11.見えない存在



──きひひひひひひひ

ぐるぐる、ぐるぐると笑い声が頭の中を回る。

気分が悪くなり、窓から外を見る。
雨が激しく降り注いでいて。
けれど心の中のもやもやしたものまでもは、流してはくれなかった。


そんなとき。
ガチャっという音が聞こえてきた。
お母さんが帰ってきたのだろうか、と思い亜弥は扉へ視線を向ける。
すると──
銃が、扉から顔を覗かせた。


「─!?」


表情を強ばらせてそれを見ていると、次に夏妃の姿が視界に入ってきた。


「な、夏妃おばさん…!?」


戦人は、目を丸くさせている。
それはそうだろう、夏妃の手に銃が握られているのだから。

他のみんなも、戦人と同じ表情をして夏妃を見ていた。


まさか、お母さんが…?

そんな思いが、体全体を巡りかけたとき。
夏妃は静かに銃を下ろした。


「…驚かせてしまいましたね。万一に備えて、お父様の古いコレクションの中から探し出してきたものです。
私には主人の代わりに、明日まで皆さんを守る義務がありますから」


母としての、決意の表情。
夏妃はとても落ち着いていた。


「それ…ホンモノなんすか?」

「ええ、本物です。実弾を発砲できますよ」

「お祖父様、こんなものを持っていたのですね…」


亜弥はすごい、といった瞳でそれを見つめる。

夏妃はそれを大切に持ちながら、ソファーへと腰を下ろした。


「お父様は見つけられませんでした。戸締まりは厳重に確認してきましたが…一応みんな、なるべくここに一緒にいた方がいいでしょう」

「そうねぇ?ここに全員が集まって"相互監視"している方が安心だわ」


絵羽は、手にしている扇子で優雅に自らを扇ぐ。
ちらり、と夏妃はそんな彼女へ視線を向けた。


「…それはどういう意味ですか、絵羽さん」

「別にぃ?夏妃姉さんの意見に賛成しただけよぅ?」


どうやら、夏妃は外部犯を疑い、絵羽は内部犯を疑っているようだ。

2人はしばらく視線を交わらせた後、何事もなかったように逸らした。

亜弥はそんな2人を見つめながら嘉音の隣へ移動し、彼の手をギュッと握り締めた。




【第11話:見えない存在】





時間だけが、刻々と過ぎていく。
時計を見ると、もう午後1時になっていた。

戦人は首もとを緩ませると、ふぅと息をはいた。
そして、ゆっくりと立ち上がると、部屋の外へと向かっていく。
それに気づいた夏妃は、声を掛けた。


「どこへ行くのです、戦人くん。一人では危険です」

「なら私が一緒に行きます。いいでしょう、お母様」


ソファーから立ち上がると、亜弥は戦人の隣に並ぶ。


「…分かりました。早く帰ってくるように」

「はい」


そう返事をし、2人は部屋から出て行った。


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