なんてことをしてしまったんだろうか、そしてそんな風に後から反省する僕は本当に愚かだ。 いきなりあんなことをしたんだ、深く傷付いただろう。 亜弥を怒らせてしまった。 もしかしたら、もう口さえ利いてもらえないかもしない。 いや、むしろそれでいいんじゃいだろうか。
暗くなっていく自分の思考に深々と溜め息をつくと、事情を全て聞いた紗音が困ったように眉を下げた。
「嘉音くんは、亜弥様が怒ったのは…その、嘉音くんがいきなりキスしたからだと思ってるの?」
「そうだけど…」
この手の話が紗音はあまり得意ではないため、そんなにも触れてはこないだろうと思っていた嘉音は、いきなりの紗音の発言に少しばかり戸惑いつつも頷く。 すると紗音は苦笑いを浮かべた。
「嘉音くん、勘違いしてると思うな」
「…え?」
「亜弥様が怒ったのは、嘉音くんのせいじゃないと思う。多分…瑠珠様を傷つけてしまった自分が、とても腹立たしく感じたから…」
なんとなく、紗音の言いたいことが分かった。 けれど、ならつまり。
「それじゃあ…僕が怒られたのって……八つ当たりだったってこと?」
「うーん…でもやっぱり、嘉音くんも少し悪いかな」
「??」
「もう少し、乙女心が分かるようにならないとね」
クスッと笑う紗音を前に、嘉音はただただ怪訝な顔をするだけで。 そんな嘉音に気が付くと、紗音は笑うのを止めて顔を引き締めた。 真剣な表情になった姉に、眉間に寄っていた皺も自然と無くなっていく。
「嘉音くん、君がこれからしなくちゃいけないことは何?」
僕が、これからしなくちゃいけないこと…。 紗音の言葉で、頭の中に浮かんできたもの。 それは、大好きな人の大好きな笑顔。 諦めようかと思った。 亜弥様の涙を見たとき、彼女へのこの想いは断ち切ろう、ただの使用人に戻ろう、そんな感情が心の中を侵食していった。
けれど紗音に話を聞いてもらい、そして彼女の話を聞くうちに、次第に別の感情が心の中を満たしていった。 それは、
「亜弥に会って、きちんと話しをすること」
会いたい、君に。 そして、できればもう一度だけでいい、僕に笑顔を見せて欲しい。 温かくて、それでいて優しい、あの笑顔をもう一度…。
「そうだね。きっと亜弥様も、嘉音くんと仲直りをしたいって思っていると思う」
「姉さん…ありがとう。僕、行ってくる」
「うん。頑張って、嘉音くん」
嘉音は頷くと、駆け出した。 屋敷内を走るなんて、もしも夏妃に見つかってしまったらきっと叱られるだろう。 それでも、嘉音は走る。 そんなことがどうでもいいと思えるくらい、大切なことを見つけたから。
胸の中でモヤモヤとしていたものは、今はすっかり無くなっていて。 とても清々しい気分だった。
──亜弥、早く君に会いたい。
目指すは、大切な人の部屋。 確信があるわけではなかった。 けれど嘉音は、その場へと走る。 まるで何かに引き寄せられるかのように。
to be continue..
久しぶり過ぎる更新で申し訳ありません…!! いやー、思うように書けない書けない(笑) やっぱり、何ヵ月も書かないでいると、書き方とかって分からなくなるものなんですね…(汗) これからは、時間を見つけてちょくちょく更新頑張りますっ。 読んでくださって、ありがとうございました!
20101108
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