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木兎さんを避けないで欲しいと赤葦さんに言われてから一週間がたった。
苦手なのは仕方無いと思うのに赤葦さんに慣れる努力をしろと言われてしまったのだ。
実際はもう少し柔らかい言い方だった気がするけど言葉の節々に強制的に慣れろって意味合いが含まれてたと思う。


木兎さんのバレーが凄いのはこの半月で嫌って程分かった。
きっと中学の男子バレー部のエースだった先輩より上手いと思う。
昔の私だったらそれこそ一目見て木兎さんのバレーに憧れたと思うし。
それでも今の私はあの無邪気で自由奔放で天真爛漫な木兎さんにはあまり近寄りたくなかった。


これはきっと畏怖の感情に近いのかもしれない。
木兎さん自身が怖いわけじゃない。
けれど木兎さんに関わること自体が怖いんだ。
何でそんな風に思うのかはわからなかったけど。


「華ー!」
『木兎さんおはようございます』
「今日も部活頑張ろうなー!」
『はい』
「なぁ、華は海と山どっちが好き?」
『山の方が身近にあったので山ですかね』
「海は?嫌いなのか?」
『あまり行ったことが無いだけです』


それでも赤葦さんに言われていたので木兎さんをあからさまに避けるようなことは減ったと思う。
木兎さんからの質問に答えるだけで会話になってるのかは分からないけれどこれについて赤葦さんに何か言われることは無かったからきっと大丈夫なんだろう。
相槌をしておけば良いんだなって気付いてからは少しだけ気が楽になった。


そして問題なのは木兎さんじゃなくて先輩達が束になってる時だってことにやっと気付いた。
一人だと無茶なことを言ってきたりはしないのに二人以上だと終わってラーメン食べに行こうだのファミレスに行こうだの部活の休みにみんなで遊びに行こうだのお誘いが多いのだ。
その全てを断ってるんだからそろそろ誘わないって選択肢を誰か選んでくれないだろうか。


『疲れた』
「口に出てるぞ篠宮」
『あ、……木葉さん』
「いい加減に一回くらいアイツらに付き合ってやればいいんだよ」
『嫌です』
「じゃあきっぱり金輪際誘わないでくださいって言ってやれよ」
『それ木兎さん落ち込みません?』
「落ち込むだろうな」
『じゃ無理ですね』


心の声が漏れていたらしい。
直ぐ隣に居た木葉さんに即座に突っ込まれてしまった。
ちなみに今は部活が終わった後の個人練習の時間。
木兎さんは赤葦さんとスパイク練をしている。
それを離れた所から私と木葉さんが眺めている所だ。


「一回くらい別にいいだろ。減るもんじゃねえし」
『お小遣いが減りますよ』
「それくらい奢ってやるよ」
『そういう問題じゃないんです』


木兎さん以外の先輩達とは比較的普通に話せるんだけどな。
木兎さんのことだけが苦手だ。


「なぁ何でそんなに木兎のことだけ苦手なんだよ」
『……』
「確かに木兎は煩いし空気読まなかったりするし抜けてるとこあるけどさ、お前みたいに木兎を毛嫌いするやつって珍しいんだぞ」
『別に毛嫌いしてるわけじゃ無いです』
「じゃあ誰と重ねてんだよ」
『は?』
「木兎を嫌いじゃなくて避けてんのは木兎を見て誰かを思い出すからじゃないのか?」
『そんなことないです。賑やかなのが苦手なだけです』
「ふーん」


私の言葉に納得のいかなそうな返事をして木葉さんはサーブ練に混じりにいった。
私が木兎さんを苦手なのは誰かと重ねているから?
そんなことは無いはずだ。
そういうんじゃなくてただ皆とワイワイ楽しめる様な雰囲気になれないのだ。
それだけだ。


こんな風なのもお姉ちゃんのことが原因だ。
答えはきっと直ぐそこにある。
でも私はそれを知るのが怖かった。
姉が何を感じ何を想い誰に恋をしたのか。
知りたい様でまだ知りたくなかった。


両親は姉のことを少しずつ忘れようとしている。
結真の世話に精一杯だ。
まるでそこに最初からお姉ちゃんは居なかったんじゃないかとまで思ってしまう。
お兄ちゃんだって知りたいとは言ってたけど日々の生活に追われてるみたいだったしきっとお姉ちゃんのことを考えてるのは私だけだ。
それがとても寂しかった。
それでも私はまだあの日記を読む勇気が出てこなかった。
矛盾してるのは分かっている。
このぐちゃぐちゃな感情の正体を誰か教えてほしい。


「華ー部活にはもう馴れたのか?」
『ぼちぼちかな』
「面白いやついた?」
『主将はバレー上手だよ。五本の指には入るってさ』
「へえ、今度見に行こうかな」
『は?お兄ちゃん忙しいでしょ?』
「息抜きだよ息抜き。練習試合でもあったらちゃんと教えろよ」


絶対に教えない。
お兄ちゃんが見に来るなんて絶対に嫌だ。
黙っておけばきっとバレないだろう。
素知らぬふりをしておこう。


と言うか来年司法試験を受けるんじゃないのかな?
まだ一年あるけどこんなのんびりしていていいのだろうか?
まぁいいか。お兄ちゃんは出来がいいもんね。
おかげでお姉ちゃんも私も好きなことが出来たわけだし。


「お前がバレーしてたの部活のやつら知ってんの?」
『知らないよ。言ってないし』
「ボール出しくらいしてやればいいのに。お前も良い選手だったろ」
『いいの』


バレーはもうしないって決めたから。
私がトスをあげたい人はもう居ないから。


2018/04/04

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