頭を押さえ、ふらふらと歩いていく夏妃。 先ほどの蔵臼から聞かされた話が応えたのだろう。
窓のところで立ち止まると、儚げに口を開いた。
「もう…何を考えて生きていけばいいのか…分からない」
まるで全てを否定されたような言葉を投げかけられ、相当ショックを受けてるようだ。 そんな彼女に、朱志香が声を掛けた。
「…母さん?」
「朱志香…」
「…何だよ、こんなとこに。灯りくらいつけろよ…」
「…ごめんね、母さんは頭痛が酷いの。そっとしておいてくれる?」
そう言う夏妃に、朱志香は少し遠慮がちにまた口を開く。
「…あの、随分立て込んだみたいじゃん?頭痛酷い? 私…薬もらってこようか?」
「…気遣いをありがとう。でもいいの…独りきりにして」
つらそうに頭を押さえる。 朱志香は心配そうに夏妃を見ると、思い出したようにポケットを探り出した。
「…譲治兄さんが言ってたみたいに…母さんも…私や亜弥たちのことを背負って、戦ってるんだよ…な」
「?」
夏妃はよく分からなそうに眉をひそめる。 そんな彼女に、朱志香は真里亞からもらったサソリのペンダントを渡そうと手に持った。 少しだけ、照れくさそうにしている。
「あのさ!今日私、お守りもらったんだよ。こんな玩具みたいなお守りじゃ、ご利益は期待できるか分からないけど…。 確かドアノブに下げてるといいとか…、私が持ってても仕方ないし…母さんにあげるよ!」
一瞬、驚いたように夏妃は目を丸くする。 そして嬉しそうに、表情を優しい笑顔に変えた。
「…ありがとう、朱志香」
両手で、ペンダントを受け取る。
「大切にします。朱志香には今度、私が子供の頃大切にしていたお守りを、代わりにあげましょう」
「べ…別に心配だからとか、そんなんじゃないぜ?でもまあ…どうしてもって言うんなら…」
恥ずかしそうに頬を赤らめ、ごまかすように頬を掻く朱志香に、夏妃はにっこりと微笑んだ。
「では私はもう休みます。朱志香も、あまり夜更かしをしすぎないように。亜弥にも伝えておいてくださいね」
「うん…」
そうして、2人は別れた。
ハンカチを片手に、亜弥は廊下を歩いていた。 とりあえず一旦、両親のところに行こうという話になったのだ。 戦人たちとは、後で一緒にゲストハウスに戻る予定だ。
亜弥は両親たちの部屋とは反対に歩いている。 借りたハンカチを洗いに行くため、洗面所に向かっているのだ。
そんなとき、1人の人物が亜弥に声を掛けた。
「亜弥、こんなところで何やってるの?」
「あ、嘉音」
亜弥は嬉しそうに、にっこり笑った。 けれど嘉音は顔を歪ませる。 どうしたんだろうと思っていると、嘉音は口を開いた。
「目が赤い。泣いてたの?」
「えっあ…えと…うん」
「……」
「あっでもね、戦人にハンカチ貸してもらったから!」
ほらっと、手に持っていたハンカチを、黙り込んでいる嘉音に見せる。 すると嘉音は眉間にしわを寄せた。
「それで、涙拭いたの?」
「うん…そうだけど」
「それ、誰のだって?」
「だから…戦人の」
質問を返していく度に嘉音から黒いオーラが見え、亜弥はびくびくとなる。 それを知ってか知らずか、嘉音は普段あまり笑わないにも関わらず、にっこりと微笑んだ。
怖い…!
亜弥はそう思わずにはいられなかった。 頭の端で、どうしたらこの場から逃げられるかを必死に考える。
「今、どうやって逃げようか考えてるよね?」
「ひっなななな!?」
「亜弥のことは、何でもお見通しだよ」
「うー…」
困ったような顔する亜弥に、嘉音ははぁと溜め息をつく。
「なんで…」
「え?」
嘉音を見ると、とても悔しそうな顔をしている。 ぎゅうっと拳を握りしめて。
「なんで、戦人様に頼るんだ…!」
悲しそうにそう叫んだ。 亜弥は思わず目を見開く。 そして、ぎゅうっと嘉音に抱きついた。 いきなりのことに、思わず嘉音は口をつむぐ。
「ごめんね…ごめんなさい、嘉音」
自分の胸に顔を埋めて謝る亜弥に、嘉音はとても切なくなった。
自分は一体何をしているのだろう。 嫉妬して、亜弥を困らせるなんて。 だけど…。
嘉音は、思い切り抱きしめ返す。
それでも、僕は君が──
言葉にしない代わりに、嘉音は抱きしめる腕を強くした。
そして同時刻。 戦人は、留弗夫の言った言葉に耳を疑っていた。
「─…俺は多分…今夜殺されるだろうな」
不安が募っていく。 何かが始まるような、そんな予感がした。
to be continue..
よしっ一巻の最後まで行きました! ヒロインは鼻かんだりしないという私の思い込みを、見事に破壊(笑) でも嘉音には、涙拭きましたーって可愛い嘘をつく。 我ながら可愛いヒロイン作ったなぁ。 さてっ次はついに…あれですね! 張り切っていきまーす★
20090710
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