03.初めての命令



天気は大雨、気分は晴れ。

嬉しそうに鼻歌をうたう亜弥に、朱志香は苦笑した。


「亜弥、学校行かなくてよくなったからって、遊んでばかりいると母さんに怒られるぜ?」

「大丈夫、ちゃんと勉強もするよー」

「…その手に持ってるのは何だよ?」

「メイド服だよ」

「や、そうじゃなくて…」


それ、どうするつもり?


と聞こうとしたが、言葉をのみ込んだ。

亜弥はいきなり突拍子もないことを言い出すことがある。
もし聞いて、お姉ちゃん着て!なんて言われてしまったら困る。
嫌だと言って亜弥を悲しませるわけにはいかない。
つまり、イエス以外の返答は存在しないのだ。


「お姉ちゃん、どうかした?」

「へ?い、いや、何でもないぜ!」

「そう?じゃあちょっと行ってくるね」

「どこに?」

「嘉音くんのとこ!これ着てもらうのっ」


着ないだろ、という言葉をぐっと押し込む。
亜弥はメイド服のスカートの部分をひらひらさせた。


「そっか。行ってらっしゃい」

「行ってきまーす!」


楽しげに笑う亜弥を見て、その笑顔が自分にでなく嘉音に向けられていることに、何となく複雑な気分になった。

とりあえず嘉音くん、ご愁傷様。



その頃、仕事がオフのため嘉音は部屋でくつろいでいた。
そんなところに亜弥はやって来て。
亜弥の手にしているものを見て、思わず嘉音は眉をひそめた。


「ねー、嘉音くんっ」

「嫌です」

「まだ何も言ってないんだけど…」

「絶対に嫌です」

「何が?」

「断固拒否します」

「……」

「仕事がありますので、帰ってください」

「オフでしょ」

「家具に休みはありません」


察しがついたのか、嘉音は全力で拒否をする。
亜弥は嘉音の態度に若干不機嫌になった。


「ね、お願い。着て?」

「お願いは聞けません」

「じゃあ…命令。着なさい」

「…っ」


普段亜弥は絶対に命令などはしない。
嘉音は戸惑いを隠せなかった。

自分は、使用人。
雇い主の命令は絶対だ。


「…分かりました」


複雑な表情で、嘉音は亜弥から洋服を受け取った。



しばらくの後、亜弥は部屋の外から嘉音に声を掛けた。


「嘉音くーん、まだー?」


着替える嘉音のため、部屋から出て行ったのだ。
単に恥ずかしかっただけというのもあるが。


「…終わりました」

「じゃあ入りまーす!」


ドアを開く。

恥ずかしいのかスカートをぎゅっと握り締め、俯く嘉音の姿が目に入った。


「か、可愛い!!」

「……」


正直、そこら辺にいる女の子よりも可愛い。
心底嫌そうな表情さえしていなければ、満点合格だろう。


「写真撮っちゃえ」

「なっ!?」


亜弥の発言に顔を上げた瞬間、パシャリとシャッター音が。
ばっちりカメラ目線の嘉音が撮れたことに、亜弥は嬉しそうに笑った。


「…はめましたね」

「え〜、嘉音くんが自分から顔上げたんじゃん」

「……」

「あーもうっ怒らないでよ!ごめんね?」

「…怒ってません」


かなりの頑固者らしい。
亜弥はそんな嘉音に苦笑いをした。


「あの、」

「何?」

「脱いでもいいですか?」


複雑そうにスカートを握りしめる嘉音に、亜弥は


「うん、いいよ」


一瞬残念そうな表情をしたが、すぐににっこり笑って返事をした。










「亜弥様、何を見てらっしゃるんですか?」

「あ、朱志香お姉ちゃんと紗音だっ」

「写真…?何が写ってるんだよ?」

「えへへー、見たい?」

「亜弥様」

「あれ、嘉音くんどこから…って、写真返してよっ!」

「嫌です。これは僕が丁重に処分しておきます」

「嫌ぁぁあ!」

「「?」」



to be continue..


嘉音にコスプレ…もといメイド服を着せたかっただけです←
嘉音顔可愛いから、似合うだろうなあ…。
因みにこの後、嘉音によってネガも処分されました。

20090606



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