部屋を飛び出したのはいいけれど、嘉音がどこにいるのか分からず亜弥はただただ屋敷の中を歩き回っていた。 どこにいるんだろう、もう一度最初の地点から探そうかな。 そう考えていると、後ろから夏妃が聞いたら絶対に怒るであろう、走る音が聞こえてきて亜弥は振り返った。
「嘉音くん…!」
「亜弥、様」
そこにはかなり走ったのだろう、ハアハアと息を荒くした嘉音の姿が。 そんな嘉音を目にし、亜弥は思わず駆け寄った。
「だ、大丈夫…?」
「はい、問題ありません」
「よかったあ…」
息の整った嘉音を見て、ほっと胸を撫で下ろす。 けれどそんな嘉音を前にし、自分が酷いことを口にしてしまったのを思い出し、亜弥は一気に気まずい気持ちになった。 言わなきゃ、ちゃんと謝らなきゃ…そう思い口を開こうとするけれど、もしかしたら許してくれないかもしれないなんて嫌な考えが頭を過り、口が言うことをきいてくれない。 瞳には、どんどん涙が溜まってきて。 どうしようと心の中で焦っていると、「亜弥様」と優しげに呼ぶ声が耳に入ってきた。 視線を嘉音に向けると真剣な眼差しをしていて、だけどどこか申し訳なさそうな表情で。 亜弥は、そんな嘉音に釘付けになった。
「あんなことをしてしまって…本当に申し訳ありませんでした。亜弥様の気持ちも考えないで。それに、瑠珠様のことも…」
申し訳ありません、そう言って嘉音は帽子を取ると頭を下げた。 それを目にして、亜弥の瞳からはポロポロと涙がいくつも零れ落ち始める。
違う、嘉音くんが悪いんじゃない、全部私が悪いんだ。 涙を服の袖で拭うと、亜弥はやっとの思いで口を開いた。
「違う…よ。嘉音くんは、全然悪くない。瑠珠を傷つけたのも、嘉音くんに酷いこと言って傷つけたのも…私だから」
泣かないように気を付けつつ、一つ一つの言葉を大切にしながら紡いでいく。 きちんと、嘉音に伝わるように。 亜弥は、自分の思いの全てを込めて叫んだ。
「本当に、ごめんなさい…!」
頭を目一杯下げて、ゆっくりと上げる。 すると、目を丸くさせた嘉音がと目があった。
「亜弥様…」
「許して…くれる、かな?」
おずおずとそう訊ねると、嘉音はにっこりと優しく微笑んだ。
「もちろんです」
「ありがとう…」
「僕のことも、許してくれますか?」
「もちろんだよ、嘉音くん!」
嘉音に負けないくらいの笑顔で、そう返事をする。 するとなぜか、フッと嘉音が微笑した。
「どうしたの…?」
「いえ、ただ…少し昔のことを思い出しただけです」
そう、自分がこのお屋敷に来てまだ数週間くらいの頃。 奥様が大切にしていた壺を紗音が割ってしまったとき、亜弥様が奥様からのお叱りを受けないよう紗音を庇った。 そして謝る紗音に、亜弥様は「お互い様だね」と笑いかけた。 そのときのことが今の自分たちと重なって、何だか不思議な気分になったのだ。
「亜弥様、瑠珠様のところへはもう行かれたんですか?」
「ううん…まだなんだ」
一気に表情を暗くする亜弥を見て、嘉音は決意を固めた。
「では一緒に行きましょう。僕も少し、瑠珠様とお話しがしたいので」
「そうなんだ。じゃあ行こっか。多分部屋にいると思うから」
少しだけ元気になった亜弥に、嘉音は安堵の溜め息をついた。 そして瑠珠のいる部屋を目指し、亜弥と共に歩き出す。
亜弥は、謝るために。 そして嘉音は、自分の気持ちを全て明かすために。
そんな嘉音の決心も知らず、亜弥は心の中で自分の嘉音への気持ちについて考えていた。 けれど答えは見つからなくて。 今は瑠珠のことを優先しようと、頭を振ってその考えをかき消したのだった。
to be continue..
ついに21話まできましたー\(^o^)/ ですが第二章はまだまだ続きます← 何せ第二章は、亜弥が自分の気持ちに気がついて終わりますから! まだ全然気づけていないので、これからその辺りの話を書くのが楽しみです^^* 読んでくださり、ありがとうございましたっ。
20101226
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