大雨の中を走っていく。
「私たちはてっきり、楼座おば様と屋敷に戻ったんだと…!」
「お屋敷ではお見かけしませんでした。楼座様は、仮眠をとられておいででしたので…亜弥様たちとご一緒かと…」
「ここに来る途中で見かけなかったのかよ?」
「申し訳ございません、傘をさし急ぎ駆け抜けたもので…」
嘉音は亜弥が濡れないようにしっかりと傘を持ちながら、朱志香の質問に答えた。 バシャバシャと走る度に水が跳ねる。
そこへ後ろから、楼座の声が聞こえてきた。
「真里亞ぁーッいるなら返事をしなさい!!」
「楼座おばさん!」
「真里亞はどこ!?譲治くんたちと一緒じゃないの!?」
「いえ、僕たちはあの後、真里亞ちゃんには会ってません」
その返事に、楼座は不安げに辺りを見渡す。
「真里亞は馬鹿正直だから、ないものを探しなさいと言ったら、ずっとずっと探し続けるわ…。雨が降ろうが、槍が降ろうが…! その愚直さを母である私が一番知っていたのに…ッ私は…ッ感情に任せて、何てことをッ!」
楼座はひどく取り乱している。 そしてまた、真里亞の名を呼び探し回る。 亜弥たちも、必死に探し回った。
そして── ついに傘をさし、地面に座り込みながらも薔薇を探す真里亞の姿を見つけた。
「真里亞ぁぁあ」
楼座は駆け寄り、ぎゅっと抱きしめた。
「良かった…本当に良かった…」
「うー…ママ…?真里亞の薔薇…見つからない…うー…」
真里亞は力のない声でそう言った。 楼座は強く強く真里亞を抱きしめる。
「後でママも探してあげるから…今日はお預けにしなさい…ね? ごめんね…、本当に悪いママでごめんね…」
その光景を見、亜弥たちは安堵した。 真里亞はぎゅっと楼座の服を掴んだ。
屋敷に戻ると、亜弥はもうすぐ夕食のため、食堂で真里亞の濡れた髪をタオルで拭いていた。
「ちゃんと拭かないと、風邪ひいちゃうよ〜」
「うー、気持ちいい…」
頬を緩め、真里亞はゆるりと微笑む。
そのときがちゃっと扉が開き、蔵臼と南條が入ってきた。
「夕食を始めよう。席につきたまえ、諸君」
その言葉に、一同は席に着く。 譲治は南條の方を向き、声をかけた。
「南條先生…お祖父様は…」
「私も友人として…晩餐には出席するよう、促したんですがな…。 今や金蔵さんの世界は、あの書斎だけです」
首を横に振りながら、南條はそう答えた。
「へっきし!」
「うー!戦人、びしょぬれー!」
真里亞は戦人を指差し、面白そうに笑う。 すると戦え人も同じように真里亞を指差した。
「必死に真里亞を捜したんだぜぇ。真里亞はちゃっかり、傘持ってたみたいだけどなぁ」
「うー、真里亞、傘持ってない。貸してもらった」
「誰に傘を貸してもらったの?ちゃんとお礼を言いなさい」
そう言う楼座に、真里亞は首を横に振った。 楼座は眉をひそめる。
「お礼を言わなきゃだめでしょう。誰なの?貸してくれたのは」
「うー、ここにはいないから、お礼言えない!うー! ベアトリーチェ!ベアトリーチェが、貸してくれたの」
一瞬、時が止まったかのように感じられた。
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