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インターハイは都大会予選のベスト4止まりだった。準決勝で井闥山と当たったのだ。
佐久早さんは練習試合の時とはまるで別人かって言うくらいベストコンディションだった。
木兎さんの調子は決して悪くは無かったと思う。けれどそれ以上に佐久早さんの調子が良すぎた。と言うかうちには負けたくないという気迫が感じられたような気がする。お兄ちゃんのことが影響しているような気がしなくもない。


あの練習試合から日曜日になるとお兄ちゃんはうちの部活に顔を出してくれるようになった。それは木兎さんに限らず部員達への良い刺激になっている。それをきっと木兎さんが佐久早さんに話したんだろなぁ。「佐久早に自慢してやろ」だなんてはしゃいでたもんなぁ。


「華ー」
『どうしました木兎さん』
「七月の頭土日にうちで合宿やるんだよ」
『はい』
「嵐士さん来れるか聞いといてくんね?」
『分かりました』
「今年は五校集まるから賑やかだぞ!」


私と木兎さん達の関係もそこそこ良くなってるとは思う。私の悩みが井闥山との練習試合だったと思ってくれているおかげだけど。そのおかげでお姉ちゃんのことは誰にもバレてないからいいよね。時間はかかったけど最近はあの手記を読まなくてもいいような気がしてきた。お兄ちゃんも最近はそれを読めとは言わないし。
これならこれでいいのかもしれない。きっとこれが正しい選択なんだ、そう思うようにしてる。


「華さん」
『どうしました?』
「ちょっと木兎さんにトス上げてもらえますか?」
『赤葦さんは?』
「木兎さんのスパイクのフォームの確認をしたいんで」
『分かりました』
「おい、赤葦と華二人体制じゃますます木兎のスパイク練終わらねぇだろ」
「次は華かよ!ヤッター!」
「ブロックとレシーブ練にもなるんで丁度いいかと」
「華ちゃん今日は私がボール出しするからね〜」
『はい』


木葉さんの表情がげんなりしている。インターハイ負けてから木兎さんの個人練習の時間が長くなったのが原因だと思う。けれどしょぼくれずに練習に励んでいるからか誰も止めようとは言わないんだった。


「華ってセッターだったのか?」
『そうですよ』
「あかぁーしと一緒だな!」
『まぁ、そうですね』
「何でセッターやろうと思ったんだ?」
「そりゃ嵐士さんの影響だろー?すげぇセッターだもんな」
「あー確か高校時代に全国で優勝してるんだっけ?」
『確かにお兄ちゃんの影響が大きいですね』


嘘は言ってない。半分本当のことだ。
小学生の時にバレーを始めたお兄ちゃんとお姉ちゃんの背中を見て育ったから。お兄ちゃんの上げたトスを綺麗に打ち抜くお姉ちゃんを見て私もトスを上げたくてセッターを始めたとはさすがに言えなかった。この話はもう誰にも話さないって決めたし。


「何かを吹っ切ったんですか」
『…』
「別に話さなくてもそれならそれでいいです」
『え』
「全部を話す必要も無いですし。ただ俺は辛いなら話した方が楽になるんじゃないかと思って言っただけです」
『そう、なんですか』
「あの人達なら何があっても何とかしてくれそうですからね」
『確かにそうですね』


休憩時間に珍しく木兎さんも休んでいるので3年の先輩達が楽しそうに話しているのを赤葦さんと二人で眺めている。どうやらみんなで尾長君を弄ってるみたいだ。私の返答に赤葦さんは少しだけ驚いたように目を見開いたような気がした。
木兎さん達みたいにはまだいかないけれど赤葦さんとの関係もだいぶ良くなってきているとは思う。何かに勘づいてはいるのだろうけどそれを無闇に聞いてくるような人ではなくてホッとした。佐久早さんとの会話も多少聞いてたはずなのにだ。


『私、赤葦さんのこと誤解してました』
「華さんは周りのこともう少し知った方がいいですよ」
『その余裕が無かったので』
「ゆっくりでいいですよ」
『分かりました』
「あかぁーし!華ー!練習再開すっぞ!」
「今行きます」
『はい』


まだ上手く笑える気はしない。けれど確実に少しずつ元の私に戻ってるような気がする。これもきっと赤葦さんや木兎さん達のおかげなんだろう。私なりに答えが出せて良かった。


『お兄ちゃん、今度うちで合宿あるって』
「いつ?」
『次の土日』
「あー」
『駄目そう?』
「土曜日はちょっとなぁ」
『そっか』
「日曜日にならいいぞ」
『分かった。そう伝えとくね』
「華」
『何?』
「梟谷入って良かったな」
『そうだね』
「梟谷だけで合宿か?」
『えぇと確かグループで五校集まるって言ってた』
「そりゃ面白そうだな」
『お兄ちゃんが楽しんだら駄目だよ』
「分かってるって。でもやっぱりなー」
『ちょっとだけにしといてよ』
「分かった分かった。お前がこんな風に言うとはなぁ」


お兄ちゃんに昔みたいに軽口を叩けるようになったのも最近のような気がする。お兄ちゃんがそんな私を見て目を細めるから私も自然と口元が緩むのだった。お姉ちゃん、手記を読めなくてごめんね。いつか前みたいに笑えるようになったら、読もうと思える日がきたらちゃんと読むからね。それまでは見守っててね。


土曜日はあっという間にやってきた。五校もバレー男子が集まるなんて圧巻だ。やっぱりみんな背が高いもんなぁ。おかげで木兎さんも今日はかなり調子が良さそうだった。朝からテンション高くて楽しそうだもんなぁ。
去年までは四校だったらしく今年から参加することになった宮城の烏野高校に木兎さんは興味津々でこちらに意識が向くことがあまりなくてそこはホッとしている。暇だとうちの部員だけじゃなくて私や雀田先輩達にまで鬼絡みになるんだ。準備の邪魔になるからそれはさすがに避けたかった。


「華さん」
『どうしました?』
「他校に知り合い居ますか?」
『宮城の出身ですけど烏野に知り合いは居ないと思います』
「他の学校にもですか?」
『多分』
「分かりました」
『何かありました?』
「いえ、多分人違いだと思います」
『…?』
「ドリンクの補充お願い出来ますか」
『あ、分かりました』


休憩の合間に赤葦さんに不思議なことを聞かれた。烏野の部員達も思い返しても知ってる人は居ない。そして他校だったらもっと居ないはずだ。東京に来たのは今年からだし何でこんな変なことを聞くんだろう?


その答えは直ぐに分かった。それは同じ梟谷グループの音駒高校との試合が始まる前のこと。何故か向こうの部員にじぃっと見られている。えぇと私何かしましたかね?赤葦さんの言ってたのは多分これのような気がした。


「よぉーし!お前ら今日も目指すぜノーペナルティー!」
「分かりました」
「っす」
「音駒はしつこいからな。木兎頑張れよ」
「ま、今日は調子が良いから大丈夫だろ」
「ストレートとクロス打ちわけ忘れんなよ」
『さすがにそれは』
「「「「「いや、ある」」」」」


木兎さん以外の3年の先輩達の声が重なった。そんなことあるものなんだろうか?ムラがあるのはもう知ってるけれど先輩達が真剣に頷くからそういうことなんだろう。向こうからの視線は相変わらず気になるけれどとりあえず気にしないでおこう。赤葦さんも人違いだって言ってたし。
けれど何故かザワザワと嫌な胸騒ぎがするのだった。


TearDropsももうすぐ終わりますね。ちょっと今回展開が早かったかも。だいぶ梟谷のみんなと馴染んだ華でした。
2018/11/04

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