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「あ、ねえ赤葦」
「どうしたんですか雀田先輩」
「華ちゃんのことなんだけど」
「篠宮さんですか?」
「どう思う?」


ハードなGWの練習を無事に終えて通常通りの練習に戻りつつある平日の放課後。
雀田先輩が不思議な質問をぶつけてきた。
どう思う?とは一体どういう意味なんだろうか?


「仕事は真面目にやってると思いますけど」
「それは私でも分かるよ。そうじゃなくてさ」
「性格の問題ですか?」
「せっかく遠回しに説明したのに」
「分かりづらいんで止めてください」
「なーんか壁があるよね」
「俺からしたら先輩達が壁なさすぎたんですよ」


何を言っているのか。
俺だって1年の時は1つ上の先輩達の雰囲気に圧倒された。
木兎さんを始めとして先輩達には本当に壁と言うものが無い。
俺も慣れるまでは苦労したのだ。


「赤葦、アンタのと華ちゃんのはちょっと違うよ」
「人見知りだと思うんですけど」
「きっとあれは違う。女の勘だけど」
「先輩の勘って当たらないじゃないですか」
「そうだけど!これは絶対にそうだよ!」
「人見知りだろうとそうじゃなかろうと俺達が出来ることは少ないですよ」
「冷たいな赤葦ー」
「俺が冷たいんじゃなくて先輩達が温かすぎるんですよ。俺は至って普通です」
「えー?」


俺の言葉に雀田先輩は不満そうだった。
でも言われてみれば確かに篠宮さんの態度は人見知りのそれとは少し違うようにも見える。
かと言って自ら分厚い壁を作ってる人にしてあげれることはそう多くは無い。
俺からしてみたら放っておくのが一番だと思う。
木兎さんならきっとそういうのも関係無いんだろうけど。
でもその木兎さんも篠宮さんには苦戦しているみたいだった。


「なぁあかぁーし」
「どうしたんですか木兎さん」
「華が俺だけに冷たい」
「篠宮さんは誰に対してもあんな感じですよ」
「違うんだよ!ついに目も合わせてくれなくなっちゃったんだよ!」


しょぼくれモードが発動している。
部活が終わった後だったことが唯一の救いだな。
マネージャーが木兎さんをしょぼくれさせないでほしいんだけど彼女はまだそれを知らないからな。
早急に説明しなくちゃならない。
目も合わさないってことは彼女は本当に木兎さんを避けてるのかもしれない。
思い出す限り話してる最中に俺が目が合わなかったことは無かったから。


「木兎さん、人はそれぞれ距離感ってのがあるんですよ」
「その話はもう木葉から聞いた」
「それなら分かりますよね?」
「俺もう嫌われたかもしれない!」


どうしていつもしょぼくれると考え方がこうも極端なのか。
普段は細かいこと気にしない良い性格してるのに。


「木兎さん、本当に木兎さんのことが嫌いなら篠宮さんは部活辞めると思いますよ」
「本当に?」
「俺だったらそうします」
「赤葦まで辞められたら困るぞ俺!」
「俺も篠宮さんも辞めないですよ。何の話してると思ってるんですか」
「でも目が合わなかったぞ」
「人見知りな人と仲良くなるには時間が必要ですよ」
「嫌われてない?」
「そうですね。大丈夫だと思いますよ」


話の流れを脱線させないでほしい。
かと言ってそれを伝えてもどうにもならないのは分かってるので自分で軌道修正をする。


「俺どーしたらいい?」


未だに木兎さんはしょぼくれたままだ。
周りから拒絶されたことのない木兎さんには篠宮さんの態度が相当堪えるのだろう。


「木兎さんは木兎さんのままで居てくれたらいいですよ」


変に篠宮さんを気遣って調子を狂わされても困るのだ。
冷たい言い方だけどこれはどっちかが折れるまでの根競べだと思う。
それならば仕方無い。
篠宮さんに折れてもらうしかないだろう。
それが辞めることになったとしてもだ。


「それでいいのか?」
「木兎さんに慣れてもらった方が早いですよ」
「んー」
「俺の言うこと信じれませんか?」
「や!赤葦の言うことだからな!分かった!もうあんまり気にしないどくな」
「木兎さんはそれで良いですよ」


良かった。どうやら持ち直してくれたらしい。
後は篠宮さんに説明しないとな。
こっちの方が少し気が重たかった。


「篠宮さん、ちょっといいかな?」
『はい』


部活が終わった後で木兎さんの自主練を木葉さんに任せて篠宮さんと話すことにした。
いつも終わったらさっさと帰ってしまうのでその前に捕まえる。


「木兎さんの話なんですけど」


まだ名前を出しただけなのに彼女は眉間に皺を寄せた。
本当に木兎さんのことが苦手なんだろう。
かと言ってうちの大事なエースだ。
適度に慣れてもらわないと此方が困ってしまう。


「篠宮さん?大丈夫かな?」
『一応』


不満げな態度を隠しもせずに返事をされたので少しそれが可笑しくて口元が緩みそうになった。


「木兎さんのこと苦手だよね?」
『はい』
「それは分かるんだけど慣れる努力もしてくれないかな」
『…』


俺の言葉に不機嫌そうな表情がさらに歪んだ。
無言の圧力を俺にかけている気さえする。
それに屈したりはさすがにしないけれど。


「木兎さんはあぁいう人ですし天真爛漫と言うか自由奔放と言うか」
『自由すぎる人ですね』
「あまり木兎さんに冷たくしないでほしい」
『苦手だけど…嫌いなわけじゃないです』


『なるべく努力します』それだけ言って彼女は体育館を出ていった。
苦手だけど嫌いじゃないか。
その言葉に何かが隠されてる様な気がした。
それが何なのかは考えてもわからなかったけど。


とりあえず伝えたいことは伝えれたから良しとしよう。
雀田先輩の言ったことが正しいとするならば(当たる確率は低いけど)篠宮さんに何があったのだろう?
人見知りじゃないのならばあれはなんだろう。
ほんの少しだけ篠宮さんのことが気にかかった。

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