01.初めまして、エスパーさん


「俺と付き合ってくれない?」


放課後、幼なじみの部活が終わるのを待っていると、一人の男の子にいきなりそう言われた。
彼の着ているジャージには見覚えがあったのだが、顔には全く覚えがない。
もしかして、誰かと間違えているのだろうか。

そんな風に考えを巡らせていると、黙ったままの私に痺れを切らしたのか、彼が口を開いた。

「桜井さん?」


驚いた、どうやらこの人は私のことを知っているようだ。
けれど、私はやはり覚えがなかった。


「えっと…ごめんなさい、あなた…誰ですか?」


思い切って、失礼を承知で尋ねてみる。
すると彼は目を見開いて、意外そうな表情をした。


「え、もしかして俺のこと知らねぇの?」

「…テニス部の人ですよね?」

「なんだ、知ってんじゃん」

「…私の幼なじみが、同じジャージ着てるので」

「あー、丸井先輩?」


二度目の驚き、どうして私の幼なじみがブンちゃんだと分かったのだろう。
テニス部には、たくさんの人がいるのに。
その中でジャージを着ているのはレギュラー陣だけみたいだけれど、やはりそれでも十人弱はいたはずだ。
にも関わらず分かったということは、この人、まさか…。


「あなた、エスパー?」

「ぶっ」

「なんで笑うんですか!?」

「だってアンタ…エスパーって」


尚も笑う彼を、怪訝そうに見つめる。
すると彼は私が不機嫌になったことに気がついたようで、ようやく笑うのを止めた。


「悪かった、でも馬鹿にしたわけじゃねぇから」

「…気にしてないです」

「よかった。前にさ、丸井先輩と話してるの見たことがあってよ。で、幼なじみって聞いてそうじゃねぇかなーって思ったわけ」


なるほど、確かによくブンちゃんと話しているから、それを彼が見ていたとしても不思議ではない。
今日もブンちゃんと一緒に帰ろうと思って、こうして待っているわけだし。

私は事の経緯をようやく全て理解した。
それとほぼ同時くらいに、何かを思い出したように彼が「あっ」と声を上げた。


「俺、切原赤也。知らねぇみたいだから」

「切原…くん」


やはり聞き覚えのない名前だった。


「それで、俺と付き合ってくれない?」


屈託のない笑顔で、最初の言葉をまた口にした。
どうやら、彼はめげるという言葉を知らないらしい。


「あの…ごめんなさい……」


その一言が、嫌に響き渡ったような気がした。



to be continue..


20101112
20101128(修正)



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