屋敷内に戻ると、嘉音は取ってきたタオルを亜弥たちに渡した。 けれど亜弥は虚ろな瞳をしたままぼーっとしていて。 不安になって、嘉音は声を掛けた。
「亜弥様…風邪を引いてしまいます」
「…うん」
「ほら、こっちを向いてください」
嘉音は手にしていたタオルで、丁寧に亜弥の頭を拭く。 亜弥はたどたどしくも、うっすらと笑みを浮かべた。
「ありがとう、嘉音」
「いえ…」
嘉音は、もう片手で髪を撫でた。
そして── 一同は客間に向かい、歩いていった。
【第10話:飛び交う推理】
扉を開けると、けたけたけた…という笑い声。 驚き視線を向けると、テレビを見ている真里亞の後ろ姿が。
楽しそうな顔の真里亞の横顔を見て、戦人は切なくなった。
楼座が、真里亞の母が死んでしまった─
やるせない気持ちを片手で握りしめ、もう片方の手で真里亞の頭を撫でた。
「…うー?」
いきなりのことに、真里亞は不審な瞳を戦人に向けた。
時刻は7時45分──
大人たちも戻ってきていて。 亜弥は疲れが出たのか、横になっていた。
「私はお父様の所へ行ってきます。源次は急ぎ、警察へ連絡を」
夏妃の言葉に、源次は頭を下げる。 すると話を聞いていた絵羽が夏妃に声を掛けた。
「私もご一緒させて頂くわ、夏妃姉さん。蔵臼兄さんがいなくなった以上、お父様の補佐役は序列上私だもの。ね?」
「……お好きに」
眉間にしわを寄せると、そう返事を返した。
2人が出て行った後、熊沢が慌ただしく客間に入ってきた。 あまりの慌てように、秀吉が声を掛ける。
「どないしたんや、熊沢さん」
「そ…それが、朝食の配膳に行ったら…食堂に血が…!」
その言葉に、亜弥たちは食堂へ向かった。
食堂の床には、いくつもの血が点々とついていた。 どうやら、蔵臼たちはここで殺害されたようだ。
亜弥はめまいを感じ、ふらりとなる。 すると嘉音が、亜弥を受け止めた。
「どうして…だってここは、楽しく食事をするところなのに…」
「亜弥様、これ以上ここにいては毒です…。客間に戻りましょう」
心配げに亜弥を見つめる嘉音。 そんな彼を見て戦人は、口を開いた。
「俺も同感さ…この部屋を俺たちが踏み荒らしちまうのは、警察に迷惑になるぜ」
他の親族たちは、その言葉に頷く。
そして、食堂を後にした──
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