脳裏に亡くなった、蔵臼、留弗夫、霧江、楼座、郷田、そして紗音の六人の顔が次々に浮かんできて。 戦人は、ぎゅっと手を握り締めた。
「それは否定しないです…。これだけの上等キメてくれやがった野郎を、たとえ一日でものさばらしたくない…!…でもよ、」
そこで一端言葉を止める戦人に、亜弥は朱志香の隣でじっと視線を向ける。 それは、他のみんなも同じで。 この場にいる全員が、戦人の次の言葉を待っているようだった。
「さっきはああ言ったが…絵羽おばさんは茶目っ毛があって、いつも楽しくさせてくれる最高のおばさんだ。 秀吉おじさんだって親族一、人の良い素敵なおじさんだぜ。 夏妃おばさんは厳しいけど、誇り高くてかっこいい人だ。 朱志香なんか悪ぶってるけど、根は繊細だし…」
戦人は視線を亜弥に向けると、さらに言葉を続ける。
「亜弥は姉思いで優しい性格は昔からちっとも変ってねぇ」
不謹慎だが、その言葉がとても心に響いて嬉しい気持ちになった。 きっとそれは、亜弥だけではないだろう。
戦人はそれから譲治、真里亞、源氏、南条、熊沢、嘉音、そして失踪して未だに姿の見えない金蔵に対しての自分の気持ちを語り。
「この中に、あんな恐ろしいことのできる人間がいるなんて思いたくねぇ…!俺は19人の誰も疑いたくねぇんだよ…!」
そしてそう言い占めた。 それでも全員、戦人から目を離さない。 そんな状況がしばらく続いた後、ようやく亜弥が口を開いた。
「戦人…私も、戦人と同じ気持ちだよ。誰も、疑いたくないもん…」
「亜弥…」
朱志香が、隣に座っている亜弥へ視線を向ける。 今まで黙って話を聞いていた譲治も、頷き口を開いた。
「僕も同じだよ…無意味な罵り合いだね…。朝からずっとここに集まってるから、みんなストレスがたまってるんだよ…」
「…でしょうな…。なるべく皆さん、リラックスしましょう」
医師である南条が一言そう口にすると、秀吉は隣に立っている絵羽の肩にそっと手を置いた。
「…絵羽、わしらも頭を冷やすべきとちゃうか…?」
秀吉に窘められ、また戦人の言葉に心が打たれたのか絵羽は首を縦に振った。
「…そうね…。レシートの一件で、鬼の首を取ったような気になってた…。確かに夏妃姉さんだけを疑うのはファじゃないわ…」
そう口にすると、絵羽は何も言わずに歩き始める。 その行為を不思議に思った戦人が、絵羽に声を掛けた。
「絵羽おばさん…?」
「私と夏妃姉さんはこれ以上、顔を合わせていない方がいいでしょう」
足を止め、絵羽はくるり踵を返して夏妃の方を向く。 夏妃は瞳を閉じ、俯いているままだった。 そんな彼女へ、そし周りの人間へ言葉を続けた。
「確か夏妃姉さんは昨日、ゲストハウスに返らなくても済むようにってこちらにも客室を用意してくれてたのよねぇ?あそこはバスもトイレもテレビも、横になれるベッドもあるもの。夕食になったら呼んで?それまで私たちは客室に、鍵とチェーンをかけて閉じこもってるわ」
「…お好きなさるといいでしょう…」
夏妃は、絵羽を止めることをしなかった。 それが無駄な行為だということを、重々承知していたからだろう。 絵羽は満足げに、秀吉と共に扉へと向かう。
「姉さんはみんなの監視をよろしくね?そして、自分も監視されていることをお忘れなく」
閉じていた瞳を開け、夏妃は冷たい目で絵羽を一瞥する。 そして立ち上げると、再び瞼を閉じた。
「…くれぐれもご用心を。源次、嘉音、お二人を客室までお送りを」
それは、一瞬の出来事。 気づいた時には、絵羽の足裏が夏妃の顔すれすれのところにあった。 夏妃はいきなりのことについていけず、顔を真っ青にさせている。 譲治の「母さん…!」との言葉に、絵羽はそっと足を下ろした。
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