客間と戻ると、譲治がポツリと話し出した。
「昨夜さ…僕は紗音に求婚したんだ。指輪を渡して…明日それを好きな指にはめて、返事をしてくれって…キザなことを言ってね」
力なく、ソファーに座る。 とてもつらそうで…。 亜弥はソファーに腰を下ろすと俯いた。 そんな亜弥の隣に座ると、朱志香は口を開いた。
「私、数年前から紗音に相談受けてたぜ。譲治兄さんのことでさ…。 紗音は嘘が下手だから、譲治兄さんのこと言ってるのはバレバレでさ。身分違いだけど、親しくしてもいいのだろうかとか、男の好きそうな物とか…どんな服を着たら喜ぶとか…色々とさ」
亜弥の脳裏に、頬を赤く染めて微笑む紗音が浮かんだ。
「価値観は人それぞれだけどよ。求婚されるっていうのは、ある意味人生の到達点だと思うんだよ。 だからきっと…昨夜の紗音は人生で一番…幸せだったと思うぜ…」
涙が零れ落ちそうになった。 両手で顔を覆って、耐える。 すると嘉音が後ろから優しく抱きしめてきた。
涙が、流れ落ちた。
「…紗音は昨夜、ゲストハウスの当番だったらしいんだ…。でも紗音は僕と一緒にゲストハウスに戻るのを恥ずかしがって…当番でないはずのお屋敷へ行き…事件に巻き込まれてしまった…!
僕が!あの日!あんな場所で!指輪なんか渡さなければ…!!」
ぎゅっと手を握りしめ、
「紗音は死なずにすんだんだ…!!」
悔やむような表情で泣き叫ぶ。 それを聞いて、戦人はその言葉を否定した。
「兄貴、それだけは断じて違う!だから…それ以上泣くんじゃねぇ…!」
う…うう…、と言葉にならない声を出して泣き続ける。 亜弥は嘉音が震えているのに気づいた。
「くそくそくそッ!私は親父たちを殺したやつを絶対に許さないぜ!!見つけ出して…私がこの手で八つ裂きにしてやる…!」
「おねえ…ちゃん」
歯を食いしばって震えながら涙を流す朱志香。 亜弥には、その名を呼ぶことしかできずにいた。
「うー、朱志香お姉ちゃん、誰が死んじゃったの?」
真里亞が座り込んで朱志香を覗き込む。 心なしか瞳に輝きがないように思えた。 その瞳が気に障ったのか、朱志香は立ち上がって怒鳴りだした。
「死んじまったぜ、みんな!私たちの親父も!戦人の父さんと母さんも!郷田さんも紗音も!!
真里亞の母さんもだよ!!」
真里亞は、ただ冷めた目をしているだけで口を開こうとしない。
「よすんだ朱志香ちゃん。悲しいのは君だけじゃない…!」
また何か言い出す前に、譲治は慌てて止めに入る。 じっと朱志香を見つめる真里亞に、戦人は目に涙を溜めて声を掛けた。
「真里亞、よく聞け…お前の母さんが誰かに殺されちまった…悲しいだろうがよ、心をしっかり…」
「…何人、死んじゃった?」
戦人の言葉を遮って、そう尋ねる。 すると朱志香が泣き叫びながら答えた。
「6人だせ6人ッ!あんな残酷なことしやがって!誰だかしらねぇが、犯人は人間じゃねぇぜ!血の色が赤いわけがねぇ!!」
「…うー、朱志香お姉ちゃんの、言う通り」
亜弥たちは真里亞に視線を向けたまま固まる。 一体、何が言いたいのだろう、そんな目で見ている。
「犯人は人間じゃない。
*が選んだ、**なだけ」
「……え?」
不安な表情をする亜弥たちをよそに、真里亞はすくっと立ち上がる。
「…おい、真里亞。…今、何て言った…?」
にっこり、と怖いくらいの笑みを浮かべる真里亞を見て、戦人は言葉が出なくなった。
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