可哀想なアヤ。
可哀想な私の、アヤ…。
でもね、大丈夫。
私が必ず助けてあげる。
あなたの心の扉を──鳥籠を開ける鍵に、私がなるから。
だから、また私ににっこりと微笑んでちょうだい?
あなたのためなら、あなたの笑顔を取り戻すことができるなら。
私は奇跡を捨てることさえいとわない──
【第2話:願いは貴女の微笑み】
長いさらさらの髪をなびかせて一人の少女が向かったのは、悲しみで心をいっぱいにした少女の元。 自分と同じく、何も映していないような瞳── いつも絶えずニコニコ笑みを含ませていた唇も、今は堅く閉ざされていて。
心が、ズキンと軋んだような気がした。
「…ねぇ、アヤ」
私の声、届いている?
「アヤ、アヤ」
何度繰り返しでも、返事はない。
どうしてこうなってしまったのだろう。 アヤをこんな風にした奴が憎い。
ぎゅっと唇を噛み締める。
するとそのとき、丁度いいタイミングで声を掛けられた。
「ベルンカステルではありませんか」
「…シルフィ。お久しぶりね」
少女─ベルンカステルは、アヤの師匠であるシルフィールを一瞥して、素っ気なく返事を返す。 そして視線をアヤへと戻した。
「アヤはまだここに閉じこもっているのね」
「ええ…どうやらアヤに『不変』は荷が重すぎたようですわね」
「…人間のせいで、アヤは変わってしまった」
昔から、アヤは人間に人一倍興味を抱いていた。 他の魔女たちは、退屈しのぎのゲームの駒だとしか思っていない者が多々だったのに。 私だってそう、特別興味があるわけではなかった。
私は止めた、魔女が簡単に人に関わるなんて。 特にアヤは純粋過ぎる。 下手をすれば使われるだけ使われて…なんてことだって有り得るのに。
「私の話に耳を傾けなかったからよ…」
そう口にすると、自己嫌悪の念に駆られた。
親友なのに、誰よりも大切な人なのに。
「私はどうすればいいの…」
「ただ待つ、それしかできませんわ」
「っ無理よそんなこと!」
普段あまり感情を表に出さないベルンカステルが、大声を上げた。 表情は本当に辛そうで。 シルフィールは思わず口をつぐんだ。
「もう何日待った?こんなにも悲しいアヤをこれ以上ただ見ているだけなんて、私にはできない」
光を失った瞳からこぼれ落ちる一滴の雫。 それを見たシルフィールは、ふぅと息をついた。
そして、こう告げた。
「もしかしたら…何とかなるかもしれませんわ」
「ほ、本当!?」
一瞬、失われたはずの光がベルンカステルの瞳に再び宿ったように見えた。 きっと何かの錯覚だろうが。
「ええ。アヤがいつも大事そうに付けているあの十字架のネックレス…あれを捕って、どこかに隠すのです」
その言葉に、ベルンカステルは胸元に視線を向ける。 キラリと輝く十字架は瞳に映し出された。
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