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「あかぁーし!なぁ赤葦ってー」
「何ですか木兎さん」
「華の元気なくね?」
「最近ずっとそんな感じじゃないですか?」
「や、でもなーんか雰囲気が暗い気がするんだよなー?」
「寝不足では無さそうですけど」
「んー目の隈はなくなったもんな!」
「それならとりあえず悩みはなくなったんですよきっと」


元気が無いのは俺のせいでしょうけど。
華さんは相変わらず頑ななままだ。
俺の言ったことを結局少しも理解して無いのだろう。
そうやって一人でまた抱え込んで思ったことを口にしない所が苦手だった。
俺だってそんなに自分の意見を人にずいずい言う方では無い。
でも華さんはもっとタチが悪い気がする。
きっと思ってることの1割も話して無いんじゃないかと思った。


最近少しずつ笑うようになってきたらしいがそれも俺が「周りに心配させるな」と伝えてからはまた元に戻ってしまったようだ。
結局周りに再び心配させてることにどうして彼女は気付かないのだろうか。
俺が原因だからこれ以上強くは言えないけれど。


「赤葦ー機嫌悪い?」
「何ですか雀田さん」
「や、眉間に皺が寄ってること多いなと思って」
「バレーに影響出てますか?」
「んー今のとこは大丈夫かな」
「それなら良かったです」
「華ちゃんと何かあったでしょ?」
「……」
「あ、その顔は図星だね」


うちの部活で一番目敏いのが雀田さんだ。
周りの変化に敏感でそれへの対応も早い。
こうなっては雀田さんに隠し事は出来ない。
何があったか話すまでは解放してくれないのだ。と言うか周りの先輩達にまで広めようとするから言わざるを得ないのだ。


「何を華ちゃんに言ったのかなあかぁーし」
「先輩達に心配させるなって言っただけですよ」


仕方がないので雀田さんにだけ話してしまうことにした。
他の先輩達に広められたらそれこそ面倒だから。
小さく溜め息を吐いて雀田さんへと何があったのか伝えた。


「赤葦は言葉足らずだよね」
「何ですか急に」
「そんな一方的に言うから華ちゃんがあんな感じになっちゃったんじゃないのかな?」
「俺はちゃんと伝えましたよ。ちゃんと先輩達と話せって。向き合えって」
「だーかーら、どうして赤葦はそこに入ってないの?」
「は?」
「赤葦だって先輩なんだから華ちゃんの話を聞いてあげたらいいんじゃないかなって話」
「華さん俺のこと苦手ですし俺も華さんのことは苦手なんですけど」
「うん、それは分かってるよ。でもそれじゃきっと平行線なんじゃないの?どうして赤葦のことが苦手なのか聞いたことある?」
「無いですけどそれって本人に聞くことですか?」
「じゃあ何で華ちゃんが苦手なのか伝えてみたら?」
「余計関係が悪化しませんか?」
「そしたらどうにか私達が頑張るから大丈夫大丈夫!」
「考えておきますね」
「頼んだよ赤葦ー」


俺と華さんが話すことによって関係が改善するなんて全く思えなかった。
だから「考えておきますね」とは言ったものの雀田さんの提案を実行する気にはなれなかった。


入部したての頃のように戻ってしまった華さんに先輩達は困ってるみたいだった。
会話も必要最低限で言ってみれば入部した頃よりも周りを拒絶してるようにみえる。
なんて子供なのだろうか。
俺に対してだけならば理解出来る。
何であんなに優しい先輩達にまでそんな態度を取るのか俺には理解出来なかった。


「華さん」
『はい』
「ちょっといいですか」
『…』
「ここじゃあれなんでちょっと移動しますよ」
『……』
「付いてこないなら引きずっていきますね」
『は?』


部活が終わって木兎さんも今日は個人練習をしなくて良さそうだったので早速華さんを捕まえた。
俺とは話したく無さそうだったけどそうも言ってられない。
逃げられないように腕を掴んで体育館裏へと移動することにした。


「あかぁーし!華苛めるなよ!」
「そんなことしませんよ!」


背中に木兎さんから声が掛かったのでなるべく心配をかけないように返事をしておいた。
まぁきっとあの感じなら大丈夫だろう。
意外と読めなさそうで空気は読めるのだ。


「華さん、俺に対しては別にいいです。けど先輩達にまで冷たくするのは間違ってませんか?」
『……』
「先輩達が華さんに何かしました?してないですよね?その先輩達にあの態度は駄目だと思いますよ」
『………』
「そうやって自分の気持ちを押し込めて周りに察してもらおうなんて無理なんですよ」
『そんなつもりじゃ』
「俺のことは苦手でもいいです。けどあんなに優しい先輩達のことを邪険に扱うのは止めてください。お節介なとこありますけどみんな華さんのこと本当に心配してるんですから」
『……』
「結局その態度が心配させてるんですよ。俺の言った意味伝わってないじゃないですか」


体育館裏の人気の無い場所で華さんと話すことにした。
彼女は俯いたままで表情は分からない。
一応反応はあったから俺の言葉は届いてるんだろう。
両手をぎゅっと握りしめて何かに耐えてるようにも見えた。


『何を話せって言うの』
「全部ですよ。華さんが押し込めてる何かを全部。その方がきっと楽になりますよ」
『赤葦さんは知らないからそんなこと言えるんですよ』
「知らないから知る必要があると思うんですけど」
『結局話したって心配させるだけなら話さない方がいいでしょ』
「華さん、話さなくたって心配させてるんですから結局もうどっちも変わらないですよ」
『……』
「どっちにしろ心配させるなら先輩達にも背負わせちゃえばいいんです。あの人達ならきっと聞いてくれますよ」


なるべく穏やかに話せたはずだ。
彼女がどう思ってるかは分からないけど今日はここまでにしておいた。
俺の話を聞いて考える時間が彼女には必要だと思ったのだ。


「じゃあ俺」
『兄が』
「兄?」


戻ろうとした俺に華さんが震える声で告げた言葉に俺は困惑した。
そもそも華さんにお兄さんがいるのは初耳だ。さっきの話とどう繋がるのだろうか?


『バレーをしていて。井闥山の試合のDVDを手に入れてくれたんです。それを観て寝不足だったんです。それだけです』


早口でそう告げると華さんは俺より先に体育館へと戻っていった。
何でそのことをわざわざ隠していたのか俺にはさっぱり理解出来ない。
けれど俺にそれを告げれたってことは華さんなり譲歩だったのかもしれない。
これで少しは態度が軟化してくれるといいのだけど。もう少し様子見だな。
あのおおらかで温かい先輩達のことだけは邪険に扱わないでくださいよ華さん。


相変わらず優しい3年に対して真逆に冷たい赤葦。
彼は彼なりに考えてるんだけどね。
2018/08/02

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