一体どれだけの時間が過ぎただろう。 そんなにも経っていないはずだ。 けれど亜弥にはとても長く感じた。
ダダダダ…という激しい足音。 その音とともに、険しい表情をした源次が部屋に入ってきた。 ずぶ濡れなのにも気を止めずに、一直線に南條の元へ。 そして耳打ちした。 その途端に南條は驚愕の表情を浮かべ、源次と共に部屋から出て行った。
「…何だ?」
事態を飲み込めず、戦人はドアを開いて様子を伺う。 すると、丁度お茶を運んで来た夏妃に、源次が話しをしていた。 しばらくした後、夏妃は先ほどの南條のように驚いた顔をして、源次と共にに走り出した。
「…何かあったのかなぁ?」
「事故でもあったとか…?」
亜弥は不安げに、朱志香の腕を取る。 そんな亜弥の頭を、朱志香はポンポンと優しく撫でた。
「戦人、どうする…?」
「…行ってみようぜ。俺たちだけのけ者にされちゃ、たまんねぇや」
戦人は、少し口の端を上げてにっと笑う。 そして、テレビを見続けている真里亞に声をかけた。
「真里亞!お前も来るか?それともテレビを観てるか?」
「うー、真里亞はテレビがいい!」
画面から視線をそらさず、返事をした。
「僕たちだけで行こう!」
「真里亞!すぐ戻るからねっ」
そう告げて、大急ぎで倉庫へと向かった。 悪夢の始まる音にも気づかずに──
バシャバシャと雨の弾く音。 大粒の雨が降り注ぐ中、亜弥たちは傘を差して駆け足で倉庫へと向かっていた。
嫌な感覚が、強く亜弥を襲う。 胸騒ぎ、というやつだ。 さらに、それはこういうときに限って当たったりする。
倉庫が見えてきた。 夏妃が傘も差さずに、俯いている。 周りは何か口にしているが、雨の音で聞こえなくて。 さらに不安がつのる。 次第に鉄と、何か生臭い臭いが鼻についた。
倉庫ももう目の前。 そんなとき、亜弥たちに気づいた夏妃がものすごい形相で両手を広げて立ちはだかった。
「来てはいけませんッ駄目ですッ!!お屋敷に戻っていなさい!!」
きつく怒鳴るようにそう口にする。 そんな夏妃に、戦人は戸惑う。
「何だよ、夏妃おばさん。…何をそんなに隠してるんだよ!」
亜弥たちは動揺を隠せない。 夏妃は言うことをきこうとしない亜弥たちに、さらに口調を荒げた。
「見てはいけませんッあなたたちには、関係ないものですッ」
涙が夏妃の頬を濡らした。 戦人は、夏妃の後ろにあるものがほんの少し視界に入って。 それは自分のよく知っている服だった。
「な…何が関係ないんだよ…だってその服はよ…」
夏妃を押しのけて、倉庫の入り口に立つ。
「うちの親父と霧江さんだろ…ッ!」
「戦人くん!!」
夏妃は泣き叫ぶ。 戦人は目の前の光景に、言葉を失う。
「──…何の冗談だってんだよ…こりゃあよぅ。…クソ親父に霧江さん……だよな?」
地面に視線を向けて、ポツリポツリと喋りだす。
「なあ…返事しろよ…何でこんなことになってんだよ…?何で二人とも…何で……ッ
顔がねぇんだよッ!!」
視線の先。 そこには血だらけの留弗夫と霧江が横たわっていた。 顔が潰され、全く判別がつかないくらいに。
「や…何、これ……?」
「……か…お…?」
「亜弥っ朱志香っ見ては駄目!」
ぐいっと2人の肩を掴むと、後ろに遠ざける。 譲治も目の前の光景に、表現を固くさせた。
亜弥はがくがくと震えだし。
「いやぁぁぁぁぁぁあああ!!」
と、頭を抱えて泣き叫んだ。
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