- 17  -

「あかぁーし、華大丈夫かな?」
「分かりません」
「私達に出来ること無いの赤葦」
「そうだよ〜何か考えてよ赤葦〜」


華さんが参加しないまま合宿は終わり月曜日がやってきた。尾長に確認した所学校へは来ているらしい。けれど華さんは部活に参加しなかった。尾長に誘わせたりしても駄目だった。ただ困ったように首を横に振るだけだったらしい。
最初はそのうち来るだろうとしばらくそっとしておこうと比較的楽観的に考えていた先輩達も水曜日を過ぎた辺りから焦り始めた。
当たり前か、このまま放っておけばきっと彼女は夏休みに入っても部活には来ないだろうから。


「少しは先輩達も何か考えてみたらどうですか」
「華ちゃんをお迎えに行くとか?」
「お!それいい案だな雀田!」
「華さんが親御さんに何て話してるか分かりませんから突然家に押し掛けるのは駄目ですよ」
「確かにそうっスね」
「まぁな。嵐士さん曰く結構厳しいって言ってたしなー」
「あ!じゃあ嵐士さんにお願いしてみりゃいいんじゃね?」
「「「「「「はぁ?」」」」」」


3年の先輩達と俺の声が重なった。それが出来たら苦労はしない。俺だって連絡先を知っていたら一番に連絡したと思う。
……待てよ、こうやって言うってことはもしかして。


「木兎、嵐士さんの連絡知ってるの〜?」
「当たり前だろ!井闥山との練習試合の時に俺聞いたし!」
「遅い!」
「知ってたのならさっさと報告する!」
「は?何でだよ。お前らも知りたいのなら聞けば良かっただろ?彼女居ないって言ってたし」
「「そういうんじゃなくて!」」
「二人とも話が逸れてますから落ち着いてください」
「あ、ごめん赤葦」
「木兎が馬鹿過ぎてびっくりしちゃった〜」


雀田さん達二人が木兎さんに突っ込んでいる。他の先輩達は呆れ顔だ。最初に木兎さんに聞けば良かったのかもしれない。その可能性をすっかり忘れていたことを悔やんだ。


「木兎さん」
「ん?」
「ナイスです」
「おう!」
「嵐士さんの連絡先教えてもらえませんか?」
「いいぞー。赤葦だし問題無いだろ」
「まぁ結果オーライだよな」
「そういうことになるんだろうな」
「じゃ嵐士さんとの連絡は赤葦に任せるぞ」
「分かりました。あの先輩達一つ聞いてもいいですか?」
「何だよいきなり」
「どうしたのさそんな真剣な顔して〜」
「さっさと言えよ赤葦」
「華さんをこのまま放っておくって選択肢もありますよ?部活を辞めさせてあげるって手もあります。華さんが抱えてるものが大きかった場合のこと考えてますか?」


答えは決まってると思う。けれどあえて口に出して俺は先輩達に最終確認を行うことにした。


「なんだよそんなことかよ」
「今更だぞ赤葦」
「そうだよ〜華ちゃんにまた戻ってきてほしいし」
「アンタの代のマネージャー必要でしょ。それだけじゃないけどね。華ちゃんいいこだし」
「何があったか知らないけどま、どうにかなるだろ」
「木兎もいるし大丈夫だって赤葦」
「それにお前もいるしな」
「赤葦さん俺は」
「尾長には悪いけどちゃんと私達に付き合ってくれるかな?」
「華ちゃんと同じクラスだからね〜」
「っス」


やっぱりこうなるか。先輩達が今更華さんのことを放っておくなんてしないだろう。みんなの意見がまとまった所で俺は嵐士さんに連絡をしてみることにした。出来れば詳しい話は聞きたく無い。けれど華さんの様子は知りたい。こんなワガママを聞いてくれるだろうか?
部活を終えて家に帰ってから嵐士さんに連絡したら電話がかかってきた。


「突然すみません」
「全然いいよいいよ。もっと早く連絡来るかなって思ってたから」
「木兎さんが嵐士さんの連絡先知ってるの今日知ったので」
「そうなの?俺昨日も連絡取ってたのに」


あの人は!何をやってるのか全く。けれど木兎さんを責めても話は進まないのでこの話は一先ず置いておくことにする。人一倍心配性な癖にどうして肝心な所で抜けているのか。


「華さんのことなんですけど」
「何かあったんだろ?俺に理由は話さないけどさ」
「俺達にも詳しいことは分からないんですけど」


それから俺は土曜日に何があったのかを嵐士さんへと説明した。ついでにその意味を今は知りたくないことも。全部を話した所で嵐士さんが息を飲む音が聞こえる。


「嵐士さん?」
「あー…マジか」
「大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫。ちょっと待ってな」
「はい」


電話の向こうで乾いた笑いが聞こえた。その後少しだけガサゴソと音がした。何をしているんだろうか?


「赤葦」
「はい」
「華のこと頼んでもいいか」
「俺だけじゃなくて全員そのつもりです」
「なら良かった。ほんとありがとな」


俺の名前を呼んだ嵐士さんの声が震えていたような気がする。けれどそれに触れてはいけないような気がしてそのことはスルーした。良い年した男が声を震わすなんてよっぽどのことだ。
華さんは俺達に何を隠していたんだろう?


「詳しい話は知りたく無いんだよな?」
「出来れば華さんの口から聞きたいってのが俺達の総意です」
「そしたらもう荒療治しか無いかもなー」
「それで大丈夫ですか?」
「それは俺にも分からない。家では部活に行ってるって帰ってくるしな」
「そうですか」
「アイツは誰かに心配されるの嫌がるんだよ」
「それは分かる気がします」
「泣かないしなー」
「華さん確かに我慢強いですよね」
「ま、とりあえずやってみるか。駄目だったらまた考えたらいいし」
「分かりました」


それから俺は嵐士さんと華さんのことを具体的にどうするかで話し合った。
これが上手くいくといいけど、逆効果だった場合華さんはきっと二度と戻ってこない。
そうならないように入念に先輩達とも計画しないとな。
最初は華さんのことがあんなに苦手だと思っていたのにいつの間にか俺も木兎さん達と変わらないよな。結局は放っておけないのだ。


「赤葦だって先輩なんだから華ちゃんの話を聞いてあげたらいいんじゃないかなって話」


雀田さんの言葉を思い出して一人自嘲するように笑った。


2018/11/11

prevnext

BACK TO TOP
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -