書斎の前に親たちは集まっていた。
先ほどの手紙を真意を確かめるためだろう。
普段の余裕のある顔つきではない。
怒り、戸惑いの入り混じったものだった。

蔵臼は強くドアをノックする。


「お父さんッ!!」

「聞こえているはずです、説明してください!!」

「あの手紙に書かれていることは、本当なのですかッ!!」

「あんな理不尽な契約があるかよッ!!」


口々に中にいる金蔵に向けて声を上げる。
けれど一向に返事がこない。


「返事をしてぇっ!お父様ぁ!!」


絵羽が叫ぶ。
それを聞き、源次が金蔵に尋ねた。


「…いかがなさいますか?」

「捨て置け。私がここを出るのは、ベアトリーチェが蘇った時か私が生贄に選ばれた時だけだ」


料理を口に運ぶ。
その動作はとても優雅なもので。
物騒なことを口にしているにも関わらず、とても落ち着き払っている。


「ふふ…ベアトリーチェめ、早速始めおったか…。
源次、最も長く私に仕えてくれた使用人であり…我が友よ、礼を言う。
運が良くば、再び黄金郷で会おうぞ」

「…お館様の御心のままに」


金蔵の言葉に、源次は一列をした。


「さあベアトリーチェ、存分に今宵を楽しもうではないか。
私が再びお前に、奇蹟の力というものを見せてやる…!」


ワイングラスを掲げて、金蔵はそう口にした。





部屋の外から、親たちの話し合いが聞こえてくる。
どうやら金蔵に相手にされなかったようだ。
かなり気が立っている。
複雑な表情をし、戦人はその場を後にした。

亜弥たちのいる部屋へと戻ると、今度は朱志香が不満げに声を上げていた。


「金カネ金って!よくもあそこまで大っぴらに言えたもんだせ…うちの親たちには心底幻滅だよ…!」

「お姉ちゃん…」

「朱志香ちゃん…未成年には理解しがたいかもしれないけど、お金を得ることは単純な綺麗ごとじゃないよ…」


譲治がなだめるように朱志香に語りかける。


「家族や社員…部下の家族の生活を背負ったら、戦わなきゃならない時だってあるんだ…。
だからどうか、ご両親を嫌いにならないであげて…」

「分かってるよ!少し放っといてくれよ…!!」


どんっと戦人にぶつかる。
朱志香は何も言わずに部屋から出て行く。
戦人は朱志香が泣いていたことに言葉を失い、何も言えなかった。


「朱志香のやつ、かなりショック受けてるみたいだな…亜弥は大丈夫か?」

「う、ん。だいじょ…ぶ」

「大丈夫じゃねぇだろ、ほらハンカチ」

「うう…ありが、と…」


亜弥は受け取ったハンカチで鼻をかんだ。
それを見て戦人は絶句する。


「い、いやそこは鼻じゃなくて目を拭くべきだろ」

「はは、シリアスな雰囲気が台無しだね」

「うっ…ごめんなさい」


ハンカチを片手に、亜弥は恥ずかしそうに頬を赤く染めた。


譲治は笑った後、何かに気付いたように周りを見渡し戦人に声をかけた。


「戦人くん、真里亞ちゃんは…?」

「まだ肖像画の前でいじけて泣いてるぜ…」


首を横に振って戦人はそう答えた。
亜弥はぎゅっとハンカチを握りしめる。


「真里亞、可哀想。魔女なんかいないとか、本当は誰に会ったのか言えとか」


ぽつりぽつりと亜弥は悲しそうな声色でそう言った。

戦人は、ことの原因となった手紙を手に取る。


「全部…この手紙のせいだぜ…。ドロドロにひっかき回してくれやがって…。
『黄金のベアトリーチェ』…こいつ、一体何者なんだ…?」


その呟きに答える者は、誰もいなかった。


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