12.失した大切なもの


みんなのいる客間へ戻るため、亜弥たち三人はシーンと静まり返った廊下をただただ歩いていく。
そんな中を、「あっ」っという亜弥の声が響き渡った。
立ち止まる亜弥の方を向き、戦人と嘉音も足を止めて不思議そうな表情をする。
亜弥はそんな二人に気づかず、下を向き服のポケットなどに手を入れたり服の袖をめくって腕を見たりしている。


「どうかしたのかよ、亜弥」


そう尋ねる戦人に、亜弥は瞳に涙を浮かべて顔を上げた。


「そ、それが…大切にしていたブレスレットが無い…の」


ちらりと視線を嘉音に向けると、驚いた表情をしていた。
そう、そのブレスレットとは嘉音が亜弥の15の誕生日のときにプレゼントしたものなのだ。
亜弥にとってそれは大好きな嘉音からもらった大切な宝物で。
だからこそ必死になって探していたのだ。


「そいつはヤベェな…」

「最後に見たのはいつでしたか?」

「確か…あ、服を着替えたときだ!」


そうだ、そのときブレスレットも一緒にとって机の上に置いたんだ。
今着てる服に着替え終わってからつけようと思っていたのだけれど、外で嘉音を待たせていて慌てていたため、つけるのを忘れて部屋から出てそれっきりだったのだ。
やっと経緯を思い出し、亜弥は安堵の溜め息をはいた。


「私、部屋まで取りに行ってくる」

「では僕もお供致します。一人で行動されるのは、危険だと思いますので…」

「なら俺もついて行く。人数は多い方がいいだろ?」

「ううん、戦人は戻って。どこにあるかは分かってるし・・・それに、あんまり遅くなったらお母さんが心配すると思うから」


ねっと笑いかけるが、戦人は腑に落ちないのか眉間を寄せている。
けれどしばらく考えるような仕草をした後、納得したのか「分かった。じゃあ俺は先に戻るな。気をつけろよ?」とだけ言って一人客間へと歩いて行った。


「戦人一人で大丈夫かな…。客室まで一緒に行った方がよかったかな?」

「客室はすぐそこだから、大丈夫だと思うよ。多分そろそろ、着いている頃だ」


敬語をやめてそう話す嘉音に、亜弥は安心したのか頷いた。
そして部屋へと向かうべく、再び歩みを再開したのだった。




【第12話:失くした大切なもの】




しばらく歩いた後、ようやく部屋に着くことができた。


「じゃあ僕はここで待ってるから」

「うん、分かった」


扉の横に立ち嘉音へそう返事をする。
早く自分も戻らないと、母親である夏妃に心配されてしまうと思った亜弥は、扉を開くと速足で部屋の中に入り、ブレスレットを置いたはずの机の方へと向かう。
けれどそこにブレスレットは無くて。
亜弥は慌てて回りへ目配りをし始めた。


「亜弥、あった?」


なかなか出てこない亜弥を心配した嘉音が、中に入ってきた。


「それが…無いの」

「え?」


今にも泣き出しそうな亜弥の返事を聞き、嘉音もベットの方や扉の方を探し始める。
何分経っただろうか、膝をつき机の下を探していた嘉音が声を上げた。


「あったよ、亜弥」


嘉音の手には、黄金に輝く片翼の羽のついたブレスレットが握られていた。


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