しかし対照的に、その話を聞いた亜弥と戦人は笑うことができなかった。


「…洒落にならねーっすよ、絵羽おばさん…」

「ごめんねぇ?どうせ疑われるだろうからふざけただけよ。
だから…私の立場から見れば、この殺人は私を疑わせるためのものではないかと思ってるの」


真面目な表情に戻し、絵羽は自分の考えを述べた。


「犯人が絵羽おば様を陥れようとしている…ということですか?」

「聞いていいっすか、昨晩のアリバイ」


戦人の言葉に、絵羽は瞳を閉じる。
そして昨晩のことを思い出した。


「あなたたちも知ってる通り…遺産についての話し合いは深夜にまで及んだわ…。
でも何時まで続いたかは知らない。私と主人は朝が早かったから…眠気に負けて、24時過ぎに抜けさせてもらったの」


一つ一つ、ゆっくりと詳しく説明していく。


「それを秀吉おじ様以外の人で証明はできますか…?」

「ゲストハウスに戻ったとき、源次さんに出迎えを受けたから、それが24時過ぎって証明してくれるはずよ。」


そして亜弥をちらりと見てから、


「もっとも…さっきの仮説通りに使用人もグルだとしたら、こんなのアリバイにならないけどねぇ」


と続けた。
どうやら亜弥の気に障らないか心配し、言葉を選んだようだ。
『仮説』と言ったため、亜弥は少し眉間を寄せたがそれだけで終わった。

絵羽の話を聞き、戦人は口の端を上げた。


「確かに!ってことは俺たちは今、真犯人と推理ごっこをしていることになるんすか?」

「でも私の名誉のために言わせてもらうけど…遺産目当てなら、こんな変な殺人はしないわよぅ?」


ふふっと微笑しながら、扇子を戦人に向ける。
亜弥は黙って2人の会話に耳を傾けていた。


「だって遺産相続権を喪失させるだけなら、むしろ事故死に見せかけた方がスマートでしょう?
使用人たちを抱き込んで周到に計画してたなら、なおさらそうするでしょうよ」

「そうっすね…営利で人を殺すなら、それは殺人に見せるべきじゃない…」


戦人が納得顔で頷くと、絵羽は扇子を広げた。
そして扇ぎながら、溜め息をついた。


「だからおばさんは今からとてもブルーなわけ。警察には黒幕扱いされて、さんざん調べられるでしょうねぇ…亜弥ちゃん、可哀想なおばさんを慰めて?」

「え、えっと…」


急に話をふられて、慌てだす。
あわあわ言っている亜弥を見て、


「もう亜弥ちゃんったら可愛いわぁ〜」


思わず絵羽は、抱きついたのだった。


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