部屋を出て、客間に戻るため亜弥と嘉音は黙々と歩いて行く。 ちらりと、亜弥は自分の左手首についたキラキラと輝くブレスレットに目をやり、満足そうにほほ笑んだ。 それに気づいた嘉音もまた、嬉しそうに口元を緩ませる。
「見つかってよかったね」
「うん!嘉音、本当にありがとう」
「ううん、僕の方こそ…ありがとう」
照れているのか、ぼそっとそう言う嘉音に亜弥は頭を傾げる。
「どうして嘉音がお礼を言うの?」
「だって…大切にしてくれてるから」
「そんなの当然だよ!だって嘉音がくれた物だし…」
そこまで言うとなんだか自分まで照れてきて、亜弥は頬に手を当てる。 すると頬は少しだけ熱くなっていて、冷えた手が心地よく感じた。 こんな幸せな時間がずっと続けばいいのに・・・なんて考えていると、少し先の方から微かに声が聞こえてきて。 客間が近いからそこからかなと思ったけれど、普通に話しているだけならば聞こえるはずはない。 ということは、かなり大きい声を出しているということだ。 もしかしたら何かあったのかもしれない。 ちらりと嘉音へ視線を向けると、ずっとこちらを見ていたのか目が合い、そして静かに頷いてきた。 亜弥も同じように頷くと、二人は急ぎ足で客間へと向かい出す。 近づくにつれて、徐々に聞こえてくる声が大きいものへとなってくる。 これは…絵羽おば様と……戦人? 声の主が分かったのは、客間の扉の前についた時だった。 ドアノブに手をかけ、勢いよく開ける。 最初に目に入ったもの、それは姉である朱志香が床に膝をつき苦しそうに咳き込む姿だった。
「朱志香お姉ちゃん…!」
状況が全く理解できない、けれど姉が苦しんでいるということだけは分かり、亜弥は駆け寄る。 背中をさすりながら南条先生の姿を探し、声を上げた。
「先生、お薬を…!」
南条は慌てて呼吸器を亜弥に渡す。 それを受け取ると、すぐさま朱志香の口に入れた。
「亜弥…朱志香は大丈夫なのか?」
「うん…、もう大丈夫だよ」
「…亜弥、ありがと、な。戦人も…大したことねぇから…心配すんじゃねぇぜ…」
まだ少し苦しそうに顔を歪ませているが、咳はもう出てはこなかった。 そのことに、夏妃もまた安堵の溜め息をはく。 亜弥はそれを目にし、そして視線を戦人に向けると事の状況を聞くべく声を掛けた。
「一体、何があったの…?」
「…絵羽おばさんが、夏妃おばさんが祖父様を殺したって言い出したんだよ」
「えっ」
驚いて、戦人と腕を組み下へと視線を向けている絵羽を見比べる。 なんだか周りの空気も嫌に重い。 そんな中で戦人は頭の後ろを掻き、また口を開いた。
「…こんなのよ…不毛な争いだぜ…。夏妃おばさん、明日迎えの船はいつ来るんですか?」
「おそらく朝の9時頃でしょう…。電話が不通なので確認は取れませんが、客人の送迎目的と伝えてありますから、朝一番に来てくれるはずです」
すらすらと、夏妃は戦人の問いに答える。 そう、明日には船が来てくれるのだ。
「…迎えの船が着たら、その無線で警察に連絡できる…。そしたら警察が全ての謎を解いて犯人を逮捕してくれるんだ…」
ぽつりぽつりと、戦人は呟く。 その様子を亜弥たちはただただ眺めて見ているだけ。
「無力な俺たちが今、犯人捜しやアリバイの有無で罵り合うなんて無意味だぜ…」
「…でも戦人くんだって知りたいんじゃないの?犯人を。大切な人を失った痛みを、思い知らせてやるために。一秒でも早く知りたいんじゃないの?」
絵羽の言葉を、戦人は黙って耳を傾ける。
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