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今日から一泊二日でうちで合宿だ。いつもの四校プラス宮城から一校参加でかなり慌ただしい。木兎さんが主将の仕事をしてくれないのが原因なんだけどね。続々と各校が到着して雀田さん達に割り当てられた部屋へと案内してもらっている。木兎さんはただテンション高く出迎えるだけだ。
まぁあの人はうちの要だし元気で居てくれるならそれでいいんだけど。


華さんも最近は先輩達と仲良くやれてるみたいだった。あの日佐久早と話していたとき何を心配していたのかは聞いていない。きっと佐久早は知らずに華さんの地雷を踏んだんだ。それくらい彼女は動揺していた。
動揺したままだったら聞こうかと思ったけれどこうやって木兎さん達と上手いこと付き合っているから俺はもう余計なことは言わないでおこうと思った。
俺に対しての態度も不器用なりに軟化したような気がするし。


「なぁ赤葦」
「どうしたんですか黒尾さん。あ、夜はまた木兎さんの自主練付き合ってくださいよ」
「それは勿論。それでだな」
「何ですか」


休憩中のことだった。珍しく黒尾さんが木兎さんではなく俺に話し掛けてきたのだ。当の木兎さんは今回から参加の烏野の部員達へと絡みに行っているわけだけど黒尾さんが俺に話だなんて珍しくて少し驚いた。しかも何故か言い淀んでいる。こんな黒尾さんは過去にもあまり見たことが無かった。


「マネージャー増えたんだな」
「そうですね。1年が上手いこと勧誘してきてくれたので。音駒は駄目だったんですね」
「うちはなかなかなぁ。一応これでも頑張ったんですよ?」
「それは御愁傷様なことで」


言い淀んだ末に出てきた言葉がマネージャーの話で俺は困惑した。この内容なら言い淀む必要無かったような気がするんですけど。俺と話す内容としては軽すぎるような気もする。こういうのはきっと木兎さん辺りと話すのがいつもの黒尾さんだ。


「でだ、あの子ってお姉さん居ない?」
「いきなり何ですか」
「いや、だからあの1年マネちゃんにお姉さんがいるかって話」
「お兄さんがいるのは聞いてますけどお姉さんの話は聞いたことないですよ」
「そっか。んじゃ人違いだわ」
「そうでしょうね。先輩達可愛がってるんで手を出さないでくださいよ」
「そんなんじゃないって。安心しろよ赤葦ー」
「どうですかね。俺じゃなくて雀田さんや白福さん辺りにもきっと言われますよ」
「そんなんじゃねぇの」


黒尾さんは華さんの方をじっと見たまま真面目な顔をして最後にポツリと呟いた。「勘違いだしな」と直ぐに表情を崩して黒尾さんは木兎さんの方へと向かっていく。
……多分人違いでも勘違いでも無いような気がする。じゃなきゃあんな顔で華さんのことを見ないだろう。何となく俺の勘が警鐘を鳴らしている。これが気のせいならいいんだけど、俺の心配のしすぎならいいんだけど。


昼過ぎに烏野の部員が二人遅れて合流した。その二人を見た時華さんが『あっ』と小さく漏らしたのを俺は聞き逃さなかった。その後の練習は終始そわそわと落ち着きが無かったし珍しくミスを連発している。あの二人のどちらかがきっと華さんの宮城時代の知りあいなんだろう。そしてその宮城時代のことを華さんは俺達に知られたくないんだと思う。


「華ー?何かあったか?」
「昼過ぎから元気無いねぇ」
『すみません。何でもないので』
「体調悪いのかな〜?」
「うちは人手も足りてるから無理すんなよ」
『はい、えぇと大丈夫です』


そんな華さんに先輩達が気付かないわけもなく休憩の合間に質問責めだ。大丈夫なわけ無いと思う。華さんの顔色は午後になってどんどん悪くなっていくばかりだ。


「おい、篠宮?篠宮だろ?」


俺の嫌な予感が当たったのはその直ぐ後だった。いくら華さんがそれを避けようとしたところで向こうから来られては避けようが無いだろう。烏野とのゲームが終わって直ぐに向こうの遅れてきた1年、確か影山だったかな?そいつに声を掛けられて華さんは背中を震わせた。


「篠宮?聞いてんのかよ」
『かげ、やま…』
「聞こえてるならちゃんと返事しろよ」
『ごめん』
「何々〜?知り合いなの?」
「もしかして宮城の時の彼氏とか?」
「そんなんじゃ無いです。単に中学の同級生ってだけで」
「あそう。てっきり彼氏とかだと思ったのにね〜」


白福さんと雀田さんは呑気に二人に話し掛けている。木兎さんもいつ会話に混ざろうかとワクワク顔だ。他の部員は華さんの様子がおかしいことに気付いたのか口を開くか閉じるか悩んでいるみたいだった。このまま影山に喋らせたら駄目な気がする。


「華さ」
「葉月さんのことは大丈夫なのかよ」


バサリと華さんの抱えていたタオルの山が床へと落ちた。それと同時にガコンと何かが落ちる音も聞こえた。音がした方向を振り向くと黒尾さんがスクイズボトルを落としたようだ。孤爪や夜久さんに何かを言われているけどそれも耳には入っていないようで驚いたように華さんをただ見つめている。
あぁ、多分俺は止めるのが遅かったらしい。地雷を踏んだ本人は何も答えない華さんを不思議そうに見つめている。


「影山!今お前何て言った!」
「黒尾さん?」


俺達の周りだけ静かだ。雀田さん達も漸く華さんの態度がおかしいことに気付いたみたいだった。珍しく木兎さんもそうらしく黙っている。烏野と音駒の部員達も何が起こったのか分からなかったらしい、とても静かだ。
この静寂を破ったのは黒尾さんだった。凄い剣幕で影山に詰めよっている。


「俺何かしました?」
「違う。さっきお前何て言った?」
『影山止め』
「葉月さんですか?」
「そうそれ。それでこいつの名字は?」
「篠宮ですけど」


華さんの悲痛な叫びは影山には届かなかったらしい。けれど俺には分かった、この葉月さんって人の存在を華さんは隠したかったんだって。一通り影山に確認した後黒尾さんは此方へと向かってくる。木兎さん達はまだ状況が読み込めて無いらしくぽかんとしたままだ。


「赤葦どいて」
「どけません」
「俺はその子にちょっと聞きたいことがあるだけ」
「いくら黒尾さんでも無理です」


華さんをとりあえず俺の背に隠す。今にも倒れそうなくらい顔色が悪くなっているのだ。これ以上何か言われたら本当に倒れてしまうかもしれない。しかし黒尾さんもそう簡単には引きそうに無い。何故か彼の表情も真剣そのものだ。


「んじゃそのままでいいや」
「音駒の方に戻ってもらえませんか」
「いいや、聞きたいことがあるからそれだけは聞いてもらう。なぁ、葉月さんは?どうしたんだよ」
『………』
「華さん、答えなくてもいいですよ」
「いや、これだけは絶対に聞かせてもらう」
『…ごめんなさい』
「や、別に謝ってほしいわけじゃなくて葉月さんのことだけ教えてよ。妹でしょ?」
『ごめんなさい!』


初めて華さんのこんな大きな声を聞いたような気がする。体育館に響き渡るような大声で謝ると華さんはその場から逃げ出した。黒尾さんがそれを追おうとするから俺はそれを止めるのに精一杯だった。その時には先輩達も何かしら察してくれたので一緒に黒尾さんを止めることが出来たからそれは良かった。咄嗟に雀田さん達が華さんを追ってくれたのも見えていたし。
黒尾さんは華さんを追うのを止めて影山と話すことに決めたらしい。まぁそれが一番だとは思う。俺達はその葉月さんって人のこと全然知らないわけだし。


「あかぁーし華大丈夫かな」
「雀田さん達が行ってるので大丈夫だとは思いますけど」
「かなり顔色悪かったよな」
「葉月さんってのが原因なんだよな?」
「先輩達、多分その葉月さんが華さんの隠し事の一つですから聞いたら駄目ですよ」
「赤葦が言うならそうしとくな」
「俺はどうしたらいいっスか」
「尾長はいつも通りでいいよ」
「華戻ってくるかな」
「それは、俺にもちょっと分かりません」


結局、体育館に戻ってくることも無く華さんはそのまま早退した。
雀田さん達にも何も言わなかったらしい。せっかく良くなってきたのにこれじゃ最初より悪化してる気がする。けれどこればっかりは誰のことも責めるわけにはいかなかった。
影山が此方にも葉月さんのことを話しにきた。けれど俺達はその申し出を断ることにした。
聞くなら華さんの口からだ、じゃないとまた俺達と華さんの溝が広がってしまう。
せめて合宿以外の部活には来てくれるといいけれど。次の日、華さんが来ないのは想定していたけれど何故か嵐士さんまで来なかった。


これが華の秘密。
2018/11/09

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