08.幸福な時間



嘉音と別れた後、亜弥は朱志香たちと合流した。
譲治はずっと泣き続け疲れたのだろう、眠っている真里亞をおぶっていた。
ゲストハウスに戻ろうと廊下を歩いていると、丁度前に戦人がいた。


「戦人〜!」

「亜弥!それに朱志香、譲治の兄貴に…楼座おばさん」

「戦人くん、しー!」


譲治は背負っている真里亞を、戦人に見えるよう向けた。


「真里亞ちゃん、肖像画の前で眠そうにしてたから連れてきたんだ。起こさないであげて」


真里亞の目元は、痛々しいくらい真っ赤に腫れていた。


「僕らはそろそろ、ゲストハウスに戻ろうよ。お屋敷にいると、大人の会議の邪魔になると思う」


時計は、10時半をさしている。
楼座はふぅっと息をついた。


「ごめんね、私たちの話し合いは大分遅くまでかかりそうなの。
みんなに真里亞をお願いしてもいいかしら…?」

「任せてくださいよ、楼座おばさん!真里亞のことは、俺ら4人で面倒見ますから!」


どんっと胸を叩いて、戦人は自信満々にそう言う。
亜弥たちもにこりと笑みを浮かべた。

「みんな、ありがとう…。真里亞のこと、よろしくね」


楼座は穏やかな眼差しを向けて、亜弥たちにお礼を告げた。



【第8話:幸福な時間】





ザアアアア…と激しく雨が降り注ぐ。
そんな中を、亜弥たちは傘をさして歩いていた。

譲治と紗音は、同じ傘に入っている。
そのため、胸が譲治の二の腕に当たった。
2人は顔を真っ赤に染めた。


「かー!俺が真里亞背負ってればなあ!紗音ちゃんに傘さしてもらえて!そのお乳を二の腕にぱいん、てしてもらえたのによぅ〜!」

「そ…そうしないと、譲治様が濡れてしまうと思いまして…」


ゆでたこのように真っ赤になる2人。
亜弥は微笑ましそうに、彼らを見ていた。


「なら俺は朱志香をおんぶして、紗音ちゃんに傘さしてもらうってのはどうだい?背中におっぱい!腕にもおっぱい!」

「するかよ!!」

「ねー、私は?」

「亜弥!?」


朱志香は亜弥の発言に目を丸くした。
う〜んと戦人は考え、


「亜弥には…ほら、そんなことさせられねぇよ」

「なんか上手く誤魔化そうとしてる気が…」

「ちっ違うって!やっぱほら、好きな子には…さ…」


顔を赤くさせ、ごにょごにょと口ごもる戦人に亜弥は眉をひそめた。


「何言ってるのかわかんない」

「ガーンッ!!」

「ははっざまーねぇぜ!」


肩を落として落ち込む戦人に、朱志香は腹を抱えて笑う。
その光景を見て、紗音は緩やかに微笑んだ。


「皆様方は本当に…まるでご兄弟のように、仲がよろしいですね。羨ましいです」

「仲の良さなら、うちの親父たち兄弟には負ける気はしねえなあ。けど紗音ちゃんにも、嘉音くんていう弟がいるじゃねぇかよう」


たった今まで落ち込んでいたにも関わらず、戦人はもう復活を遂げて紗音に笑顔を向けた。


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