10・外見も状況も何もかも関係ない。その時の君の心に僕は恋をした。
「なぁ」
『どうしたんですか先輩』
「お前ってさ、俺の事最初は苦手だったよな?」
『そうですねぇ』
「おい、そんなことないですよくらい言えよ」


隣に歩く先輩に呑気に返事をすると不満だったんだろう。イライラ声が返ってきた。
こればっかりは本当のことだからなぁ。
仕方無いですよ先輩。


「そんなお前が今じゃ俺と付き合ってるんだもんな」
『先輩がしつこかったからですよ』
「あ、その言い方ひでぇ」
『だって先輩チャラく見えましたもん』
「お前ら後輩はみーんなそうやって言うよな」
『だから近寄らないように気を付けてました』
「鎌先さん達にも言われたからか?」
『まぁそれもあります』
「一応さ、今は俺の彼女なんだから気遣ったりしないわけ?」
『いひゃいです先輩』


先輩の質問に正直に答えていただけなのにどうして私は頬をつねられているのだろうか?
直ぐに離してくれたから良かったけど。
じんわりと痛む頬を手でさすった。
あぁでも懐かしいな。
先輩の最初のイメージは今とは逆で悪かったことを覚えている。


伊達工業に入学した春のこと滑津先輩に誘われてバレー部の見学に行ったんだ。
そこに先輩はいた。
正直、みんな身長が高くてかなり怖かった。
それでも滑津先輩に説得されてマネージャーとして入部することになったんだ。
一生懸命説得する滑津先輩が可愛いなぁって思ってたらつい『入部します』って言っちゃったんだった。


『先輩が意地悪だったからですよ』
「へえ、そんなこと言っていいんだ?」
『入部して直ぐに意地悪したじゃないですか』
「小さくて見えなかったんだからしょうがないだろ」
『絶対に目が合いましたもん!』


先輩には入部初日から弄られた。
何かあるたびにあれこれ構ってくるし、それも大体言うことが単なる意地悪だったもんなぁ。


「好きなこは苛めたくなるって言うだろ?」
『最初は絶対に反応見て楽しんでましたよね?』
「そうだっけな?」
『そうでしたよ。それで茂庭さんに何回も怒られたじゃないですか』
「あー」


気の抜けた返事がしたからきっとこれは何にも考えてないな。
何回怒られても私を構うの止めなかったですもんね。
私もよくバレー部を辞めなかったと思う。


「それで」
『何がですか?』
「じゃあ何で今は俺と付き合ってんのかなと」
『先輩のこと好きだからですよ?』
「そんな素振りなくね?」
『何言ってるんですか。苦手な人と付き合う程バカじゃないですよ』
「ふーん」


なんだこの歯切れの悪い感じは。
納得してなさそうな返事が頭上から降ってきた。
私が何で先輩と付き合ってるのか分かんないとか逆に意味が分からない。


先輩のことは苦手だった。
何度止めてくださいって懇願しても止めてくれなかったしむしろ意地悪が酷くなったりもしたし。
本気で嫌だって言ったことは二度としなくなったから良かったけれど。でもそれだけだった。
青根さんとか茂庭さんとのほほんとしてる方が安心出来たし。


「お前さ、俺の事苦手だった時から俺の事だけ先輩って呼ぶよな」
『あ、気付いてました?』
「バカにすんなよ」
『今更直らないですよ』
「俺だけ距離が開いてるみたいじゃね?彼氏なのにさ」
『珍しく女々しいですね』


先輩から言い出したことなのに「煩い」と一蹴されてしまった。
そうか、きっと鎌先さん辺りにからかわれたんだろう。
それで柄にもなく女々しく凹んだと。
本当に先輩らしくなくて思わず笑ってしまった。


「笑うなって」
『私が何で先輩を好きになったのか教えてあげましょうか?』
「俺に根負けしたんだろ?」
『違いますよ。ちゃんと理由があるんですよ』


茂庭さん達が引退して先輩達が跡を継いで新しい伊達の鉄壁として始動しようとしてる時だった。
皆がそれぞれ頑張っていて打倒烏野を目指してる時だ。


物心ついた時から一緒にいた飼い猫が老衰で亡くなったんだった。
あまりのショックの大きさに逆にこのことを誰にも話せなかったんだ。
むしろ学校ではそれまで以上に普通でいようとしてたと思う。
それがちゃんと出来てると思ってた。


「なぁ」
『どうしました先輩』
「それ止めろよ」
『?』
「無理するの止めろよ」
『別にそんなこと』
「俺はずっと見てたから分かるぞ」


ある日の部活の後、先輩に呼び出されて言われた言葉。
そうやって言われても私にはピンと来なかった。
普通にやれてると思ってたから。
体育館の外側の入口の段差に座らされる。
中からは自主練に励む部員の声とバレーボールの弾む音。
隣には先輩が座っている。


「別に言わなくていいけど」
『何も無いですよ』
「泣いたっていいんじゃね?」
『泣きませんよ』
「そうだな。お前は俺がどんだけ弄っても泣かなかったもんな」


私の頭にタオルをばさりとかけると先輩は何も言わずにそこに居てくれた。
じわりと浮かんでくる涙をタオルが吸いとっていく。
私が泣き止むまで先輩は何も言わずにただ隣に居てくれた。
今でもどうしてあの時泣けたのかは分からない。
でもあの時泣けたから飼い猫の死と向き合えたのだ。


『外見とか状況とかそんなんじゃなくてその時の先輩の心に恋をしたんですよ』
「そっか」


せっかく理由を教えてあげたのに先輩は素っ気ない。
きっと照れてるんだろうけど。
先輩はあれですよね、ギャップが凄いありますよね。そんなところも好きですよ。
言ってあげませんけど。


『堅治先輩』
「な、なんだよいきなり」
『駄目でした?』
「や、別にそれならいい」
『一人だけ先輩だなんて逆に特別感ありません?』
「そうだな」


また照れてますね先輩。
付き合い始めてからは多分私の方が意地悪かもしれない。
先輩は気付いてるかな?
青根さんにはこないだ「あまり二口をからかうな」っていわれちゃったけど。
『愛情の裏返しです』って説明したら納得してくれた。


『先輩』
「なんだよ」
『先輩だって私の名前呼んでくれませんよね』
「呼んでるだろ?」
『呼んでないですって』
「なまえ」
『そうそうもっと普通にそうやって呼んでください』
「気が向いたらな」
『先輩が名前で呼んでくれた回数私も堅治先輩って呼びますね?』
「お前っ!」
『あ!頬をつねるのは駄目ですよ!』


先輩と二人言い合いながら帰り道を歩く。
頬をつねられる前に避けたら腕を掴まれてしまった。


『捕まっちゃいました』
「わざとだろ?」
『どうですかね?』


そのまま自然と手が繋がった。
大好きですよ先輩。
これからも宜しくお願いします。


南様リクエスト。
二口堅治。
お相手はハイキュー!!のイケメンキャラの誰かで女の子側がこの台詞をお相手のキャラに言うとのリクエストだったんですが悩みに悩んだ末に二口で書かせていただきました!
リクエストありがとうございました!
2018/04/25
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