天気は大雨、気分は晴れ。
嬉しそうに鼻歌をうたう亜弥に、朱志香は苦笑した。
「亜弥、学校行かなくてよくなったからって、遊んでばかりいると母さんに怒られるぜ?」
「大丈夫、ちゃんと勉強もするよー」
「…その手に持ってるのは何だよ?」
「メイド服だよ」
「や、そうじゃなくて…」
それ、どうするつもり?
と聞こうとしたが、言葉をのみ込んだ。
亜弥はいきなり突拍子もないことを言い出すことがある。 もし聞いて、お姉ちゃん着て!なんて言われてしまったら困る。 嫌だと言って亜弥を悲しませるわけにはいかない。 つまり、イエス以外の返答は存在しないのだ。
「お姉ちゃん、どうかした?」
「へ?い、いや、何でもないぜ!」
「そう?じゃあちょっと行ってくるね」
「どこに?」
「嘉音くんのとこ!これ着てもらうのっ」
着ないだろ、という言葉をぐっと押し込む。 亜弥はメイド服のスカートの部分をひらひらさせた。
「そっか。行ってらっしゃい」
「行ってきまーす!」
楽しげに笑う亜弥を見て、その笑顔が自分にでなく嘉音に向けられていることに、何となく複雑な気分になった。
とりあえず嘉音くん、ご愁傷様。
その頃、仕事がオフのため嘉音は部屋でくつろいでいた。 そんなところに亜弥はやって来て。 亜弥の手にしているものを見て、思わず嘉音は眉をひそめた。
「ねー、嘉音くんっ」
「嫌です」
「まだ何も言ってないんだけど…」
「絶対に嫌です」
「何が?」
「断固拒否します」
「……」
「仕事がありますので、帰ってください」
「オフでしょ」
「家具に休みはありません」
察しがついたのか、嘉音は全力で拒否をする。 亜弥は嘉音の態度に若干不機嫌になった。
「ね、お願い。着て?」
「お願いは聞けません」
「じゃあ…命令。着なさい」
「…っ」
普段亜弥は絶対に命令などはしない。 嘉音は戸惑いを隠せなかった。
自分は、使用人。 雇い主の命令は絶対だ。
「…分かりました」
複雑な表情で、嘉音は亜弥から洋服を受け取った。
しばらくの後、亜弥は部屋の外から嘉音に声を掛けた。
「嘉音くーん、まだー?」
着替える嘉音のため、部屋から出て行ったのだ。 単に恥ずかしかっただけというのもあるが。
「…終わりました」
「じゃあ入りまーす!」
ドアを開く。
恥ずかしいのかスカートをぎゅっと握り締め、俯く嘉音の姿が目に入った。
「か、可愛い!!」
「……」
正直、そこら辺にいる女の子よりも可愛い。 心底嫌そうな表情さえしていなければ、満点合格だろう。
「写真撮っちゃえ」
「なっ!?」
亜弥の発言に顔を上げた瞬間、パシャリとシャッター音が。 ばっちりカメラ目線の嘉音が撮れたことに、亜弥は嬉しそうに笑った。
「…はめましたね」
「え〜、嘉音くんが自分から顔上げたんじゃん」
「……」
「あーもうっ怒らないでよ!ごめんね?」
「…怒ってません」
かなりの頑固者らしい。 亜弥はそんな嘉音に苦笑いをした。
「あの、」
「何?」
「脱いでもいいですか?」
複雑そうにスカートを握りしめる嘉音に、亜弥は
「うん、いいよ」
一瞬残念そうな表情をしたが、すぐににっこり笑って返事をした。
「亜弥様、何を見てらっしゃるんですか?」
「あ、朱志香お姉ちゃんと紗音だっ」
「写真…?何が写ってるんだよ?」
「えへへー、見たい?」
「亜弥様」
「あれ、嘉音くんどこから…って、写真返してよっ!」
「嫌です。これは僕が丁重に処分しておきます」
「嫌ぁぁあ!」
「「?」」
to be continue..
嘉音にコスプレ…もといメイド服を着せたかっただけです← 嘉音顔可愛いから、似合うだろうなあ…。 因みにこの後、嘉音によってネガも処分されました。
20090606
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