学校から帰宅し、部屋へと向かっていると、前を嘉音が歩いていた。
「嘉音くん」
「…朱志香様。お帰りなさいませ」
「ただいま。どうかしたのかよ、安心した顔してさ」
「い、いえ…別に」
「もしかして…亜弥かと思った?」
「……」
口をつぐんだため、図星なのだなと朱志香は解釈した。
「亜弥のこと、嫌い?」
「そんなことはありません」
強い口調で否定をする。 そんな嘉音に、朱志香は優しく微笑んだ。
「あの子、まだまだ子どもだからさ。迷惑掛けちゃうこともあるだろうけど…自分より、他人を優先させちゃう優しい子なんだよ」
周りの空気が穏やかになった。
前回のメイド服の件をまだ引きずっているなんて、口が裂けても言えないな。
自分の器の小ささに、嘉音は心の中で苦笑した。
同時刻、亜弥は廊下の端に置かれてある壺を拭いている紗音に声を掛けていた。
「紗音ー!」
「あ、亜弥様。お帰りなさいま…」
壺を拭く手を止めず、顔だけを亜弥の方に向ける。
すると…。 あろうことか、壺は台から落ちて物凄い音を立てて砕けた。
亜弥と紗音は廊下に散らばった壺の残骸を前に、固まる。
「こ、これ、お母さんのお気に入りの…」
「どうしましょう…」
「騒々しいですね。何事ですか?」
音を聞きつけたのか、夏妃が早歩きで二人の元にやってきた。 その後に、朱志香と嘉音が続く。
砕け散った壺を見て、夏妃は眉を吊り上げた。
「誰がやったのですか!?」
「も、申し訳ありま…」
「ごめんなさい、お母様。私が割ってしまったんです」
「っ!!」
亜弥の言葉に、紗音は目を丸くさせた。
「そう…。亜弥、怪我はありませんか?」
「大丈夫です。それより、お母様の大切な壺が…」
「いいのです。壺なんて、他にいくらでもあります。それよりも私にとって大切なのは貴女です」
落ち込む亜弥の頭を優しく撫でてやる。 すると安心したのか、にっこり微笑んだ。
「紗音、嘉音。後片付けを頼みますよ」
「は、はい!」
「かしこまりました」
急いで準備に取りかかる二人を見て、夏妃はその場を後にした。
紗音と嘉音は箒とちりとりを持ち、大急ぎで戻ってきた。 そして言われた通り、残骸を片づけていく。
「あ、あの、亜弥様」
紗音は箒を履く手を止める。
「何?」
「庇ってくださって、ありがとうございました。何かお礼を…」
「そんなのいいよ。だって元々、私が話し掛けたのが悪いんだもん」
「亜弥様は悪くありません!私が、しっかり持っていなかったから…」
シュンとなる紗音に亜弥にっこりと微笑む。
「じゃあ、お互い様だねっ」
「…は、はい!」
亜弥の言葉に紗音は明るい笑顔で頷いた。
そんな二人のやり取りを見ていた嘉音は、同じく二人を見ていた朱志香と目があった。
「な、言った通りだろ?」
朱志香は嬉しそうに嘉音に笑いかけた。
「…そうですね」
少し、亜弥様に対する見方が変わったような気がする。
ふと窓に視線を向ける。 蒼い空が、いつもと違って見えた。
「なんかお腹空いちゃった〜」
「じゃあおやつにでもするか?」
「うんっ。紗音と嘉音くんも一緒だからね!」
「はい!」
「……」
「…嘉音くん?」
「あ、はい、なんでしょう?」
「んもうっだからおやつ一緒するの!強制なんだからね!」
「…よろこんで」
「あれれ、いつもなら嫌がるのに」
「今日は特別です」
to be continue..
嘉音が少しデレ…じゃなくて優しくなった話ですっ これから次第にデレキャラに…はならないかな(笑)
20090613
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