫でながら波のさざめきにだけ俺は耳を傾けた。


『ありがと。制服ごめん』
「こんだけ泣けばスッキリすんだろ。どうせ洗うし気にすんな」
『ネクタイも濡らしちゃったし』
「そんくらいどうにでもなるからお前は気にすんなって」


泣くだけ泣いてみょうじは顔を上げた。
相変わらず目は赤かったけど表情はさっきよりマシになった気がする。
俺にここまでさせる女他にいねぇんだからな。
ちゃんと感謝しろよ?


「じゃ叫んでから帰るか」
『え?』
「結構海に向かって叫ぶとスッキリするんだぜ」
『でも』
「ま、どっちでもいいけどよ」


みょうじと荷物を置いたまま砂浜へと降りていく。
後ろから足音が聞こえるからみょうじも着いてきてるみたいだ。
波打ち際で立ち止まると横にみょうじが並んだ。
ここで見るとますます海は暗く見える。


「みょうじの彼氏のバッカヤロー!泣かしやがってふざけんじゃねーぞ!」
『え?ま、丸井君!声が大きいよ!』
「俺の好きなこ泣かしてんじゃねーよ!」
『えっ!?』
「あースッキリした。お前は?どーすんの?」
『ちょ、ちょっと待って丸井君』
「俺は嘘は言ってねぇからな」


さっきまで泣いてたのにみょうじの顔は赤くなっている。
頬も目も真っ赤じゃねぇか。
呆気に取られるみょうじを置いて俺は階段へと戻った。
あんまり遅くなるとみょうじんちも心配するだろうしな。


『ま、丸井君待ってってば!』
「なんだよ」


ちょっと後からみょうじが慌てて後を追いかけてきた。
まぁ何とも思ってないやつから突然告白されたら驚くよなそりゃ。


『さ、さっきのほんと?』
「嘘であんなでかい声出す必要ないだろ」
『でも、そんなこと』
「お前が彼氏彼氏ばっかだったからだろい?俺の苦手なペパーミントのガムばっかくれるしさ」
『苦手だったの?』
「苦手。俺が好きなのグリーンアップルって何度も教えた」
『ご、ごめん』
「気にすんな。今日から覚えろよ」
『うん』


つーか、俺の告白スルーなのかよ。
そこは返事をくれるとこじゃねぇの?
彼氏がいるのは分かってっけどそこをスルーされたらたまったもんじゃない。
みょうじはまだ戸惑ってるみたいだったからその手を再び引き寄せた。
俺ばっか困らせるからみょうじにも意地悪がしたくなったんだ。


『丸井君!?な、何して』
「さっき俺の胸を貸してやったろ?だからその借り返せよ」


さっきは座ったままだったから出来なかったけど今度は立ったままだからちゃんと正面からみょうじを抱きしめてやれた。
借りを返せよってのは嘘だ。
ただ俺がみょうじに触りたかっただけ。
抵抗されたら離してやろうと思ったのに意外にもみょうじは大人しかった。
今までどれだけ触りたくても我慢してたんだ。
今日くらいいいだろ?
泣かせた彼氏が悪いんだからな。
初めて触れたみょうじの身体は俺が思ってた以上に華奢で柔らかくて良い匂いがした。


『ま、丸井君』
「そんな心配すんなよ。ちゃんと彼氏のとこには返してやるから」
『彼氏、別れたから居ないよ』
「はぁ?喧嘩したとかじゃ無かったのかよ」
『違うよ。フラれちゃったの』
「へぇ。んじゃ彼氏のとこに返す必要も無いんだな」
『え』
「なんだよ嫌なのかよ」
『丸井君は優しいから慰めてくれてるのかと』
「いくら親しくても好きじゃねぇ女子抱きしめないだろ」
『そ、そっか』
「俺だったら泣かさねぇしちゃんと考えてみろよ」
『分かった』
「後もうグリーンアップル以外のガム買うなよ」
『え』
「特にミント系は絶対に買うな。ムカつくから」


きっとみょうじは見るたびに元カレのことを思い出すだろうからそこは約束させておいた。
ガム=元カレにされんのは絶対に嫌だ。
俺がその思い出グリーンアップルで上書きしてやるから待ってろよ。
あれだけ触りたくても触れなかったみょうじが俺の腕の中にいる。
それは紛れもなく女の子の身体でもう誰がきても絶対に離したくなかった。
元カレが土下座しようとも返してやんねぇからな。


咲様リクエスト。
16で丸井ブン太くん←ピュアなキュンキュンする感じだったら嬉しいです!とのリクエストだったんですが全然ピュアじゃない(゚Д゚≡゚Д゚)
中学校の設定とかで書けば良かったのかもヽ(;▽;)ノなんか高校生のブン太がピュアなイメージが想像出来なくてごめんなさい。
初恋シリーズとかで書いてみようかな?
二万打のリクエストは二回目も受け付けてますのでまたいつでもリクエストお待ちしております☆
リクエストありがとうございました!
2018/08/28
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