- 05  -

「華ー!」
『はい』
「これ今日の練習メニューだって。赤葦に渡しといてな」
『分かりました』


「華ー!あかぁーし知らね?」
『監督と話があるって言ってましたよ』


「華さん、木兎さん呼んできてもらえますか?」
『嫌です』
「雀田さんも白福さんも手が離せないんですよ」
『何で赤葦さんまで華って呼ぶんですか』
「ちゃんとさん付けしてますけど」
『そういうことじゃなくて皆がそう呼んでくるんですけど』
「俺に聞かずに先輩達に直接聞いたらどうですか。あ、木兎さんのことは宜しくお願いします」


最近先輩達に誘われなくなったからホッとしていたのに。
どうやらやり方を変えただけだったみたいだ。
全員が全員私を下の名前で呼んでくる。
尾長君までだ。さすがに教室にいる時は篠宮さんって呼んでくれるけど。
赤葦さんからの圧力が凄いので仕方無く木兎さんを探しにいく。
休憩中に居なくなるなんて珍しいな。
何処にいるんだろうと体育館をぐるっと回ろうとした時だった。
あの特徴的なミミズクヘッドが見えたのだ。


「休憩中にごめんね」
「おー全然大丈夫だから気にすんな!」
「あのね私木兎のこと好きなんだ」
「おう」
「だから付き合ってほしいんだけど」
「悪い!俺今はバレーしか見てないから。嬉しかったけどごめんな!」
「そっか」
「また明日からも仲良くしてくれな」
「私こそ聞いてくれてありがとう。練習頑張ってね」
「気を付けて帰れよ!」


女の子の声も聞こえて咄嗟に物陰に隠れてしまった。
これは告白ってやつだね。
木兎さんは迷うことなくあっさりとお断りの返事をしていた。
普通さ、少し悩んだりとかしないのかな?
物陰からチラッと見えた女の子は結構可愛かったよ?
泣いてるかと思ったけどその顔は意外にも晴れやかだった。
あれだけあっさり断られたらそうなるのかな?
少しだけ木兎さんを見直した。


「華?何してんだこんなとこで」
『木兎さんを探してこいと赤葦さんに言われました』
「んじゃ戻るかー」
『あの、全員で私を下の名前で呼ぶの止めてくれませんか?』
「え?無理だろ」
『私だけ何で』
「華は誘っても遊びに行ってくんないからさ。他のやつらとは仲良しだしな」


つまり私とはまだ仲良くないから距離を縮めるために名前呼びにしたと。
そんなようなことを木兎さんに説明された。
親しくも無い人に名前呼びされても嬉しくないのに。
私の願いはさっきの告白よりもあっさり却下された。
結局またこの環境に慣れるしかないのだろうか。
あぁでもここに馴染んでいくのはなんか凄い嫌だ。


「華ちゃん」
『どうしました』
「眉間に皺が寄ってるよー」
『これがデフォルトの顔ってことにしといてください』
「華ちゃんは面白いねえ」
『普通ですよ』
「可愛い顔が台無しだよ〜」


お昼ご飯をマネ二人と一緒に食べるのは何となく慣れた気がする。
二人は木兎さん達みたいにあれこれ詮索してこないから楽だ。
白福先輩におやつのポッキーを口へと押し込まれる。
今日はアーモンドクラッシュポッキーだ。
ちょっと普通のやつよりお高いやつ。


『全員が華華華華って呼んでくるんですよ』
「それはもう諦めるしかないよ」
「木兎が言い出したからね〜」
『名前で呼ばれたくないのに』
「名前で呼ばれるの苦手なの?」
『そうじゃないですけど』
「なら慣れるまでだよ〜」


名前で呼ばれるたびにぬるま湯に浸かってるみたいで嫌なんだとは二人には言えなかった。
あの楽しそうな雰囲気に触れたら最後2度とお姉ちゃんのことを思い出せない気がして怖かった。


「華」
『はい』
「俺を睨むなよ」
『木葉さんのせいなのかと』
「俺じゃねえよ。赤葦だろ」
『は?』
「まぁ赤葦も下の名前で呼べってアドバイスはしてないと思うぜ。木兎がそうやって解釈しただけだろな」


木兎さんも苦手だけど最近は赤葦さんも同じくらい苦手だと気付いた。
あの何もかも見透かしたような目が怖いのだ。
何も話してないけれどある程度は分かってそうなあの瞳。私の思い込みなんだろうけど。
分かってはいるけどそれでも苦手だった。


「何、お前赤葦も苦手なのかよ」
『…』
「笑わない癖に嫌な時は素直だよなぁ」
『冷たいです赤葦さん』
「そんなこと言うなって。俺達居なくなったら困るだろ」
『2年になったら辞める』
「まぁまぁ今からそんなこと言うなよ。な?」


木兎さん達3年生が卒業して来年になったらどうなってしまうんだろう?
赤葦さんなそのまま主将になるんだろうけどそれ以外のことはピンとこなかった。
まぁ私はきっと部活を辞めるんだろうけどさ。


木葉さんはこないだ変なことを言ってきたけど苦手ではない。
比較的話しやすい人だとは思っている。
と言うか木兎さんと赤葦さん以外の先輩達とは上手く関係を築けているとは思う。
下の名前で呼ばれることには納得してないけど。
やっぱり問題なのは木兎さんと赤葦さんなんだろう。


「俺のこと苦手ですか」
『何で…』
「顔に書いてありますよ」
『…』
「お互い様ですね」
『は?』
「俺も華さんは少し苦手です」
『何で』
「何ででしょうね」


休憩中の一瞬の出来事だった。
まさか本人に指摘されると思ってなかったんだ。
ついでに赤葦さんは私のことを苦手だと言って去っていった。
私のどこが苦手なのだろうか?
協調性のないところだろうか?
人には苦手だと言う癖にいざ自分が言われるとこんなにも気になるものなのか。


理由を聞けないまま赤葦さんは修学旅行へと北海道に行ってしまった。


実は木兎より赤葦の方が苦手なんじゃないかって気付いた夢主さん。
2018/04/13

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