外では冷たい風が吹き付けている。 それに対照するかのように、屋敷の中では瑠珠(るーじゅ)の暑苦しいくらいの猛アタックが開始されていた。 その光景を見て炉華(ろっか)は深い溜め息をつき、隣で同じくそれを見ていた亜弥に声を掛けた。
「…いいの、あれほっといてさ」
「ん〜、いいんじゃ…ない?」
「嘉音くん、嫌がってるように見えるんだけど…」
「來夢(らいむ)もそう思う?」
「うん、まぁあれは仕方ないと思うな…」
苦笑いをしつつ、視線を嘉音たちに戻す。 会話が小さいながらも耳に届いてきた。
「ねぇ、嘉音くんてぇどんな子が好みなのっ?」
「……僕は家具なので、そういうことは…」
「えーっそうなのぉ?るぅつまんないー」
「…、」
「じゃあじゃあ、好きな食べ物は?るぅね、料理得意なんだぁ!」
「…あの、」
「なになにっ?」
「…当たってます」
先程から瑠珠は嘉音の腕に自身の両腕を絡ませ、胸を押しつけているのだ。 嘉音も家具と言いつつもやはり人、それも男で。 これに反応しないはずがなく、困った表情をしていた。
「離して頂けませんか」
「えぇ〜、るぅのこと…嫌いなの?」
その質問に嘉音は一瞬顔をしかめ、いつもの表情に戻した。 相手は亜弥の友人だ、粗相のないようにしなければ。 深呼吸を一つし、
「そんなことはありませんよ」
ほんの少しだが、微笑んで見せた。 それがどうやら上手くいったようで、瑠珠は頬を真っ赤に染めて固まってしまった。
瑠珠に嫌われるということは、亜弥にも嫌われる。 亜弥が友達を大切にしていることを嘉音は知っていた。 だからこそ、内心関わりたくないと思いつつもこういう行動に至ったのだ。 愛のなせるわざだと嘉音は自分を褒め称えた。
以上のことを一部始終見ていた炉華がポツリと呟いた。
「なんか、嘉音くん満更でもないみたいね…」
「みたいだね〜、相手が私なら絶対に引き離されてるよ」
「うーん、そうかなぁ」
もしかしたら嘉音も瑠珠が好きなんじゃないかな。 なら、精一杯応援してあげなきゃだよね、と亜弥は自分がまたも大きな勘違いをしているなどとは微塵も考えずに決意を固めつつあった。
「あ、瑠珠たちこっちに来たよ」
「なんかこうして見ると恋人同士みたいだねっ」
「……、」
実際は瑠珠が一方的にくっついているだけ。 けれど亜弥たちにはそうは見えなくて。 亜弥は大切な何かを失ってしまったような、そんな虚無感に襲われた。
見ていることができなくなって、思わず俯く。 すると異変に気付いた嘉音が声をかけた。
「亜弥様、どうかなさいましたか?」
心配そうな声が頭上から聞こえ、亜弥はゆっくりと顔を上げる。 するとやはり瑠珠がくっついたままで。 応援すると約束したのに、さっきまではなんとも思わなかったのに。 何故か今は胸がぎゅっと締め付けられて苦しい。 初めての感情に、戸惑わずにはいられなくて。
気づいたときには、嘉音の服をぎゅっと握り締めていた。
「…亜弥様?」
「…っ」
名前を呼ばれた瞬間、何故か涙が溢れだした。
いきなりのことで、それを見た炉華たちは目を丸くさせる。 嘉音は無理やり瑠珠の腕を払うと、そっと亜弥の両肩に手を添えた。
「どうされたんですか?」
優しい声。 それがさらに涙を増させた。 泣き顔を見られていることに恥ずかしさを感じ、亜弥は嘉音の胸に顔をうずめる。 すると嘉音はゆっくりと頭を撫で始めた。 それが何だかとても心地よくて、気づいたときには自然と涙は止まっていた。
「すみませんが、亜弥様をお部屋にお連れさせて頂きます」
「あ、うん分かった…」
「じゃあ勉強の続きは炉華の部屋でしよっか」
「そうだな。ほら、瑠珠行くよ」
「…うん」
複雑そうな表情で亜弥たちを一瞥すると、瑠珠は炉華たちとともに部屋へと向かって行った。
「僕たちも行きましょう?」
「…うん」
自分の隣に、嘉音がいる。 そのことが何だか嬉しくて。 瑠珠への罪悪感に胸を痛めながらも、亜弥は差し伸べられた手を迷うことなくとった。 ぎゅっと少し力を入れると、嘉音もまた返事を返すように力を入れてくれて。 ほんのり優しく微笑む嘉音に、胸が温かくなるのを感じた。
to be continue..
亜弥の嘉音に対する気持ちは恋なのか、単なる独占欲なのか…。 次回、微裏いくかもしれません。 嵐の幕開けです´` 上手く書けるか、今からドキドキです(笑)
20090906
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