「俺と付き合ってくれない?」
放課後、幼なじみの部活が終わるのを待っていると、一人の男の子にいきなりそう言われた。 彼の着ているジャージには見覚えがあったのだが、顔には全く覚えがない。 もしかして、誰かと間違えているのだろうか。
そんな風に考えを巡らせていると、黙ったままの私に痺れを切らしたのか、彼が口を開いた。
「桜井さん?」
驚いた、どうやらこの人は私のことを知っているようだ。 けれど、私はやはり覚えがなかった。
「えっと…ごめんなさい、あなた…誰ですか?」
思い切って、失礼を承知で尋ねてみる。 すると彼は目を見開いて、意外そうな表情をした。
「え、もしかして俺のこと知らねぇの?」
「…テニス部の人ですよね?」
「なんだ、知ってんじゃん」
「…私の幼なじみが、同じジャージ着てるので」
「あー、丸井先輩?」
二度目の驚き、どうして私の幼なじみがブンちゃんだと分かったのだろう。 テニス部には、たくさんの人がいるのに。 その中でジャージを着ているのはレギュラー陣だけみたいだけれど、やはりそれでも十人弱はいたはずだ。 にも関わらず分かったということは、この人、まさか…。
「あなた、エスパー?」
「ぶっ」
「なんで笑うんですか!?」
「だってアンタ…エスパーって」
尚も笑う彼を、怪訝そうに見つめる。 すると彼は私が不機嫌になったことに気がついたようで、ようやく笑うのを止めた。
「悪かった、でも馬鹿にしたわけじゃねぇから」
「…気にしてないです」
「よかった。前にさ、丸井先輩と話してるの見たことがあってよ。で、幼なじみって聞いてそうじゃねぇかなーって思ったわけ」
なるほど、確かによくブンちゃんと話しているから、それを彼が見ていたとしても不思議ではない。 今日もブンちゃんと一緒に帰ろうと思って、こうして待っているわけだし。
私は事の経緯をようやく全て理解した。 それとほぼ同時くらいに、何かを思い出したように彼が「あっ」と声を上げた。
「俺、切原赤也。知らねぇみたいだから」
「切原…くん」
やはり聞き覚えのない名前だった。
「それで、俺と付き合ってくれない?」
屈託のない笑顔で、最初の言葉をまた口にした。 どうやら、彼はめげるという言葉を知らないらしい。
「あの…ごめんなさい……」
その一言が、嫌に響き渡ったような気がした。
to be continue..
20101112 20101128(修正)
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