20.消えない感情と温もり



なんてことをしてしまったんだろうか、そしてそんな風に後から反省する僕は本当に愚かだ。
いきなりあんなことをしたんだ、深く傷付いただろう。
亜弥を怒らせてしまった。
もしかしたら、もう口さえ利いてもらえないかもしない。
いや、むしろそれでいいんじゃいだろうか。

暗くなっていく自分の思考に深々と溜め息をつくと、事情を全て聞いた紗音が困ったように眉を下げた。


「嘉音くんは、亜弥様が怒ったのは…その、嘉音くんがいきなりキスしたからだと思ってるの?」

「そうだけど…」


この手の話が紗音はあまり得意ではないため、そんなにも触れてはこないだろうと思っていた嘉音は、いきなりの紗音の発言に少しばかり戸惑いつつも頷く。
すると紗音は苦笑いを浮かべた。


「嘉音くん、勘違いしてると思うな」

「…え?」

「亜弥様が怒ったのは、嘉音くんのせいじゃないと思う。多分…瑠珠様を傷つけてしまった自分が、とても腹立たしく感じたから…」


なんとなく、紗音の言いたいことが分かった。
けれど、ならつまり。


「それじゃあ…僕が怒られたのって……八つ当たりだったってこと?」

「うーん…でもやっぱり、嘉音くんも少し悪いかな」

「??」

「もう少し、乙女心が分かるようにならないとね」


クスッと笑う紗音を前に、嘉音はただただ怪訝な顔をするだけで。
そんな嘉音に気が付くと、紗音は笑うのを止めて顔を引き締めた。
真剣な表情になった姉に、眉間に寄っていた皺も自然と無くなっていく。


「嘉音くん、君がこれからしなくちゃいけないことは何?」


僕が、これからしなくちゃいけないこと…。
紗音の言葉で、頭の中に浮かんできたもの。
それは、大好きな人の大好きな笑顔。
諦めようかと思った。
亜弥様の涙を見たとき、彼女へのこの想いは断ち切ろう、ただの使用人に戻ろう、そんな感情が心の中を侵食していった。

けれど紗音に話を聞いてもらい、そして彼女の話を聞くうちに、次第に別の感情が心の中を満たしていった。
それは、


「亜弥に会って、きちんと話しをすること」


会いたい、君に。
そして、できればもう一度だけでいい、僕に笑顔を見せて欲しい。
温かくて、それでいて優しい、あの笑顔をもう一度…。


「そうだね。きっと亜弥様も、嘉音くんと仲直りをしたいって思っていると思う」

「姉さん…ありがとう。僕、行ってくる」

「うん。頑張って、嘉音くん」


嘉音は頷くと、駆け出した。
屋敷内を走るなんて、もしも夏妃に見つかってしまったらきっと叱られるだろう。
それでも、嘉音は走る。
そんなことがどうでもいいと思えるくらい、大切なことを見つけたから。

胸の中でモヤモヤとしていたものは、今はすっかり無くなっていて。
とても清々しい気分だった。


──亜弥、早く君に会いたい。

目指すは、大切な人の部屋。
確信があるわけではなかった。
けれど嘉音は、その場へと走る。
まるで何かに引き寄せられるかのように。



to be continue..


久しぶり過ぎる更新で申し訳ありません…!!
いやー、思うように書けない書けない(笑)
やっぱり、何ヵ月も書かないでいると、書き方とかって分からなくなるものなんですね…(汗)
これからは、時間を見つけてちょくちょく更新頑張りますっ。
読んでくださって、ありがとうございました!

20101108



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