使用人室に着くと、紗音はゆっくりと扉を開く。 すると中にいた嘉音と源次が視線を向けた。
「…亜弥様」
「やっほー嘉音、源次さん!」
笑顔で手を振ると、源次は軽く頭を下げてきた。 嘉音はというと何を思ったか、少し息をついた。
「嘉音くん…源次様までこちらに…?」
「…蔵臼様の命令があって、シフトが変更したんだ。熊沢さん以外は、お屋敷とゲストハウスのシフトが真逆になった」
「嘉音と紗音は、ゲストハウスの深夜勤。私と熊沢さんは、ゲストハウスに宿泊。お屋敷の深夜勤は、郷田さんが勤める」
嘉音と源次は淡々と紗音に説明した。
「随分大掛かりな変更ですね…。どうして急に…」
「多分ベアトリーチェ様の手紙のせいだね」
亜弥は首を傾げた。 よく分からないときにする癖だ。 それに気づいたのか否か。 嘉音は亜弥の方を見ずに、言葉を続けた。
「僕ら3人は片翼の鷲を授かった、お館様直属の使用人。そして手紙にも、お館様の意向を示す当主の指輪の封蝋があった。 ただでさえお館様の出先として僕らを疎んでいる蔵臼様が、僕らを親族会議から遠ざけようとすりのは当然だろうね」
嘉音が口を閉じると、源次は扉へと歩む。
「…では私は向こうでくつろがせてもらおう。何かあったらすぐに呼ぶように。 今夜のお客様は…特別だ」
「…はい、源次さま」
紗音と嘉音はそう返事をした。 源次は、2人に向けていた視線を亜弥へと移す。
「もう遅いです、亜弥様もお部屋の方へお戻りください」
「イヤ!」
頬を膨らませ、亜弥は拒否する。 嘉音は、やれやれといった表情をした。
「源次様、亜弥様のことは僕にお任せください」
「わーいっ嘉音!」
「ひっつかないでください」
腕に自分の両腕を絡ませてくっつく亜弥を引き剥がそうとする嘉音。 そんな2人を見て、源次は分かったと嘉音に告げた。
「あ、あのね、嘉音くん」
「何?」
離れようとしない亜弥に諦めたのか、嘉音は引き剥がすのを止めた。
「えっと…私、お子様方にお部屋で遊ばないかとお呼ばれしてて…。嘉音くんも…亜弥様がご一緒にって…」
「嘉音もみんなと一緒にトランプしよーよ!」
無邪気に笑う亜弥を見て、一緒心が揺れる。
「私がここにいるから、たまには嘉音も遊んでくるといい」
亜弥が言い出すときかないことを、源次は知っている。 嘉音もそのことは承知だ。
けれど…。
「…いえ。僕らに遊びの誘いは必要ありません。…僕らは、家具ですから」
冷めた口調で嘉音は答える。 紗音はひどく傷ついた表情をした。
俯く紗音に、嘉音は急かすように言葉を続ける。
「深夜勤に当たってるから、ご一緒できないと謝ってきなよ…姉さん」
「う…うん」
そう返事をし、紗音は早足で部屋を出て行った。
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