予想外の言葉に、戦人は絶句する。
「お姿が…何だって?」
亜弥は、不安げな表情で嘉音たちを見つめる。
「ベアトリーチェ様にはお体がありません。ですから、ベアトリーチェ様がお望みにならない限り、私ども凡庸にはお姿を見ることすら叶いません」
「ベアトリーチェ様が人の姿をされていた頃の絵が、あの肖像画のものなのだとか…」
「ベアトリーチェ様は時折輝く蝶になって現れることがありますが、追えば必ず不幸になると言われています。その禁を破り、大怪我をして辞めた使用人もいます」
冷たい空気。 亜弥は本気の目をしてそう話す嘉音たちが、何だか怖くなった。 いや、彼らが怖いのではない。 この雰囲気が異質で、恐怖心がかきたてられるのだ。
「あんたら、本気でそんな話をしてるのよ…?」
「戦人様、すでにベアトリーチェ様はお越しになっておられます。そのようなお言葉は、よろしくないかと思います」
「ベアトリーチェ様は、ご自身を冒涜される方を好みません。その存在を疑えば、必ず不幸が降りかかります」
冷や汗が背を流れる感覚。 戦人は、凍りついたように動けなくなった。
亜弥はただただ嘉音たちを見つめている。 いや、見ていることしかできない。 恐怖からか、声が出なくなってしまっていたのだ。
「気持ちの悪いお話だとお思いでしょう、ですがね。ベアトリーチェ様は"い"るんですよ?」
熊沢の言葉で、亜弥の頭の中に真里亞が浮かんだ。
「"い"ます。それを疑われることを、ベアトリーチェ様はことの他嫌われます」
源次が強く主張する。 まるで戦人の考えを打ち砕くかのように。
ドクン、ドクンと鼓動が速くなる。
「…分かりませんか、戦人様。ベアトリーチェ様は今すでに、ここにお越しになっております」
嘉音は戦人を見据えて、きっぱりと言い切った。 その瞳は、真剣で。 自分たちは間違っていない、というものだった。
「よ…よせよ。俺には何も見えてないぜ?なぁ、亜弥もそうだろ?」
「う、うん…」
やっとのことで絞り出した声は、とても小さいもので。 亜弥はギュッと自分自身を抱きしめた。
するとそのとき。 後ろから気配が一つ。
驚き、振り返るとそこには──
「きひひひひひ」
「真里…亞…?」
怪しく笑みを浮かべ、真里亞が立ち尽くしていた。
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