食堂から出てきた亜弥の姿を見て、嘉音は思わず眉をひそめた。
そして、はぁ…とため息をついて、亜弥に濡れたタオルを手渡した。


「…また派手にやったね」

「えへへー、やっちゃいました」
「やっちゃいましたじゃない。…熱かっただろ?」

「これくらい全然へっちゃらだよ!紗音が怒られることに比べたら…」

「…亜弥」


亜弥は紗音を庇うために 、ワザとカップを落としたのだ。
あのまま何もしなかったら、きっと絵羽はさらに酷いことを口にしていただろう。
そしてそれは、夏妃を怒らせるものに違いない。
怒りの矛先は間違いなく、紗音に向くだろう。
亜弥はそれを防ぐために、ワザとあんなことをしたのだ。


「あんまりむちゃ…しないでよ」

「え、何か言った?」

「別に…」

「ふーん。それよりどうしてタオル持ってたの?」


スカートを捲り、太ももを拭いていく。
嘉音はそれを見ないよう、亜弥の反対方向を向いた。


「すごい音がしたから…亜弥がコップか何かを落としたんじゃないかって思ったんだ」

「すっごーい!名推理!」

「茶化さないでよ…。ちゃんと拭いた?」

「うんっバッチリ!嘉音、ありがとう」

「どういたしまして」

「じゃあ着替えてくるね〜」


亜弥はスカートを履き替えるために、部屋へと向かおうとする。
が、何を思ったか、くるりと嘉音の方を振り返った。


「後、約束守ってくれてありがとう」

「…え?」

「2人のときは、敬語無し。それから、呼び捨てにするっていう約束」


ちゃんとそれを守ってくれた。
それが本当に本当に嬉しかったようだ。



「…だって、僕たちは」


ふっと微笑する。
これは、亜弥専用。
他の人、紗音にさえも見せない笑顔。

だって、それは…


「恋人、なんだから…当然、だろ?」


家具の自分でも、君の前では『人間』でいられる。
君を愛することが、できる。
それを亜弥、君が教えてくれた。

その言葉に頬を赤く染めて嬉しそうに微笑む君を、とても愛しいと思った。


「…僕も部屋まで行くよ。心配だし」

「でも、お仕事中でしょ?」


その申し出に嬉しそうな反面、心配そうに亜弥は尋ねる。
嘉音は構わず歩み寄り、手を取った。


「すぐに戻れば大丈夫だから。ほら、行くよ」


少々強引で、けれど優しい嘉音に亜弥の頬は緩んで。


「えへへっ嘉音大好き!」

「…僕も」


ぽつりと返された返事に、心が温かくなった。



to be continue..


親たちの前でだけ性格の変わる亜弥(笑)
それにしても、長かった…(汗)
どうしても最後の嘉音との会話を入れたかったんです*´`*
ちなみに2人が付き合っていることは、夏妃は知っています(伏線を敷いておきました)
反対しているけれど、嘉音のお陰で亜弥の我が儘っぷりが改善されたので、あまり強くは言えないのです。
まあ夏妃は亜弥にかなり甘いので、いつか許してくれるでしょう^^

20090701