──きひひひひひひひ
ぐるぐる、ぐるぐると笑い声が頭の中を回る。
気分が悪くなり、窓から外を見る。 雨が激しく降り注いでいて。 けれど心の中のもやもやしたものまでもは、流してはくれなかった。
そんなとき。 ガチャっという音が聞こえてきた。 お母さんが帰ってきたのだろうか、と思い亜弥は扉へ視線を向ける。 すると── 銃が、扉から顔を覗かせた。
「─!?」
表情を強ばらせてそれを見ていると、次に夏妃の姿が視界に入ってきた。
「な、夏妃おばさん…!?」
戦人は、目を丸くさせている。 それはそうだろう、夏妃の手に銃が握られているのだから。
他のみんなも、戦人と同じ表情をして夏妃を見ていた。
まさか、お母さんが…?
そんな思いが、体全体を巡りかけたとき。 夏妃は静かに銃を下ろした。
「…驚かせてしまいましたね。万一に備えて、お父様の古いコレクションの中から探し出してきたものです。 私には主人の代わりに、明日まで皆さんを守る義務がありますから」
母としての、決意の表情。 夏妃はとても落ち着いていた。
「それ…ホンモノなんすか?」
「ええ、本物です。実弾を発砲できますよ」
「お祖父様、こんなものを持っていたのですね…」
亜弥はすごい、といった瞳でそれを見つめる。
夏妃はそれを大切に持ちながら、ソファーへと腰を下ろした。
「お父様は見つけられませんでした。戸締まりは厳重に確認してきましたが…一応みんな、なるべくここに一緒にいた方がいいでしょう」
「そうねぇ?ここに全員が集まって"相互監視"している方が安心だわ」
絵羽は、手にしている扇子で優雅に自らを扇ぐ。 ちらり、と夏妃はそんな彼女へ視線を向けた。
「…それはどういう意味ですか、絵羽さん」
「別にぃ?夏妃姉さんの意見に賛成しただけよぅ?」
どうやら、夏妃は外部犯を疑い、絵羽は内部犯を疑っているようだ。
2人はしばらく視線を交わらせた後、何事もなかったように逸らした。
亜弥はそんな2人を見つめながら嘉音の隣へ移動し、彼の手をギュッと握り締めた。
【第11話:見えない存在】
時間だけが、刻々と過ぎていく。 時計を見ると、もう午後1時になっていた。
戦人は首もとを緩ませると、ふぅと息をはいた。 そして、ゆっくりと立ち上がると、部屋の外へと向かっていく。 それに気づいた夏妃は、声を掛けた。
「どこへ行くのです、戦人くん。一人では危険です」
「なら私が一緒に行きます。いいでしょう、お母様」
ソファーから立ち上がると、亜弥は戦人の隣に並ぶ。
「…分かりました。早く帰ってくるように」
「はい」
そう返事をし、2人は部屋から出て行った。
(1/6)⇒
|