16.お泊まり会



季節は冷たい風が吹き付ける冬。
亜弥の学校はつい最近冬休み期間に入ったところで。
よーし、満喫するぞ、と当初は意気込んでいた。

しかし、今はというと。


「数学が分かんないー」


机に顔を伏せて唸っていた。


「はいはい、どこが分かんないの?」

「ここー」

「…ちょっと、こんなとこでつまらないでよ」


やれやれといった感じで亜弥のノートを覗き込み、呆れた顔をしたのは友達の炉華(ろっか)。
少々口調がキツいもののとても面倒見がよく、亜弥に対しては姉のような保護者のような位置にいたりする。


「まーまー、勉強ができないでこそ亜弥なんだし」

「そこが可愛いんだって炉華も言ってたじゃない」


若干笑いながら、來夢(らいむ)と瑠珠(るーじゅ)はフォローをした。
この2人も亜弥の大切な友達で、毎年夏休みと冬休みは亜弥の家に泊まり込みで宿題をやっている。
亜弥以外の3人は自分だけで終わらすことができるのだが、亜弥は自他共に認めるほどの勉強嫌い。
小学生のときよく宿題を忘れ、よく教師に小言を言われていた。
それに見かねた3人が亜弥が宿題を全て終わらせるまで家に泊まり、分からないところは教えてあげようということになったのだ。
本当に亜弥は友達に恵まれている。


「…確かにこれで亜弥が勉強できたんじゃあ…完全に妬まれてたわね」

「何たって大金持ちのお嬢様だもんね」

「そういえばこの間また告白されてたらいしね」


來夢の一言で、視線が一斉に亜弥に向く。
亜弥はというと驚いた顔で声を上げた。


「何で知ってるの!?」

「校内一の情報屋をなめないでよねっ」

「あー、確かにあんたの情報網はすごいわ。で、返事はどうしたの?」


興味なさげに片手をひらひらと振って來夢の話を受け流すと、亜弥を見据える。
亜弥はけろっとした顔で、


「断ったよ」


さも当然のようにそう答えた。
その返事に不満だったのか、瑠珠は眉をひそめた。


「なんでぇー!?亜弥はもっと恋愛した方がいいと思うなぁ」

「男を泣かしてばかりの魔性ちゃんが何を言うか」

「炉華ひっどーい!るぅは魔性じゃないもん!」


怒ったような表情でぷぅっと頬を膨らませる。
それを見て面倒くさそうに炉華はまた溜め息をついた。
そこに、來夢が割ってはいる。


「まーまー。それよりさ、守音くんのことはまだ好きなの?」

情報屋としての血が騒ぐのか、興味津々な表情。
亜弥もまた、その話には少しだけ興味があったため瑠珠に視線を向ける。


「あー…守音くんのことはもう諦めたよ。だって猛アピールしてたのに全然るぅのこと見てくれなかったもんっ」

「なーんだ、じゃあ瑠珠も今は恋してないのかぁ」

「いい人がいたら紹介してね」


冗談半分に笑って、瑠珠は3人にウインクした。

亜弥は内心ほっとしていた。
守音が朱志香に密かに想いを寄せているのを知っていたからだ。
そして、朱志香も…。

意識を飛ばしていると、横から肘でつつかれた。


「手が止まってる。ここはね…」


炉華の言葉で、勉強会は再開された。

そしてしばらくの後、休憩しようという來夢の提案に4人はシャーペンから手を離した。


「うぅ…頭の中に数字が回ってる」

「大げさだなぁ…まだ1/3も終わってないわよ」

「私、終わらせられる自信がない…」


機械だったら間違いなく頭からぷしゅーと煙を出すくらい、亜弥は疲れ切っていた。
喉が渇いたな、なんて心の中で呟く。

すると。
コンコンっというノック音が聞こえてきて。
次にドア越しから嘉音の声が耳に入ってきた。


「お茶をお持ちしました」

「はいは〜いっ」


亜弥は立ち上がると扉へ向かい、ドアノブを引いた。
トレイの上にケーキ、カップなどを乗せて両手でしっかりとそれを持つ嘉音の姿が視界に入った。


「丁度休憩中だったんだ。入って?」

「はい」


嘉音を招き入れると、扉を閉めて炉華たちのところに戻る。
するとそのとき、頬を赤く染めてじいっと嘉音を見つめる瑠珠に気がついた。


「ね、ねぇ亜弥っその人だぁれ?」

「そっか、嘉音くんが学校に来たとき、瑠珠休んでたもんね。
嘉音くん、うちの使用人なんだ」

「…初めまして、嘉音です」


帽子を外して片手で持ち、軽く頭を下げた。


「る、瑠珠っていいますっ」


顔を真っ赤に染めて、言葉を紡ぐ。
少し噛んでしまい、恥ずかしそうに俯いた。

そんな瑠珠には気づかず、帽子を被ると配膳を始める。


「今日はチョコケーキなんだね」

「はい、奥様がチョコは勉強するときに食べるとよいと」

「へぇ、夏妃おばさん分かってるなぁ」


紗音とは違い、物音一つ立てずに配膳を済ます。
そしてトレイだけを片手に持つと、ゆっくりとした物腰で立ち上がり。


「それでは失礼します。何かありましたら、いつでもお呼びください」


ぺこりと一礼し、部屋から出て行った。

瑠珠は扉から瞳を外すと、両手を頬に添えて。


「どうしよう…恋しちゃったみたい」


嬉しそう照れたように微笑する。
そんな彼女に炉華と來夢は互いを見合い、困ったように眉を下げた。


「ねぇ、亜弥ってさ…」

「うーん…どうなんだろ」


ちらりと亜弥に視線を走らせるも、全く興味を示さずにケーキを頬張っている。


「ねぇ亜弥!嘉音くんのこと、いろいろ聞かせて!」

「んぅ?」


食べている途中で話しかけられたため、言葉にならない声が出た。
けれど瑠珠は肯定ととったのか嬉しそうに笑うと、ガシッと亜弥の肩を両手で掴み思い切り揺さぶる。


「るぅの恋、応援してねっ」

「ひゃあっわ、分かった分かったぁ!」


あまりにも激しく、このまま続けられたら目が回りそうだったので、亜弥はこくこくと頷いたのだった。



to be continue..


第二章スタートです!
友達の名前が皆さまの設定されたヒロイン名に被らないよう、当て字とか使っています^^
もし被っていたら変えますので、ご連絡ください!
さて次回から、瑠珠の猛アピールが始まります。
何気に瑠珠気に入ってるので、どうなるか楽しみです(笑)

20090830



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -