ヒュウウウ…と風が吹き荒れる。 雲行きが次第に怪しくなってきていた。
「…だいぶ風が強くなってきたな」
「早くゲストハウスに戻ろう」
ビューっと風が強く吹いた。 ひらり、とスカートが舞う。
「きゃっ」
「わっ!亜弥、見えてるぜっ!」
「何ぃ!?」
「ちょっこっち向かないでよー!」
真里亞を肩車したまま、ぐるりと体ごと亜弥の方を向く戦人。 亜弥はぎゅっとスカートを押さえた。
「っちぇ」
「うー、戦人、女の敵ー!」
「うわっ真里亞、いててて…!」
ぽかぽかと戦人の頭を叩く。 もちろんグーで。 それを見て朱志香は、腹を抱えて笑った。
「あははっもっとやっちまえー、真里亞!」
「うー!!」
「お、おぃぃい!」
戦人は慌て出す。 そんな中、紗音は懐中時計を取り出し、時間を確認した。 そんな彼女に、いち早く気がついたのは譲治だ。
「仕事の時間かい?先に戻っていいよ、紗音ちゃん」
「あの…ご一緒させて頂いて、ありがとうございました。 では、お先に失礼させて頂きます…」
ぺこりと頭を下げると、紗音は急ぎ足で帰って行った。
【第6話:消えた薔薇と笑顔】
徐々に風が強くなってきている。 庭園に着いたときには、花びらが次から次ぎへと舞うほどの勢いになっていた。
「薔薇も、今夜の風でやられちまうかもな…」
「うー…真里亞の薔薇…台風で飛ばされちゃう…!」
不安げに真里亞は口を開く。 それを聞き、戦人は譲治が弱っている薔薇に飴の包みを付けたことを思い出した。
「飛ばされちゃあ大変だ!真里亞、場所覚えてるか?」
「うー!あそこ!」
真里亞の指差す方を、亜弥たちは駆け足で向かう。
「確かこの辺りだったよな…」
「でも…ないよ?」
「少し手分けして、別の所を探してみようぜ」
「うー!!」
戦人の提案に、真里亞は怒ったように彼の髪を引っ張った。
「いてててて、何だよ!?」
「ここ!真里亞の薔薇はここなの。ここにあるの…!」
ある一点を指差す。 けれどそこに、目印のついた薔薇はない。
戦人は眉間を寄せた。
「ここにはないぜ…?別の所だろ…?」
「ここなの。真里亞の薔薇はここなの…! 探して…探して!!」
仕切りに訴える真里亞に、戦人は思わずたじろぐ。 真里亞はさらに力強く声を張り上げ出した。
「真里亞の薔薇!真里亞の薔薇がない!! ない、ない、うー!うー!!」
「目印つけた薔薇は手前の目立つとこに生えてたはずだぜ?なぁ、亜弥」
「うん、ねぇ真里亞。別の場所じゃ…」
「ここなの!ここにあったのに!!真里亞の薔薇!」
うーうーと叫び、地団駄を踏む。 そんな真里亞に、亜弥たちは困惑の表情を浮かべた。
「参ったな…」
「真里亞はたまに、すごく頑固になるときがあって…」
真里亞はただただ必死にうーうーと叫び続ける。 亜弥は、何だか不安な気持ちに陥っていた。
あるはずの薔薇が『ない』なんて…。
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