亜弥は目をキラキラと輝かせて、手帳を覗き込む。 亜弥の場合は黄金云々というより、ただ単に謎解きがしたいようだが。
戦人は、碑文を口に出して読む。 そして、『故郷』は昔本家があった小田原だと推理した。 譲治はそれを聞き、小田原には『早川』という鮎の泳ぐ場所があると述べた。 そこを下っていくと、小田原城の辺り。 そして小田原城から北へ行くと『曽我岸』という地名があり、そこまでは自分たちも考えたと譲治は告げた。
けれど何だかぱっとしない。 他の文が解けていないからだ。
「お館様は本家が滅びかけた関東大震災について、他人事のように語られることがありましたので…。 もっと遠方にお住まいだったのかもしれません…」
「お祖父様は分家筋だったそうだからね…」
「スタート地点が間違ってるとしたら、進みようがないぜ」
「そうだね…」
亜弥はう〜んと困ったように眉間を寄せる。 と、戦人は何かに気がついたように手帳をぴしぴし弾いた。
「待てよ?鍵がなくても扉はブチ壊して入ることもできるはずだぜ? この最初の5行はすっとばして、先へ進んでみようじゃねぇか」
「でも戦人、その先はすごく物騒なこと書いてあるよ…」
「生贄…二人を引き裂け…か」
「えぐりて殺せなんて…気持ち悪い話だぜ…」
朱志香は不安げにうつむく。
そんな中、真里亞は一人、みんなから離れて砂浜に絵を描いていた。
「少なく見積もっても、第八の晩までに11人が生贄にされなきゃならない…。 …そして第九の晩にその生贄で、魔女が蘇って…
『誰も生き残れはしない』…」
「結局はみんな死んじゃうんだ…」
亜弥は震える声でそう言った。
真里亞の描いていた絵は、波で消されてしまった─
ザザ…ザザ…と、波の音が嫌に大きく耳に入ってくる。 亜弥は不安そうに息をついた。 するとそんな亜弥に気づき、朱志香はそっと肩に手を置いた。
「みんな死んだ後に黄金郷に至るだろうって言われても困るぜ。
その後の四つの宝も、死人や愛を蘇らしたり起きた魔女様がまた眠ったり…魔女様が絡んでくると、急にうさん臭くなるよなあ」
亜弥を安心させるため、朱志香は冗談めかしてそう言った。 その言葉を聞いた真里亞の顔が不機嫌そうに歪む。
「…て言うかよ。そもそも祖父様の黄金伝説にも、妙な言われがあった気がするぜ…」
「うん、確か…悪魔召還の儀式の果てにベアトリーチェを呼び出し、己の魂と引き換えに10tもの黄金を授かった…って」
ポツリ、と静かに亜弥はそう言った。
「…大金持ちからの融資を、魔女の黄金に例えたという解釈もできなくはないけど…。 200億の札束ならいざ知らず…、10tの黄金が今も一か所に眠っているというのは、現実的じゃないね。 金はひどく重いから、財産の備蓄には向かないし…」
譲治は細かな説明をする。 それを聞くと、朱志香は笑い出した。
「あっはは!最初に黄金をくれたのも魔女。碑文の中身も魔女まみれじゃあ、さすがに馬鹿馬鹿しくなっちまうな」
「違いねぇや。魔女なんて…地球上のどこにいるってんだ」
朱志香の言葉に、戦人もまた笑い出した。
─バシッ
真里亞が戦人から手帳を奪い返す。 どうやらかなりご立腹のようで、眉間を寄せている。
「うー…魔女はいる!いるのに戦人が信じない…!!」
ぎゅっと手帳を強く握り締める。 そしてページを捲り、絵の描いてある場所を強く叩き出した。
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