「はいはい、いい雰囲気を壊してわりぃが、話を戻すぜ?」


ちゃかすように戦人は2人を引き剥がす。
先ほどの怒りはどこへ行ったのやら。
今はこめかみを少しぴくつかせ、ニヤリと笑っている。
何だか別の意味で怒っているように見えるのは、多分気のせいだろう。


「あんたら一体何を知ってるんだ?ベアトリーチェってのは何者だ?お伽噺の魔女ってだけじゃあなさそうだな?」


嘉音は無言で顔を背けた。
まるで何かを隠しているかのように。

すると戦人は、嘉音の服の襟を掴むと、無理やり自分の方へと顔を向けさせた。


「ちょっ戦人…!」

「亜弥は黙ってろ。
昨夜でなら確かに俺は部外者さ…だがな、肉親を殺された時点で立派な関係者だ。俺にもそのうさん臭そうな話を聞く権利はあるはずだぜ…?」


しん…と、厨房内は静まり返り。


「…分かりました、お話しします…」


しばらくの後、嘉音はそう返事を返した。




ゆっくりと、嘉音は話し出した。


「ベアトリーチェ様は…六軒島の森に住む、魔女であらせられます」

「だよな。森に入ると危ないってんで、亡くなった祖母様辺りが作り出したそういう脅し話のはずだ」


それを、嘉音は軽く首を振って否定する。


「いいえ戦人様。ベアトリーチェ様は実在するのです。お館様に莫大な黄金を授け、長いことお側なお仕えした、実在する方なのです」

「……はぁ?」


思わず声が上擦る。
ちらりと亜弥へ視線を送ると、困った顔をし苦笑い。

思わず、笑いが込み上げてきた。


「よせやい…祖父様の受け売りを言うのも、給料のうちだってぇのか?」


けれど、嘉音たちは本気の目をしていて。
戦人はそれを見て、笑うのをやめた。


「…マジかよ。つまりベアトリーチェって名の人物は、実在するんだな?」

「…はい、お館様が島にお屋敷を構える以前から、ずっとお仕えしている方です。…恐らく私よりも長く」

「……何てこった」


源次の返事に、戦人は息を吐く。


「霧江さんの仮説は外れたな…。祖父様にはベアトリーチェって名の腹心がいて、しかもそいつは今この島にいるんだな?」

「…はい、いらっしゃると思います」


嘉音は曖昧な答えをする。
するとそれに気付いた戦人は、眉をひそめた。


「…曖昧な言い方じゃねぇか。昨日今日そいつの顔を見たわけじゃなさそうだな」

「…はい、大変申し訳難いのですが………その…」

「何だよぅ、そこで切るなよぅ」


口を閉ざす嘉音を、肘でつつく。
すると、亜弥に思い切り睨まれた。

それを見て熊沢は苦笑すると、


「ほっほっほ…、お顔を見ようにも、ベアトリーチェ様にはお姿がありませんから…」


そう、嘉音の代わりに答えた。


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